第37話
祐一はなおも顔をしかめたままで、ユノは満面の笑みを浮かべている。
カズも立ち上がり、にやにやしながら祐一を見ていた。
犯人がそこにいる保証はどこにもなかったし、あとから振り返れば、理屈も無理矢理だ。しかし、口実としては十分だったのだ。
少なくとも、ユノとカズを動かすのには。
案の定、ユノが挑発的に言った。
「なぁ、祐一、行こうぜ」
祐一は諦めを表すために苦笑し、自転車に跨った。
それを見て、ユノとカズ、そしてわたしも自転車のハンドルに手をかける。
わたしは山頂を正面に見据えた。
空はすっかり暗くなり、山肌は黒い森に覆われている。
県境の一部になってはいるとはいえ、客観的に見れば、かなり低い山である。
けれども、その日、目前に見据えたその姿は、少年のわたしに威容を誇っていた。
そして、わたしたちはひたすらに山道を上っていった。
これほどまでに延々と続く上り坂を自転車で走ったことはなかった。
その勾配に悪戦苦闘し、これまでの蓄積疲労も加わって身体の限界を感じながらも、わたしは無言で自転車を漕ぎ続けた。
そこには、この頃のわたしたち特有の意地があり、どんな理由があっても、自分だけが進むのをやめるわけにはいかなかったのだ。
暗い山中は見通しが悪く、街灯もごく稀にあるだけだった。
それでも、一本道なので迷うことはない。
自動車とすれ違うことさえなく、光といえば星や月の光であり、音といえば虫の音や森がわさわさと揺れる音だった。
心なしか、街にいるときよりも星が明るく、風の音が耳元で感じられる。
「ここだ」
ユノが振り返ってそう叫び、わたしは久しぶりにブレーキを使った。
一時的に勾配が緩くなっている場所で、数メートル先に街灯があり、比較的、視界が確保できる場所だった。
「あの街灯のところから下りる」
ユノはそう言ったが、街灯の先には急勾配の上り坂しか見えない。
しかし、問い質すだけの体力と気力は既に使い果たしていた。
ユノが自転車を降りたので、わたしもそれに倣う。
身体がじんじんと熱く、足は自分のものでないような感覚がした。
昔の囚人が強制されていたような、鉄球つきの足枷を嵌められたらきっとこんな感じなのだろうと思われるくらいに足が重く、わたしはふらつきながら歩きだした。
沈黙を保ったまま、わたしたちは街灯の下へと歩を進めた。
街灯に照らされた三つの顔はどれも一様に紅潮していて、半ば確信しながら自分の頬に手を当ててみると、テニスの試合をした直後のように熱かった。




