第35話
わたしは黙ってユノの隣から離れ、元の位置である集団の最後尾につけた。
わたしの前を走る祐一がおもむろに振り返ってわたしに叫ぶ。
「あれ以外の廃棄品は、全部あのゴミ袋の中にぐちゃぐちゃになって入ってるんだってさ」
「もうわかったから、もういい」
わたしがそう叫び返すのを聞いて、祐一はしかめっ面をして前を向いた。
それ以降、わたしたちは一言も発さずに自転車を走らせ続けた。
いちめん橙に染まった空に、少しずつ濃青が侵食してきていて、きれぎれの雲が赤紫色の影をつくっている。
太陽は山脈の裏へ沈み、山際の光がますます強くなっていた。
山道への入り口が近いのだろう、道路沿いの建物はさらに少なくなり、歩道の幅も徐々に狭まってきている。
ほどなくして、空色が夕闇の染まっていく頃合いで、ユノが振り向きざまに「止まれ」と叫んだ。
わたしたちは急停止した。
ユノは慌てた様子で自転車を降り、身をかがめてわたしたちを手招きする。
わたしたちも自転車を降り、ユノと同様に身をかがめ、その状態のまますり足気味に歩いてユノのそばへ寄った。
わたしはユノのすぐ右後ろにいて、わたしの右がカズ、左が祐一だった。
ユノとカズ、そして祐一はしきりに目配せしあっていて、既に何らかの異常な状況を把握しているようだった。
わたしはユノにできるだけ顔を近づけて囁いた。
「何かあったの?」
振り向くことはせず、前方を指差してユノはわたしに訊いた。
「白い車が見えるか?」
わたしはユノの指先が示す方向へ視線をやった。
道路が山へと入っていく手前、背の高い草の茂みに生えた木と木の間に、ぼんやりと白いものが見える。
よく目をこらすと、それは車体の一部であり、後部ドアのあたりだった。
わたしが小さく頷くと、ユノは続けた。
「あそこに、俺たちがたまに使う小屋があるんだ。これまで誰か人がいたことなんてなかった。でも、いまは車が停まってて、誰かが来てる。だから、とりあえず様子を見てる」
わたしたちは黙ったまま白い車を見続けた。
額から、首筋から、腋から、大量の汗が噴き出てくるのをわたしは感じた。
自転車を漕ぎ続けていたから、というのも理由の一つだろう。
運動中よりも、運動をやめた直後により汗は出てくるものだ。
けれども、少なからず緊張のためでもあった。
わたしは目に入りそうなった汗を手の甲で拭った。
じっと待っていると、車の近くに季節はずれの黒いジャンパーを着た男が現れた。
男は車のドアを開け、再び木の陰へと戻っていく。
そして、次に現れたときには、俯き加減の髪の長い少女を伴っていた。
少女が開いたドアから車中へと入っていく。




