表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/50

第35話

わたしは黙ってユノの隣から離れ、元の位置である集団の最後尾につけた。


わたしの前を走る祐一がおもむろに振り返ってわたしに叫ぶ。


「あれ以外の廃棄品は、全部あのゴミ袋の中にぐちゃぐちゃになって入ってるんだってさ」

「もうわかったから、もういい」


わたしがそう叫び返すのを聞いて、祐一はしかめっ面をして前を向いた。


それ以降、わたしたちは一言も発さずに自転車を走らせ続けた。


いちめん橙に染まった空に、少しずつ濃青が侵食してきていて、きれぎれの雲が赤紫色の影をつくっている。


太陽は山脈の裏へ沈み、山際の光がますます強くなっていた。


山道への入り口が近いのだろう、道路沿いの建物はさらに少なくなり、歩道の幅も徐々に狭まってきている。


ほどなくして、空色が夕闇の染まっていく頃合いで、ユノが振り向きざまに「止まれ」と叫んだ。


わたしたちは急停止した。


ユノは慌てた様子で自転車を降り、身をかがめてわたしたちを手招きする。


わたしたちも自転車を降り、ユノと同様に身をかがめ、その状態のまますり足気味に歩いてユノのそばへ寄った。


わたしはユノのすぐ右後ろにいて、わたしの右がカズ、左が祐一だった。


ユノとカズ、そして祐一はしきりに目配せしあっていて、既に何らかの異常な状況を把握しているようだった。


わたしはユノにできるだけ顔を近づけて囁いた。


「何かあったの?」


振り向くことはせず、前方を指差してユノはわたしに訊いた。


「白い車が見えるか?」


わたしはユノの指先が示す方向へ視線をやった。


道路が山へと入っていく手前、背の高い草の茂みに生えた木と木の間に、ぼんやりと白いものが見える。


よく目をこらすと、それは車体の一部であり、後部ドアのあたりだった。


わたしが小さく頷くと、ユノは続けた。


「あそこに、俺たちがたまに使う小屋があるんだ。これまで誰か人がいたことなんてなかった。でも、いまは車が停まってて、誰かが来てる。だから、とりあえず様子を見てる」


わたしたちは黙ったまま白い車を見続けた。

額から、首筋から、腋から、大量の汗が噴き出てくるのをわたしは感じた。


自転車を漕ぎ続けていたから、というのも理由の一つだろう。

運動中よりも、運動をやめた直後により汗は出てくるものだ。


けれども、少なからず緊張のためでもあった。


わたしは目に入りそうなった汗を手の甲で拭った。


じっと待っていると、車の近くに季節はずれの黒いジャンパーを着た男が現れた。


男は車のドアを開け、再び木の陰へと戻っていく。

そして、次に現れたときには、俯き加減の髪の長い少女を伴っていた。

少女が開いたドアから車中へと入っていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ