第32話
コンビニの駐車スペースがやたらに広い。
正面に連なる山脈の際が、既にほんのりと橙色に染まっている。
直進を続けていたユノはようやく左折し、路地へと入った。
しばらく進んでから、道の端、月極駐車場のコンクリート塀沿いに自転車を停める。
自転車を降りると、疲労で足が震え、地面に触れる靴底の感覚はふわふわと浮いているようだった。
わたしたちは路地の中央で円になって集まった。
自動車や自転車どころか、人が歩いてくる気配さえしない。
周りの住宅もどことなく寂れていて、夕空がそれを余計に暗く見せていた。
全員の顔を見回し、ユノが来た道を指差して言った。
「さっき曲がったところにケーキ屋があっただろ。あそこのケーキとか、シュークリームを貰う」
夕陽の逆光で見づらいが、ユノの指差す先には確かにケーキ屋が見える。
左折したときのことを思い返すと、店自体は小さかったものの、国道との間に三台分ほどの駐車スペースがあった気がした。
「でも、どうやって?」
わたしが訊くと、ユノの代りに祐一が答えた、
「廃棄物を狙うんだ」
「やっていいの? そんなこと」
「無断でそれを持っていくのも確かにダメだろう。でもな、俺らがやるのはヒロが想像してる方法ですらない」
「じゃあ、どんな方法なの?」
わたしの問いに、今度はユノがにやりと笑って答える。
「見とけば分かるさ」
わたしは顔をしかめて訊いた。
「お金、あるんじゃないの? 買えばいいじゃん」
「節約節約。金もそんなにあるわけじゃないし、こっちの方が面白いだろ?」
ユノは軽妙に言い放つ。
この清々しいまでの度胸はどこから湧いてくるのだろうか。
わたしは自分の心に、恐怖と同じくらいの憧憬が生じていることを不思議には思わなかった。
むしろ、頭の中から聞こえてくる躊躇いの声へ疑念を抱きはじめていた。
この声を無視できるようになれば、あんなにも自由に見えるユノの心に近づけるのかもしれない。
突然、バイブ音とともにわたしのスマートフォンがポケットで震えだした。
わたしは慌ててそれを掴み、画面を見る。
そこには母の名前が表示されていた。
わたしは「拒否」を選び、そのまま電源も切った。
ユノがわたしの隣に来て、画面を覗きこみながら訊く。
「誰から?」
「親だよ」
「なんだ。面白くないな」
親の話を掘り下げられるのはなんとなく恥ずかしいので、わたしはスマートフォンをポケットにしまい、話題転換のためユノに訊いた。
「で、いつやるの?」
「まぁ、待てよ。もうちょっともうちょっと」




