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第31話

わたしは祐一を肘で小突いて訊いた。


「万引きでもするの?」

「いや、でも違法なことは間違いない。ユノはある意味いいやつだよ。俺のときもこうやって色々してもらったり、見せてもらったりしたから。あいつなりの気配りだと思って覚悟するんだな」


わたしたちは最上階のトイレを借りてから一階に降り、夕方ならではの続々と入店してくる客の流れに逆らいながら百貨店を出た。


気温は少し下がったが、朝と同じ生ぬるい気配の風が頬をなでる。


玄関のところで、「ちょっと待ってろ」と言ってユノが百貨店の中に戻っていったので、三人でユノを待つことになった。


玄関前の駐車場は自動車で混雑している。


わたしは百貨店の壁面に設置された電光掲示板に目をやった。

天気予報が終わり、ニュースが流れ始めるところだった。


トップニュースは、死体の発見により、新聞に載っていた連続誘拐事件が誘拐殺人事件になったということだった。


次のニュースは、有名政治家の汚職問題。


「ごめん、待たせた」


その次のニュースに移りかけたところで、ユノが満面の笑みと共に帰ってきた。


祐一がユノに訊く。


「なにしてたんだ?」

「これが必要だと思って」


そう言って、ユノは小さな懐中電灯を鞄から取り出した。


祐一が「盗ってきたな」と顔をしかめ、ユノは自慢げに「まぁね」と答え、カズがそれを見て微笑んだ。


「どこに行くの?」


わたしはユノに訊いた。

ユノは懐中電灯を鞄にしまいながら答える。


「ついてくれば分かる」


それから、わたしたちは自転車をひたすらに漕いだ。


ユノを先頭に、カズ、祐一、そしてわたしが続く。

進路は、一〇三号室に向かう道とは反対方向。

わたしたちが通う小学校のそばを通り過ぎ、そのまま校区を逆側に出る。


街の中心部から遠ざかるにつれ、沿道には外食チェーンの大型店舗や、自動車の販売店が目立つようになる。


わたしにとって、ここまで自転車で来たのは初めてだった。


あまりにも長く走り続けるので、ポケットからスマートフォンを取り出して時間を確認すると、もう四十分近く走っていることがわかった。


わたしはユノに届くよう、精一杯の大声で叫んだ。


「まだ着かないの?」

「もうちょっとだ」


振り返ったユノの、掠れた叫び声がわずかに聞こえた。


こうなったら仕方がないとわたしは覚悟を決めた。


実のところ、わたしはこの遠出に理由なき恐れを感じつつも、それ以上に、理由なき高揚を感じていた。


道路を走る自動車の量が目に見えて少なくなりはじめ、家々の間隔が徐々に広くなり、田んぼや畑や、野ざらしの空き地がポツポツと現れてきた。

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