第3話
「サンキュー。でも、わざわざ二つに分けなくてもいいのに」
彰がはにかみながら、しかし、遠慮するそぶりもなく二つの袋をまとめて掴んだ。
「一つずつに決まってるでしょ」
はやる彰を藤本さんは説教調で諭すと、指を器用に使って彰の手から袋を一つだけ奪い去った。
「はい、富永くん」
その袋は、藤本さんの手からわたしの手へと渡される。
「なんでヒロにもあるんだよ。逆のとき俺には何もなかったじゃん」
彰がすかさず抗議して、わたしが言いかけた「ありがとう」は口の中で霧消する。
「それはそれ、これはこれ」
藤本さんは大人びた口調でそう言った。
精神的には女子の方がずいぶん大人びていた時期だった、なんて思うようになったのは、それこそ自分自身が大人の年齢になってからのことだ。
「差別だ」
彰がぼそりと呟く。
わたしは「差別だな」と同調しつつも、心の中では優越感に浸っていた。
彰の言う通り、ちょうど二週間前、わたしの誕生日には、わたしにだけプレゼントがあったのだ。
「まぁ、とにかくおめでとう」
藤本さんは彰の言葉の内容をほとんど無視して答えると、「じゃあね」と言って女子の集団へ走り去っていった。
わたしは、そしておそらく彰も、その華奢な後ろ姿に目を奪われていた。
少し濡れた髪が快活に跳ねるのを、わたしたちはしばらく見つめていた。
藤本さんを文字通り見送り、わたしはすぐ近くのコートで行われている六年生同士の試合に目をやった。
このテニススクールでも実力上位の二人である。
どちらかが得点するたび、雄叫びのような掛け声が練習場に響いた。
長いラリーを見ていると、彰が唐突に呟いた。
「やっぱり藤本は可愛いよな。ほら、あそこ」
彰は他の女子と談笑する藤本さんを指差した。
わたしもつい、丈の短いテニスウェアから伸びる細い足に視線を向けてしまう。
けれども、わたしは素直な返事ができるほど成熟していなかった。
「まぁ、他の女子に比べればそうかもね」
「いや、圧倒的だろ。本人も絶対に意識してるよ。今日だって、誕生日を祝うのにあの態度だ。しかも、貰ったクッキー、ヒロのと全く同じだし。ヒロが羨ましいよ」
「たまたまだよ、きっと。それに、ショウは誕生日だからって露骨に媚びてくる女子がいいの?」
わたしは懸命に大人びた言葉を探してそう言った。
「可愛ければいいんだよ。だいたい、他の女子はウザいやつばっかりだけど、藤本くらいじゃん、ああいうことをしてくれるのは」
口調こそ荒っぽいが、彰の意見は男子小学生の観点としては的を射ていた。