第29話
時間を確認すると、ちょうど二時だった。
「祐一、ヒロ、そんなところで暑いだろ?」
玄関からわたしたちの姿を認めたあとの、ユノの第一声がこれだった。
祐一がなにも答えなかったので、わたしがユノと喋ることになった。
「暑いね」
「じゃあ、涼みにいこう」
「どこに?」
「百貨店」
「――わかった」
わたしが承諾の言葉を述べると、ユノはにっと笑って振り返り、再び外に出ていった。
わたしはテニスバッグを持ち上げてその重量を感じ、いったん降ろしてから少し考え、スマートフォンゲーム機をテニスウェアの広いポケットに入れた。
それ以外は全てテニススクールに行くためのものだったので、テニスバッグごと置いていくことにした。
百貨店に着くと、わたしたちはユノを先頭に最上階までエスカレーターで上った。
道中、祐一がわたしに囁いた。
「ユノはここでよく万引きしてるんだが、よく堂々と来れるよ」。
最上階は本屋と飲食店が入るフロアで、わたしたちは中華料理店の前に設置されている椅子に並んで座った。
本来は客が待ち時間に座るために用意されているものである。
ユノとカズが鞄からスマートフォンゲーム機を取り出したので、わたしもポケットから同じものを取り出し、以前カズがやっていたものと同じソフトを持っていることを告げた。
ユノは途端に興奮して、店内の迷惑を顧みない大声で言う。
「持ってるじゃん。対戦だな。祐一も出せよ」
祐一は渋々といった態度で開いたばかりの本を鞄にしまい、ゲームを取り出した。
ユノが画面に視線を落としたタイミングで祐一がこちらに批難の表情を向けてきたので、わたしは会釈をしながら口の形で「ごめん」をつくる。
あまり納得いかない様子で操作を始めた祐一の横顔を見て、わたしは同情した。
結局、祐一はここでも嫌々ゲームをしているのだ。
ゲームは強い順にユノ、祐一、カズ、そしてわたしだった。
それでも、実力はかなりの僅差で、勝敗は使うキャラクターの相性や運次第だった。
ここでこんなことをしていれば注意の一つや二つは受けるのではないかと思っていたが、「誰かの子供だろう」という目で誰もが通り過ぎていくのを見て、わたしはその緊張感から脱していった。
ゲームをしているあいだ、わたしは学校に行かないことを親や教師から咎められないのかとユノとカズに訊いてみた。
「学校、面白い?」と言われて以来、たまにしか学校に行かない理由を聞きたかったのだが、いきなりその質問をするのは躊躇われた。




