第27話
「図書館から帰ってるときに、『一時に帰って来る』って連絡があったよ」
「だったら、二時ごろに来るな」
祐一が後ろでそう呟いた。
「じゃあ、行ってくる」
と、わたしが玄関扉を開けながら言うと、
「おう」
という気のない返事が、扉の閉まる金属音に紛れて聞こえてきた。
わたしはママチャリに乗り、曲がりくねった住宅街の細い道を国道に向けてゆっくり進んだ。
百貨店近くの住宅街とは違い、土曜の昼下がりでも通行人が少なく、道中すれ違ったのは手押し車を押して歩く一人の老婆だけだった。
交通量の多い片側二車線の国道に出てたところで、わたしは信号に引っかかった。
国道側の信号点灯時間は長く、なかなか青にならない。
排気ガスの臭いが鼻腔を刺激した。
なにげなく周囲を見渡すと、わたしの左側、国道沿いの歩道を女子の集団が歩いてくるのが見えた。
全員テニスウェアを着用し、テニスバッグを背負っている。
今度こそわたしと同じテニススクールに通う同級生だった。
四人で横並びに歩く女子の右から二番目に、わたしは藤本さんの姿を認めた。
藤本さんがここを通ることを、わたしはこのときはじめて知った。
一瞬、どう隠れようかと案じたものの、ちょうど信号が青になったので、わたしは急いで国道を渡り、振り返って反対側の歩道から藤本さんを見つめた。
行き交う自動車の隙間に藤本さんの姿は隠れたり現れたりして、その一つ一つの表情と動作を心に焼きつけようとわたしは努力した。
笑顔になったり、驚いたり、テニスウェアの首元をつまんで扇ぎ、風を中に送り込もうとしたり。
なにかの説明のためか、遠くと自分を交互に指差したりしていた。
藤本さんは、今日の練習で彰と喋ったりしたのだろうか。
わたしの欠席を気にかけたりしてくれただろうか。
わたしは一ヶ月ほど前に、彰が嬉しそうに言っていたことを思い出した。
「中学生になったら、藤本と同じ学校に通うんだぜ。同じクラスになれるかもしれないし、学校のテニス部にも入るなら、一緒にできるかもしれない。最高だな」。
わたしは曖昧な返事しか出来なかった。
両親には以前から私学の受験を薦められていたからだ。
ユノとカズが通う小学校から来る生徒のせいで中学校が荒れている、というのが両親の言い分だった。
わたしは両親の言葉にも曖昧にはにかんで、結局、塾では私立受験のコースに所属している。
塾の先生はどこにでも合格できると言い、両親はしきりに具体的な校名を挙げていて、わたしがそこを受験することに合意していると思っているだろう。




