第26話
「学校に行かなくなってからは家で本ばっかり読んでたんだが、先生が訪問してくるようになっちまって。話すのが面倒だったから、外に行くことにした。でも、平日の午前中にいられるところは少なかった。中央図書館の存在にもそのときはまだ気づいてなかったからな。それで、どこか遠くにいけばいい場所が見つかるだろうと思って、山の麓まで自転車で行ったんだ。そのときに見つけたボロい小屋で過ごしてたら、ユノとカズに見つかった。それ以来、平日はここにいて、まだ大人には見つかってない。先生も諦めたのか、もう家には来てないみたいだけど、俺はここが気に入ってるからここにいる。最近は暑すぎてクーラーが恋しいこともあるけどな」
わたしは軽く頷いた。
「僕もこの場所、結構好きだよ」
理由は上手く言葉にできなかったが、わたしはこの部屋に奇妙な安寧を見出しはじめていた。
「なぜだかわからんけどヒロはユノとカズにも認められてるみたいだし、自由に使えばいい」
無愛想で投げやりな祐一の話しぶり。
「ユノとカズはちょっと苦手だけどね。あと、万引きも」
わたしは祐一が出した名前にふと思い立ち、そうつけ加えた。
わたしはなんの気なしに言ったつもりだったのだが、祐一は眉をぴくりと吊り上げた。
「俺だって心の底から歓迎してるわけじゃないよ。万引きはユノがやれって言うからだしな。あの感覚は忘れられない。背筋は寒いし顔は熱いし、心臓の音が耳のそばで聞こえる感じだった。スリルはあったけど、根本的に度胸がないからもうやりたくはないな」
自嘲的な祐一に、わたしは訊いた。
「次から新刊はどうするの?」
「図書館に入るのを気長に待つさ」
偶然にも、ここで二人同時に小さなため息をついた。
会話が途切れると、喋りすぎたためか、わたしは喉が渇いていることに気づいた。
「飲み物買ってきたいんだけど、近くに自販機とかある?」
わたしがそう訊くと、祐一は右手の人差し指を立て、大げさに、はるか遠くを示すように掲げた。
「すぐ近くにはない。一番近くて、国道渡ってすぐのところにあるやつだな」
自転車ならさほど時間はかからない距離だ。
わたしはゆっくりと腰をあげた。
ずっと座っていたためか、軽い立ちくらみを感じる。
起立したままこめかみを押さえて硬直するわたしを見上げながら、祐一が訊いてきた。
「そういえば、ユノとカズから連絡は? いつもならそろそろ来るはずだと思うんだが」
血の巡りを回復したわたしは、玄関に向かって歩き出しながら答える。




