第25話
天井からインスピレーションを受けることは叶わず、わたしは姿勢を元に戻し、「教えてよ」と呟いた。
祐一がため息をつく。
「人間関係だよ。同級生が興味あることに、俺はちっとも興味がない。あいつらは俺と話してもつまらないだろうし、俺も話してて面白くない」
それだけの理由で何ヶ月も欠席しているのかと思うと、わたしの怒りは再燃した。
しかし、それを胸中に抑えながら、わたしは祐一に言った。
「僕だってそうだよ。六年生になって、みんな変わってきた。習い事も全然違うし、インターネットで何を見ているのかも違うし、やっているゲームも違う。でも、小説と伝記が好きな人はいない。深夜アニメを見てるやつがいても、本が好きなやつなんていないんだ。それでも、みんなの話にはある程度合わせなきゃいけない。そのために読む漫画だって、面白くなくはないけどね。そういうふうに、誰でもある程度我慢してるんじゃないのかな」
わたしがそう言うと、祐一は少し驚いた表情をして、「羨ましいね」と、先程わたしが言ったように、露骨にわたしの真似をして呟いた。
「なにが?」とわたしが訊くと、祐一は元の皮肉めいた表情に戻る。
「みんながみんな、そこまで我慢してるわけじゃないと思う。ヒロが昔から我慢し続けてるって言うなら、いまはもう我慢することに慣れきってて、自分と周りの違いに対応できてるだけだ。現に俺は違った。これまでは、俺がそのとき喋りたいことをそのまま喋ってても、なにも問題なんて起こらなかった。だから、誰も俺の話したいことを聞いてくれなくなったのに戸惑ったんだと思う」
「祐一がしたい話ってなんなの?」
「例えば、これかな」
祐一は壁から背中を離し、横に置いた鞄に手を入れた。
中を見ずにごそごそと漁り、祐一は一冊のハードカバーを掴み出す。
プラネタリウムのような、やたらとくっきりした星空が表紙を飾り、白抜きの大きな文字で書かれたタイトルは小中学生向けの宇宙科学解説本であることを示していた。
「そんなん読むんだ」
科学全般にあまり興味のなかったわたしは、自分語り好きの年配教師が昔話の途中で唐突に投げかけた意味のない質問に答えるときよりも呆けた声でそう言ってしまった。
「興味ないか……」
祐一は少し顔をしかめただけだったが、その意気消沈ぶりは十分理解できた。
しかし、わたしは祐一の話の続きが聞きたかった。
「その話はあとで聞かせてよ。学校に行かなくなった理由もわかったし、そろそろ家出の話をして欲しい」
「ああ、そうだった。ごめんな」
祐一はしかめ面を維持したままリュックに本を戻し、再び壁にもたれた。




