第24話
「羨ましいよ。家に帰っても親がいないって」
祐一は一瞬きょとんとしたが、すぐに皮肉めいた表情を取り戻した。
「寂しそうとか言わないんだな」
「親がいたほうが寂しいよ。色々言われるほうが、自分は独りなんだって思う」
「変わってるな」
今度はわたしがきょとんとする番だった。
でも、言われてみればそうだ。
この点で、みんなと自分の意見が少し違っているのを、わたしは薄々感じはじめていた。
「そうなのかもね」
わたしが言うと、
「いや、そうでもないよ」
一転、祐一は否定した。
混乱するわたしに、祐一はこう続けた。
「俺だって、べつに寂しいとかは思ってない。それどころか、親に咎められずになんでもやれる時間が圧倒的に多い。ゲームを進めるのが速いのも夜中までできるからだし、体育の塾みたいなところにも通ってたから、そのおかげである程度運動もできる」
「その体育の塾はやめたの?」
「やめたよ。つまんなくなった」
「羨ましいね。自由だ」
わたしは心からそう思った。
家では自由にゲームができるし、誰も習い事を強制させたりしてこない。
羨ましい限りだ。
「自由かもしれない。でも……飽きたんだ。春休みにさ、少し考えたんだよ。なんでこんなに上手くいくのかって。あの日がこれまでの人生で一番頭を使ったな。で、結局、結論はこうだ。時間と金をかけてる。だからできるんだ。俺だからできてるわけじゃない。俺の家に生まれれば、誰だってできることなんだよ」
「祐一は音楽も図工もできてたじゃん。あれは自分の才能だろ」
「それも全部、習ってたんだ。それで、全部やめてやった。両親は不満だったみたいだけど、あいつらには俺を叱る時間がないからな」
祐一はストローに口をつけ、紙パックから紅茶を吸い込んだ。音をたてて飲みきると、目を細めてげっぷをする。
わたしは部屋のうだるような空気に少しぼんやりとしてきた。
「じゃあなんで、学校も嫌になったの?」
「ここまでの話から推測できねぇか?」
祐一は机上の紙パックに目線をやり、ストローを指でもてあそびながら言った。
「わからないよ」
わたしがそう言っても、祐一はすぐに答えなかった。
考えろとばかりにこちらを一瞥し、今度はパンの袋をクシャクシャと潰しだす。
本当にわからなかったので、そうすれば頭に血が巡って名推理が浮かぶかもしれないと思い、わたしは軽く伸びをして天井を見上げた。
蛍光灯さえついていない、平らな天井。
ところどころに黄ばみがあり、隅には少し黴が生えている。




