第22話
姿はまだおぼろげだが、同級生かもしれない。
わたしはコンビニの自動ドアに一歩近づいた。
これといってテニススクールに愛着があるわけでもなかったが、通い続けなければならないことを考えると、無断欠席を見られるのは後ろめたい。
けれども、接近してきた顔ぶれは全くの他人だったので、わたしは安堵した。
祐一はパンと紙パックの紅茶を買ってきた。
わたしはふと思い浮かんだ疑問を尋ねてみる。
「冷たいもの買うなら、もっと一〇三号室に近いコンビニの方がよくない? ぬるくなるし」
わたしの言葉に、祐一はこちらを馬鹿にしたような表情で肩をすくめた。
「学校に通わないコツは、なるべく拠点の近くで買い物をしないことだ。誰かに見つかって、学校に通報されたら困るからな。コンビニじゃないけど、平日の昼間に近所の図書館に行ったら通報されて先生が来たこともある。警察の少年課の人と一緒にな。通報されること自体は別にたいしたことじゃないんだが、拠点の場所がばれたらそこに戻れなくなる」
「なるほど」
「だから早く帰って、話は部屋でするぞ。俺だってぬるいのを飲みたいわけじゃない」
それから、わたしたちは黙って自転車を漕いだ。
太陽は中天に昇り、入道雲の白が朝よりもずっと輝いていた。
祐一の横顔にも汗が滴っていて、祐一はそれを腕で何度も拭った。
往路とほぼ同じだけの時間をかけ、わたしたちは一〇三号室へと帰ってきた。
時間を確認した際に、わたしはカズからの連絡にも気づいた。
「俺とカズは一時ごろそっちに行く」
ユノがカズのスマートフォンを借りて文字を打っているのだろう。
わたしと祐一は壁にもたれ、ちゃぶ台を挟み向かい合って座った。
窓を全開にしていても、部屋には熱気が籠っている。
わたしは胡坐をかいた足の上に弁当を置き、祐一は両足を開いてパンをちぎりながら食べている。
「家出の話、聞いてもいい?」
わたしは恐る恐るそう言った。
「ああ、そうだな……家出と言ってもいきなり家を飛び出したわけじゃない。学校がつまらなくなったのがそもそもの原因なんだ」
祐一は他人事のように、冷笑を浮かべながら話しはじめた。
わたしは今朝の出来事を思い浮かべ、自分こそ「いきなり家を飛び出した」のかもしれないと思いつつ、相槌を打って祐一に先を促した。
「六年生になって、学校に嫌気がさしたんだ」
「嫌気がさすくらい学校がつまらないのは、いまに始まったことじゃないよ」
誰だって嫌気くらいさしていて、それを我慢しながら通っている。
わたしは嫌気がさしたという理由だけで学校通いを放擲したとのたまう祐一に少し腹が立った。




