第21話
わたしの読む速度が遅いのか、祐一はわたしがまだ全体の半分しか読んでいない段階で立ち上がる。
新聞をラックに戻し、わたしのことを気にかける様子もなく、祐一は本棚が立ち並ぶ空間へと去っていった。
見た目はTシャツに半ズボンの悪童だが、やることは老人のようだ。
祐一の行動を尻目に、わたしは新聞を読み進めていった。
事件の概要や背景、ちょっとした論説。
どれもなかなか面白い。
論説の中に「事実は小説よりも奇なり」という言葉が引用されていたが、まさにその通りだと感じた。
そして、わたしがちょうど二紙目のテレビ欄に到達したとき、祐一がわたしの座るソファを揺らした。
「そろそろ出たいんだけど、まだ読むのか?」
「いや、大丈夫。ちょうど読み終わった」
わたしは先ほど祐一がやったように新聞を閉じ、ラックに戻す。
わたしと祐一は肩を並べて階段を下り、図書館の玄関を出た。
駐輪場で自転車を出そうとする祐一にわたしは訊いた。
「これからどうするの?」
「戻るよ。家に。一〇三号室の方のな」
「昼ご飯は?」
スマートフォンで時間を確認すると、もう正午前だった。
新聞というのは読むのにえらく時間がかかる代物だ。
「家で食べる。持ってきてないのか?」
「テニスの練習に行くふりをしてきたから弁当があるけど。祐一は?」
「途中でコンビニにでも寄って買うよ。さっさと行こうぜ」
祐一は焦れた様子で自転車を漕ぎ出した。
わたしは慌てて横に並び、風に流されないよう声を張り上げる。
「なぁ、お金持ってるのに、なんで万引きなんかしてたんだ?」
「面白いから。というか、ユノとカズの仲間に入れて欲しかったからかな」
「祐一は、最近この、よくわからん集まりに入ったのか?」
「そうだな。ユノとカズには山の麓にある小屋にいるときに見つかって、そこで誘われた」
「山って、あの?」
わたしは片手をハンドルから離し、県境になっている山脈を指差した。
キャンプ場などがあり、わたしも車やバスに揺られて二、三度行ったことがある。
「そう。山道の入り口あたりにボロい小屋があって、家出したときそこに泊まったんだ。その小屋がユノとカズの秘密基地の一つだったってわけ」
「家出したのか?」
「おう。詳しくはあとで。ここのコンビニで買う」
わたしたちは国道の交差点に面したコンビニに自転車を停め、わたしは店の前で祐一が昼食を買うのを待った。
汗が顎を伝い、Tシャツがべたつく。
交差点をぼんやりと眺めていると、テニスウェアを着て、ラケットを背負った小学生の集団が正面から近づいてくるのが見えた。




