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第19話

わたしは、それではまるでテレビゲームだと思った。

操る主人公キャラを鍛え、職業を選び、冒険の手駒にする。


スキルを教えてくれる友人キャラは、その本当の人格ではなく、貰えるスキルが冒険に役立つか否かで価値が決まる。


キャラ達に行動の選択権はなく、全てはプレイヤーの命令次第だ。


プレイヤーはキャラを強くし、成長させることはできる。


けれども、プレイヤーが喜ぶ瞬間は、そのキャラが宿屋で気ままに過ごし、ぐっすり眠っているのを見たときではない。


ゲームの世界とプレイヤーの期待に応じ、モンスターを華麗に斬り殺したときだけだ。


両親はテレビゲーム嫌いで、わたしはいつもベッドの中でこそこそとやっているくらいなのだが、なるほど、現実世界でゲームが出来れば、ゲーム機など無用の長物だとわたしは思った。


スマートフォンの画面に表示された、「明日は朝から一〇三にいるから」という文章がわたしの脳裏に浮かぶ。


この文言がわたしを勇気づけた。


わたしは早足に部屋へと戻り、スマートフォンと、ゲーム機を引き出しから取り出してバッグに放り込んだ。


「いってきます」をリビングまで届く声量で言い放ち、自転車に跨って一〇三号室を目指す。


自転車を走らせていると、身体じゅうがじんと熱くなって、頬の火照りが触らずとも感じられるようになってきた。


その日の陽射しは、確かに厳しかった。

けれども、あの熱さの理由がそれだけだったとは思い難い。


わたしにとって、土曜の練習を完全にサボるのは初めてのことだったので、その罪悪感と背徳感があの興奮を呼び起こしていたのだと思う。


生ぬるい風を切り裂くように、わたしは全速力で自転車を漕いでいた。

遠くに入道雲がもくもくと湧きあがっている。

家が、人が、ものすごい勢いで後ろへと去っていく。


わたしは一〇三号室の扉を開けた。

外気とさして変わらない温度の風が微かに流れてくる。


部屋には祐一だけがいて、右手に食べかけの菓子パンを持ち、左手で小説を開いていた。


祐一は私を認めると、小説を閉じて立ち上がった。


「おはよう。待ってたよ」

「今日は祐一だけ? 昨日、カズから連絡があったんだけど」

「あぁ、あれはカズのスマートフォンを使って俺が送ったんだよ。この時間なら、ユノとカズはまだ別の友達と朝飯食ってるはずだ」

「じゃあ、帰ってくるまで待つの?」

「いや、俺はこれから出かける」

「どこに?」

「図書館。一緒に来るか?」


わたしが首肯するのを見て、祐一は小説を肩掛け鞄に放り込み、菓子パンの残りを頬張った。

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