第17話
わたしはカズがゲームを再開する様子を見届けてから立ち上がった。
「じゃあ、これで」
わたしが手を振って別れの言葉を告げると、三人はそれぞれの返事をする。
ユノが「また、あした」と叫んだのが印象的だった。
玄関前に置いてあるママチャリで漕ぎだそうとして、すぐにやめて自宅から乗ってきた自転車に跨る。
盗品で自宅に帰るわけにはいかない。
自転車を漕ぎながらスマートフォンを操って友達からの連絡を確認し、適当に返答していると、「カズ」からもメッセージが来た。
「明日は朝から一〇三にいるから」
明日、土曜日の午前もテニススクールの練習がある予定だ。
まるでテニススクールに行ってきたかのような時間に帰宅したわたしには、いつもより大きな試練が待っていた。
彰が上手く伝えてくれていたらしく、テニススクールからの連絡は来ていないようだった。
だが、両親はわたしがテニススクールに行ったと思っているので、それらしく振舞わなければならない。
仕方がないので、前回までのテニススクールでの記憶や、まだ両親には言ったことのない彰の発言からいくつかを抽出し、それらを脚色して組み合わせて練習一回分の話として夕食の話題を提供した。
もちろん、彰の話を参考にしつつ、両親が非常識で不道徳だと思っている部分を削除し、その代わりに両親の好きそうな友人像や会話をつくって挿入するくらいのことはいつも工夫としてやっている。
だが、組み合わせとはいえ全く新しいストーリーを創造するのはこの日がはじめてだった。
土曜日の朝、わたしは七時ちょうどに起床した。
テニスの練習に行くための、いつも通りの時間だ。
わたしは洗面所で顔を洗い、鏡に映る自分の顔を見て、両手で頬を叩き気合を入れた。
朝食も、狂気的な品数とお代わりの強制がある。
ここで適量のみを食べて残そうものなら朝から無為な口論になることも経験済みだ。
以前、わたしが皿に料理を残したまま立ち上がったときの母の第一声が、「なにを怒ってるの?」だったことはいまなお鮮烈な記憶である。
「怒ってないけど――」「じゃあ、なんで残すの?」「多いから。これは食べきれないよ」「なんでそんなに怒ってるの? 学校でなにかあったの?」。
仕方なく、わたしは黙って座り、食事の続きを敢行することに決めた。
その瞬間、母は涙を流し激昂した。
「どうして無視するの? なにかあったんでしょ?」。
どうしようもなくなって、わたしは「クラスがちょっと揉めてるんだ」と切り出した。
ちょうど音楽発表会の時期だったので、あまり練習熱心ではない人物がいると語ってみた。




