第15話
海外ファンタジー独特の、妖しい装丁に飾られた表紙が輝いていた。
「それ、盗んだやつか?」
「タダで手に入れたと思うと二倍楽しく読める」
平然とそう言ってのける祐一が差し出さしてきた本を、わたしは手に取った。
適当に目星をつけて開き、数ページを繰って、わたしは続きを読みはじめた。
わたしが本を読んでいるあいだ、祐一は壁にもたれて漫画を読んでいた。
わたしには、この空間、この時間が素晴らしいものに思えてきた。
仲間が三人、同じ部屋に集まりながら、しかし、それぞれの世界に入っている。
そこには暗黙の理解と紐帯があった。
わたしとカズとに至っては、まだ碌に言葉を交わしたことさえなかったというのに。
予想を裏切り、期待を裏切らない。
面白いとしか言いようがない幕引き。
わたしはその物語の余韻に浸っていた。
一つの小説、一つの漫画、一つのゲームを終えたときの、このなんとも言えない感覚がわたしを虜にしていた。
しかし、その感慨はすぐに打ち破られた。
「ただいまぁ」
と叫びながら、ユノが帰ってきたのだ。
ユノは勢いよく障子を開け、わたしに笑顔を向けながら手招きした。
わたしは渋々立ち上がり、ユノと共に再び外へ出る。
玄関扉を開けると、そこには一台のママチャリが置いてあった。
わたし以外の三人のものではない。
シルバーのボディは新品のように綺麗で、有名メーカーの名前がアルファベットで記されていた。
「これ誰の? 新品に見えるけど」
「今日からヒロのもの。俺からのプレゼントだよ。なるべく汚れてないのを探してきたんだ。乗ってみろよ」
ユノに言われるがまま、わたしは恐る恐るその自転車に跨ってみる。
サドルが少し高い。
その辺りの道路を適当に走ってみると、最初は少しふらついたが、すぐ慣れてきた。
わたしが持っていた自転車よりはるかに軽くて快適で、三段の変速もついていた。
「どう? それなりにいいやつだと思うんだけど」
一〇三号室前に帰ってきたわたしを見て、ユノが自信たっぷりに語る。
ユノの言う通り、乗り心地は良い。
しかし、わたしには訊かなければならないことがあった。
「どこで手に入れたんだ?」
「もちろん、置いてあったのを盗ってきた」
「鍵は?」
「チェーンはしてなかったから、簡単だったぜ」
そう言って、ユノはポケットから小さなマイナスドライバーを取り出した。
わたしはサドル下にある付属の馬蹄錠に視線を移す。
盗品らしく、開錠されているが鍵はささっていなかった。
この盗み方からしてこれだけの時間をかけることでもないと思い、わたしはこう訊いた。




