第12話
彰と話したり、藤本さんと会ったりできるのは楽しかったが、決してテニスが好きなわけではなかった。
塾の授業は全て理解の範疇だったが、決して勉強が好きなわけではなかった。
そもそも、習い事を始めるときはいつだって、両親が「行ってみたらどう?」と何度も言うのがきっかけだ。
わたしが拒否したり、はぐらかしたりすると、両親は露骨に不機嫌な表情になって「あ、そう」と言ってみたり。
逆に幼稚な声で「えー、いいと思うけどなー」と言ったりする。
しつこくされ続けるのも不快なので、わたしは彼らの提案に心から同意したふりをしていた。
学校の授業ほど暇な時間はなく、普段なら読書でもしていないと時計の進みが異様に遅いくらいなのだが、この日に限って、祐一のものであるはずの机と椅子がわたしを妙に惹きつけた。
誰もいないことが当たり前になっている席。
特段、いじめがあったわけでもないのに祐一が来ないのは、ユノがそうであるように、そこにいないことがむしろ当然なのだと祐一自身が思っているから。
そうに違いないとわたしは感じはじめていた。
祐一には祐一の居場所がある。
だから、ここに来る理由はないのだ。
わたしはテニスの練習をサボることにした。
終礼後すぐに隣の教室に行き、適当にでっちあげた理由と共に休む旨を彰に伝えた。
いったん帰宅し、親に対するカモフラージュのためテニスの恰好に着替え、テニスバッグを背負って自転車に乗りこむ。
公園を横切ってベンチの場所へ向かうと、三人がたむろしているのが見えた。
昨日と同様に並べられた自転車のカゴには、それぞれの鞄が入っている。
彼らの仲間に入るのかもしれないと意識すると、自分の持ついかにも小学生用な自転車が恥ずかしくなり、また、彼らが自分より大人であるように思われ、羨ましくなった。
わたしが到着するやいなや、挨拶もそこそこにユノが言った。
「昨日も言ったけどさ、ヒロに紹介しなきゃいけない場所があるんだ。ちょっと遠いけど、ついて来いよ」
促されるまま、わたしは三人の後をついていった。
自転車を漕ぎ、百貨店とは逆方向に進む。
わたしの家や、通う小学校の校区からはどんどんと離れていく。
住宅街を出て、大きな国道を一つ渡り、わたしたちは再び住宅が立ち並ぶ場所へと入った。
とはいえ、こちらは道が狭く、汚いアパートが林立し、一軒家でもあまり綺麗とは言えないものがほとんどだった。
団地が立ち並ぶ区画を抜け、さらに狭い路地に入り、突き当りにあるボロボロの二階建て集合住宅前でわたしたちは止まった。




