第11話
その点、家庭役者としてのわたしに多くの言葉を貸与してくれる人物であり、瞳を輝かせ、頬を朱にしてやりとりする技法を自然に示してくれる彰にはこのうえなく助けられていたといえる。
わたしが両親にする話のほとんどは、彰がわたしに喋ってくれる内容を盗んだものだったし、話す態度も彰の真似だった。
両親の相槌を受けながら一通りわたしが喋り終えると、今度は父が評論家めいた言葉でテニスについて語り出す番だった。
とはいえ、父はテニスの経験もなく、ニュースでトップ選手について少し見る程度。
それをわかったような言い方で無茶な精神論と日本人の特性とやらを絡めて偉ぶりだすのだからいたたまれない。
そうして、いつも通り一時間半近くを食事にかけ、わたしは笑顔を浮かべて退席した。
腹を休めるために自室のベッドでしばらくうずくまってからお風呂に入る。
一人になれる空間として浴室は好きなのだが、腹痛のため、今日はカラスの行水になってしまった。
食事後はきまって腹痛をきたしてトイレに駆け込むのだが、寝るまでのどの時間に痛みが襲いかかってくるのかは全くのランダムだった。
トイレから出た直後のわたしに、母は「大丈夫? どこか体調でも悪いの?」と訊く。毎晩トイレに行く姿を見ても、その直前に原因があるとは思わないらしい。
それでも、朝に吐き気が我慢できず、こっそりともどしていた時期に比べればずいぶん快適な生活になってきたとわたしは感じていた。
低学年のときに比べれば、胃が拡張し、腸が慣れてくれたのかもしれない。
そのようなことは十分起こりうると、インターネット上の記事で見たことがあったのだ。
その翌日も、わたしはいつものように学校へ行った。
しかし、登校中からずっと、前日のことばかりを考えていた。
いつも一緒に登校してくれる彰には生返事しかできず、悪い事をしたと思っている。
授業中も、給食の時間も、わたしは空いている祐一の席を見てしまっていた。
朝から学校で授業を受け、放課後はテニスをするか塾で勉強し、空いた時間には読書やゲームで過ごす。
わたしはこの生活が普通なのだと思っていたし、しぶしぶこなしていることも多いけれど、なにかを強制されることはある程度当然だと思っていたから、両親を前にしてなにかをやめようとは思いもしなかった。
しかし、ユノは堂々と、学校さえ行っていないと言った。
その理由は、面白くないから。
面白くないからやめるという理屈が通じるのであれば、わたしはなにもかもをやめることになる。




