第5話 2回目の結婚パーティ
私たち女神と天使の夫婦は、天界には帰らずにのんびりと過ごすことにした。
人間の一生なんてあっという間だしね。ミラちゃんなら許してくれるはず。
主神さまからは仕事しろって怒られそうだけど、どうか見逃してほしい。
子爵家の敷地内にある別邸で、私とクリスは紅茶を飲んでいた。
そのうち、この離れの屋敷に2人で住むつもりよ。
「昨日の2回目の結婚式、楽しかったわね~!」
「はい。身内だけのつもりが、にぎやかになってしまいましたけど」
学園の友人や貴族の知人、それに国王夫妻まで様子を見に来られたの。
7名のホームパーティだったのに、庭に人が入りきらないほど盛況になった。
みんなから祝福の言葉とご祝儀を頂いて、とても嬉しかったわ。
来てくれたお礼に、クリスお手製の18段ケーキを分けて配ることにした。
18歳で学園を卒業したからその記念の18段だって。よく崩れないわね。
味はもちろん私の保証付きよ。たくさん味見させてもらったしね!
ささやかなパーティだったけど、みんなに笑顔になってもらえてよかったわ。
訪問客は口々に、私たちのド派手な最初の結婚式を見たせいで、他のどの結婚式を見ても物足りなくなるとこぼしていた。正直あれはやりすぎたわね。反省。
そして、呼んでもないのにフリスト殿下とニーセアがやって来た。
「ほう。ここが2回目の結婚式の会場か。地味じゃないか」
「フリスト様ぁ。わたしたちの結婚式はもーっと豪華にしましょうね!」
ニヤニヤと笑いを浮かべている2人の背後から、低い声がかかる。
「――待ちなさい。2人とも、謹慎を申し付けていたはずですが?」
「ひっ! なんでここに母上が。帰るぞニーセア!」
「王妃様っ。どうか腕立て伏せの追加だけは、平にご容赦をっ!」
2人は怯えながら慌ててきびすを返したわ。腕立て伏せって…?
急に、チャリーンという音が2回した。何か丸い物が落ちたみたい。
「あら? ニーセア様、何か落とされましてよ?」
「し、知らないわ! そんなコインなんてっ」
「これは……最初の結婚式でマール様が降らせたコインですね」
そう言って、クリスが地面に落ちた銅貨を拾い上げる。
まあ。大事に持ってくれていたのね、嬉しいわ。身長が伸びたり富くじが当たったり恋人ができたりするような、眉唾もののご利益はないけど。
「殿下の足元にも、同じものが落ちているようですが」
「違うぞクリス。俺様はけっして背が伸びてほしいなんて思ってないからな!」
銅貨を受け取らずに帰ろうとする2人に、私は声をかける。
「待って。お忘れ物ですわよ。ニーセア様たちにも幸運がありますように」
「そんなもの別にいらないぶひっ。何が幸運よ!」
偽聖女の鼻がブヒッて鳴ったけど、可哀想だから今は黙っておいてあげるわ。
「では、コインは俺様がもらってやるとしよう。これで2倍伸びるに違いない」
「ああん。フリスト様、ずる~い」
ぐだぐだと話している2人に、王妃様の雷が再びピシャリと落ちる。
「――あなた達!? 早く帰らないと1000回追加しますわよ?」
「「ごめんなさーいっ!!」」
コインをつかむと2人は全速力で去っていった。何しに来たのかしら。
◆◇◆◇◆
クリスの実家は食堂経営の功績により、男爵になることが決まった。
平民の商家でありながら、人々のために尽くす姿勢が高く評価されたみたい。
貧民街でも食堂を開いて環境と労働の改善を図ったり、王都の中心街の店では他の食堂と連携したメニューを考案して地域の活性化に努めたりしたそうよ。
私財を投じての奉仕活動をしていたせいで、経営は大変だったと聞いたわ。
――2回目の結婚式に来てくれた、クリスのお父様は泣いて喜んでいた。
「お前がこんなに立派になるなんてなぁ。わしが細々とやってた事業が成功したのも、お前のおかげだよ。かみさんを亡くしてティムと途方に暮れてた時、わしらが出会ったのは神様のお導きだったんだ。……幸せになるんだぞ、クリス」
「父さん、後を継げなくて本当にごめん。今まで僕を育ててくれてありがとう。ティムも大変だろうけど、父さんを助けてあげてね」
「おれ、クリス兄ちゃんみたいな料理人にぜったいなるからな!」
そう言って親子3人は抱きしめ合う。つられて私も泣いてしまった。
ようやく周りから認められて幸せになったのに、別れるだなんて。
私がお嫁に行けばいいのに、クリスが子爵家の婿に来ることになったせいだわ。
涙をぬぐって悲しい気持ちになっていると、私の家族が3人に声をかけた。
「クリス君には、今までどおりそちらで事業を続けてもらって構いません」
「わたくしたちは皆、これからは家族ですわ。一緒に歩んでいきましょう」
「僕たちにも、ぜひ食堂をお手伝いさせて下さい」
お父様、お母様、お兄様…………。
私も、みんなと家族になれて本当に良かったわ。
「そんな。子爵家の御方にご迷惑をおかけするわけには……」
しきりに恐縮しているクリスの父親に、私の父がにこやかに告げる。
「我が家にはあなた方の食堂の大ファンがおりましてね。そうだろう、マール?」
「はいっ、とっても大好きな場所です! クリスのお父様、ティム君。ふつつかな嫁ですが、どうぞよろしくお願いいたします!」
クリスと2人で頑張って、必ずみんなを幸せにしてみせるからね!
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