第3話 ノリと勢いで結婚しました
※本日3回目の更新です。
それから私たちは、すぐに卒業パーティ会場に引き返して結婚式を挙げた。
善は急げって言うでしょ。早いに越したことはないわ。
王族の人たちが何やらもめている最中だったけど、割り込んでごめん。
殿下たちが唖然とする中、女神力で衣装替えをして白いウェディングドレスとモーニングコート姿になり、赤い絨毯の上をクリスと腕を組んで歩いていく。
私の髪が赤紫色だから、緑髪の彼とは補色的にも見映えは良いはずよ。
天界から光を照らさせて五色にライトアップして、赤ちゃん天使に祝福のラッパを吹いてもらったわ。
ついでに色とりどりの花びらもひらひらと降らせておいた。
みんなびっくりしてるわね。ここからが本番よ!
新郎のエスコートで舞台に上り、ようやく指輪の交換となったわ。
急なことだから指輪なんて用意してないし、味気ないけど女神力で出すか~と思ってたら、クリスがスッと青いジュエリーケースを懐から取り出した。
「マール様、どうぞこちらを」
用意いいわね!
思わぬサプライズにドキッとしたわ。クリスも指輪も輝いて見える。素敵!
しかも本物の白金製じゃないの。怖いぐらいに私の指にピッタリよ。
大勢に見られてて恥ずかしいから、誓いのキスは頬にちゅっとした。
クリスは顔を真っ赤にしていた。こんな時ぐらい、メガネ外せばいいのに。
まあ似合ってるからいいか。
いや~まさか守護天使と結婚することになるとは思ってなかったわ。
勢いって怖いわね! でも後悔しない!
「突然ですが、私たち、今から結婚しまーす!」
かなりタイミングがずれた気がしつつも、高らかに宣言する。
観客たちはしーんと静まり返っていたわ。ノリが悪いわよ。
フリスト殿下と偽聖女が、激怒しながら詰め寄ってきたわ。
「貴様ら、どういうつもりだ! マール、それにクリスまで」
「クリス君、なんで貴方がマールなんかと。その女は聖女じゃなくて魔女よ!」
クリスは私をかばって前に立ち、おごそかに言い放つ。
「はい。マール様は聖女ではありません。もっと崇高な存在だったのです」
えっ? そうだったの。確かに正体は女神だわね。
「皆さん、先ほど彼女が起こした奇跡をご覧になったでしょう。マール様こそが、『聖神女』の称号を持つ唯一のお方なのです!」
クリスが観衆に向かって真顔で語り始めた。そんな称号聞いたことないけど。
彼は前を向いたまま、小声で私に話しかけてくる。
「なにか、皆が喜びそうなものを女神の力で降らせてもらえませんか?」
喜ぶもの? そうね。だったら――――
空から、キラキラと金銀銅の丸くて小さな物体がたくさん降ってくる。
ケガしないように、ふわふわと遅い速度でね。
「私からのご祝儀よ! みんな、受け取って!」
「「うおおおおおぉぉっ!」」
参加者たちは喜びの声を上げて、降り注ぐ金貨や銀貨を銅貨を追いかけたわ。
殿下や偽聖女や取り巻きたちまで拾ってるのはどういうことなの。
人間界に来てから聖女の仕事で貯めたお小遣いだけど、まいっか~。
本当はこっちがご祝儀をもらいたいぐらいだけどね。貴重な食費が…。
でも、みんなに喜んでもらえてよかった!
私がにこにこしていると、なぜかクリスが渋い顔をしていた。
「なんでまた、お金なんて即物的なものを……」
「だって他に思いつかなくて。みんな大好き現金払いでしょ!」
クリスは溜息をついて銀縁の眼鏡を外し、綺麗な翠色の瞳で覗き込んできた。
「はあ。昔から面白い人だと思ってましたが…好きです。愛しています」
「!」
強引に抱き寄せられ、口づけをされる。
まさかクリスがこんなに積極的だったなんて……。
み、みんなこっち見ないでよね。そのままお金ひろってていいわよ!