第2話 地下牢での涙の再会
※本日2回目の更新です。
偽聖女ニーセアの陰謀で、聖女の私は投獄されてしまった。
元婚約者のフリスト王子が勝ち誇った顔でドヤっていたけど、無視よ無視。
そんなことより、卒業パーティのお料理がとっても美味しかったわ。
また食べられたら嬉しいけど、もう私に残された時間は少ないのよね。
「はあ~。まだ天界に帰りたくないなぁ……」
溜息とともに、思わず本音が口から漏れてしまう。
カビ臭くてひんやりと冷たい床に座っていると、誰かが地下牢へ下りてきた。
入口に見張りがいたはずだけど交代したのかしら。
「マルグレーテ様! お気がすんだのなら、もう帰りましょうよ」
牢に近付いてきたのはひとりの男性だった。
王子の取り巻きの中にいた、緑髪の地味なメガネ青年だわ。
「誰だっけ……?」
私の女神としての名を知っているのなら、天界関係者だろうけど。
「ひどいですよ! 僕のことを忘れてるだなんて」
青年は、鉄格子にしがみついて必死に訴えてくる。
ずれたメガネの下は涙目だったわ。ちょっと可哀想なことをしたかも。
「僕は貴女の守護天使のクリスです。ずっと陰ながらお守りしていたのに……」
そう言うと、彼の背中から白い光の翼がばさりと生える。
ああ、新入り天使のクリスフォルリウスシエルね。名前ながっ。
まだそんなに長く仕えてもらってないから、すっかり忘れてたわ。
よくよく話を聞くと、彼はわざわざ王子の取り巻きになって、彼らを見張りながら酷い事にならないよう取り計らっていたそうだ。ご苦労なことね。
けれど、私が周りに流されまくったせいで断罪は防げなかったみたい。
「それはありがとう。でももう少し牢屋にいたいの。天界では味わえない、貴重な体験ができるわよ」
「婚約破棄されて投獄されるなんて、人間界でも滅多に体験できませんって」
残念なものを見るような目でツッコミを入れられる。うん、正論ね!
気にせず私は、今後の展開に思いをはせた。
「この先どうなるのかしら。私が処刑された後、偽聖女のせいで国が傾くとか?
私を助けに隣国の王子様がやって来て、殿下に一発お見舞いしてくれるとか?
それとも、皆が心を入れ替えて謝ってきて全部なかった事になるとか!」
「人間界の書物の読みすぎですよ」
クリスは銀縁のメガネをくいっと直し、落ち着いた低い声で告げる。
「マルグレーテ様に天界へ帰って頂くための方法は、考えてあります」
「な、なによ」
「貴女様のご不満については、天界にいる時より感じておりました。僕が偽装先に商家の息子を選んだのも、それを解消するためです。養父が経営する食堂の下働きから修行を始め、学業のかたわら学園の食堂の手伝いをし、5年の月日をかけてやっと大きな催しでの料理長を任されるほどになりました」
なるほど。ずっと料理を作ってたせいで、あまり彼の姿を見なかったわけね。
「先ほどの卒業パーティの食事も、僕が作らせて頂きました。いかがでしたか? 天界に帰っても同じものを毎日ご用意できますよ。マール様」
な、なんですって。
私のために、人間界で遊べる貴重な5年間を費やすなんて……。
しかも、私の長年の不満を察していてくれただなんて――――
「ステキ! クリス、私と結婚して!!」
「えっ……」
我ながらチョロい女神だと思うけど、真面目で一途な人に弱いのよね。
それに加えて、料理が上手くて美味しいなんて最強よ!!
よく見ると私好みの顔な気もする。気弱げに下がった眉がチャームポイントね。
「こんなところ早く出て、式を挙げましょう!」
「相変わらず行動力が凄いというか……貴女には敵いませんね」
鉄格子をこじ開けてクリスの手を握ると、彼は呆れたような苦笑いをしていた。