婚約破棄されたので今のうちに逃げようと思います
軽く短いお話です。
息抜き程度に、楽しんでいただけましたら嬉しいです♪
――ある日突然、婚約破棄を言い渡された。
「…はい、わかりました。ご自由にどうぞ。」
「え…?婚約破棄ですよ?」
「はぁ、だから、ご自由にどうぞ…と。」
面倒くさいので、同じ事を言わせないで欲しい。
やってもいない事をでっち上げられて、こんな公衆の面前に呼び出されて、いい迷惑だ。
「では、私は婚約破棄されて国外追放という事で、よろしいでしょうか?」
「…本当に良いのですか?」
イケメンのキラキラ王太子が、癖のある金髪を揺らして聞いてくる。余りにもアッサリ受け入れられ、怪訝そうにした。
「は? 王太子殿下が、さっき仰ったのですよ?…なぜ私に確認するのですか?」
隣で王太子の腕をとり、不安そうに大きな瞳を潤ませる男爵令嬢が…こちらを見ながら怯えている。
初対面で、怯えられる意味が解らない。
「では、私は失礼いたします。」
それだけ告げると、公爵邸へ帰った。
出迎えた執事に軽く説明し、公爵である父と会う時間を作ってもらう。
「お父様、王太子殿下に婚約破棄されました。ついでに、国外追放されますので、ご迷惑をおかけしますが…早急にこちらを出発しようと思います。」
「…出発って。コンスタンスよ、何処へ行くのだ?」
「え?そんなの、傷心旅行に決まっていますが?」
「…傷心?…どこがだ?」
「無実の罪で断罪されて、婚約破棄ですよ?…そりゃ、全く好みじゃない馬鹿王太子との結婚も、死ぬ程辛い王妃教育からも、苦手な社交界からも解放されますが。取り敢えず、私は傷付きましたので……それが何か?」
「…傷が付いたのは、この公爵家だと思うのだが?」
「あ、まぁ…そうですね。その辺は、しっかりと国王に訴えてみて下さい。私の罪はでっち上げですので、お父様なら直ぐにシッポを掴めます。」
「それならば、直ぐに無罪になるではないか?」
「ですから、早急に出発したいのです。」
「…コンスタンス、王妃になる事から逃げるのか?」
「まぁ!逃げるだなんて…悲しいですわ。私は、傷心のため旅に出て、どこぞの国で細々と生きるのです。」
「……はあぁぁぁぁ。…好きにすると良い。」
「今まで育てて頂き、ありがとうございました。…お父様、お元気で。」
よよよ…と、泣いているフリをして、急いで自分の部屋へ戻り支度を開始する。
旅行鞄に必要な物を詰め込んで、よっ!と担ぐと玄関へ向かう。
――門から、豪奢な馬車が入ってきてコンスタンスの目の前で止まった。
「……くうぅ…間に合わなかった…。」
持っていた鞄を落とし、項垂れた。
馬車の扉が開かれると、イケメンのサラサラ金髪王子が降りて来た。
「コンスタンス嬢、何処かへお出掛けですか?よろしかったら、お送り致しますよ。」
「…レイモンド殿下。私は国外追放を言い渡された身ですので、どうぞお構いなく。このまま、傷心旅行に出ますので、そっとしておいて下さいませ。」
「ああ、愚兄の言った事は気にしなくて大丈夫です。全く、問題ありません。」
「…問題大有りですけど。」
「いえいえ、そんな事ありません。折角、コンスタンス嬢が婚約破棄されたのです。こんなチャンスを僕が逃す訳ありませんよ。貴女は、僕と婚約すれば良いのです。」
「…………。」
そうなのだ、私が逃げたかったのは…王太子でも、王妃の地位でも無い。
この、第二王子レイモンドから逃げたかった。
王太子エドワードの一つ下、弟王子のレイモンド。コンスタンスとは、同じ年の同級生だ。
何故だか分からないが、このレイモンドは何かにつけてコンスタンスに絡んでくる。
正直、エドワードよりレイモンドの方が、相当賢い。勉強も出来れば、人望も厚い。彫刻の様に整った顔立ち。クールな表情に紺碧の瞳…モテない訳が無い。
ただし、次男の為…王位継承権は二番目だ。
片や私は、至って普通の公爵令嬢。
まあ、多少…珍しい魔法は使える。
庇護欲そそる外見でも無ければ、愛想という物は母親のお腹に置き忘れて来た。性格も難ありと自覚がある。
ただ、親に勝手に決められて、王太子と婚約し王妃教育で扱かれる日々を過ごしてきた。
レイモンドとの接点は、クラスメイト。それだけ。
なのに、ある時を境にやたらと近付いてくるようになった。興味が無いし、キラキラ王族は見てると目が疲れるから、エドワードもレイモンドも避けて来たのに…何故に近付いてくる?…意味不明だ。
「何故…レイモンド殿下と私が婚約するのでしょうか?」
「可笑しな事を言いますね?好き同士が一緒になりたいと思うのは当然では無いですか?」
「…は?誰と誰がですか?」
今、好き同士と聞こえたが…?聞き間違いか?
「コンスタンス嬢、照れなくて良いですよ。僕は、ずっと貴女を見てきました。いつも、僕だけに見せる、優しく美しい微笑み。分かっていましたよ。」
「………はい?」
私、レイモンドに微笑んだ事なんてあったか?…ダメだ、全く記憶に無い。
「…あの、それはいつですか?」
返事をしないレイモンドは微笑みを返した。
グイッと腰を抱えられ、豪奢な馬車にヒョイっと乗せられた。
レイモンドは、一見細身なのに…かなり鍛えているのか力がある。多分…キラキラ衣装の下は腹筋バキバキなのかもしれない。
「では、出発しますね。」
「…は?…どちらへ?」
「勿論、コンスタンス嬢が行きたい傷心旅行です。」
「……理解に苦しみます。」
傷心旅行に新しい男と行くのは…違うだろうがっ。
コンスタンスの言う事に、お構い無しで馬車はスピードを上げていく。
本当に、何処へ連れて行かれるのだろうか?
不安そうに、窓の外を見るコンスタンスをレイモンドは黙って見詰めている。
まるで、目的地が有るかの様に馬車は進んだ。
乗り心地の良い馬車は、眠気を誘う。
いかん!こんな場で眠ってしまうなんて、絶対に…!
「…到着しましたよ。」
ククッ…と、笑いを堪えるレイモンドの声で、ハッ!と目が覚めた。
しまったあああぁーーー!不覚にも爆睡していた…。
先に馬車から降りたレイモンドに手を差し出され、仕方なく馬車から降りた。
――目の前には、広大な田畑が一面を埋め尽くしていた。
ゴクリっと、コンスタンスの喉が鳴った。
「…どうして?」
「だから、僕は貴女をずっと見て来たのです。」
コンスタンスの唯一の能力…それは、植物を育み成分や効能を瞬時に理解する力。つまり、植物の薬師。
学園で、怪我した猫を見つけて治した事がきっかけだった。
コンスタンスには、治癒魔法は使えない。生えてる薬草を見つけて煎じ、猫に与えて治したのだ。
貴族は、魔法が使えるしお金もある。
だからこそ、この能力は平民や力を持たない者の為に使いたいと…ずっと考えていた。
そんな時、ちょうど婚約破棄を言い渡されたのだ。
「コンスタンス嬢、貴女がいつも猫に見せる優しい微笑みは…美しかった。」
「…あ!」
やっと、レイモンドの言った言葉の意味が理解出来た。
「僕は貴女の力になります。一緒に、此処で暮らしませんか。」
「…はい。」
コンスタンスは、今まで見ようとしてこなかった、優しさに溢れた第二王子レイモンドの顔を見た。
二人は手を取り、人々の為に尽力をする道を選んだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
妹視点の続編
『身勝手な兄を持つと妹が苦労するのだと思います』を書きました。
そちらも、よろしくお願いいたしますm(__)m