表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/19

第四話 魔術と偽って手品を使う詐欺師もといマジシャンことキセキ

 親の七光りな男を怒らせるのに最も効果的なのは、その自慢の親との関係に言及することである。まさしくイナコの口喧嘩経験値の勝利だ。ノーペイ首相という虎の威を借る狐、アルペイ。その狐の化けの皮を上手く剥がした。

 アルペイは自分を弁解する内容を吠え続けていたが、少し落ち着いたのか、三人の糾弾に狙いを定め直した。


「お前らわかってんだろうな! 仮にも総理の息子である僕をここまで貶したんだ」

「省の課長としての自分じゃなくて、結局総理の息子ってのだけがあんたの誇りなんだな。その権限を使って今回の案も自分の意見をゴリ押ししたってことだろ?」

「ああそうだよ! 経済効率促進課長としての初仕事を求められてるんだ。お父様もこのやり方が一番良いって言ってたからこの案で決めたんだよ。議員発案より、若いお前が言ったほうが注目も集められるってな」

「やっぱり親父に根回ししてたのかよ。そんで私らが反発することがわかってたから、あんたに言わせて議会で私らを怒らせて、そこを首相が叱責すると。汚え親子だよ。蛙の子は蛙だな。いや違うかそれは。蛙に失礼だ」

「ぐっ……イナコ・ニトゥーベ、お前だけは特に許さないからな。お前らの発言は全部メディアに流す」


 キセキは『自分に任せた』と言いながらまだちょっかいをかけるイナコに少し苦笑するが、おかげで自分が頑張らずとも十分にネタが出揃った。ここからは自分の仕事だと、イナコの背後から肩に手をかけて合図を送る。イナコも理解したようで、慣れないウインクを今度は控えめにキセキに送った。


「メディアに流すって、アルペイさんがですか? それって、アルペイさんに都合の良いことしか言いませんよね? フェアじゃないですよね」

「事実を話すだけさ。お前らが僕に吐いた暴言の数々をな」

「でもアルペイさんも散々暴言浴びせてますよね私達に。今だってそうでしょ」

「そんなもん僕が言わなきゃわからないだろうが」

「言わなくてもわかりますよ。ほら」


 魔法の杖をおもむろに上服の胸ポケットから取り出すキセキ。

 杖といっても、昔は杖といえば足先から腰まではあるサイズの物しか無かったのだが、今は非常にコンパクトな万年筆サイズだ。『魔法使いと同じサイズの杖』という触れ込みでアクセサリー等を作れば売れると絵を描いていたメーカーが、改良を重ねて本当に小型の杖で魔法力を発揮できる物を作ってしまった。今も行事やフォーマルな場所等で従来型の杖が使われる機会はあるが、少なくとも携帯用としては小型の杖が使われるのは当然となっている。

 杖には様々な色や形をした水晶が付いており、魔法を使う際には光るのだが、小型の杖はポケットやカバンの中でも使用できるため、光を隠すことができる。水晶も圧縮して小型化しているため、光の量も減って気づきにくい。ひっそり魔法を使いたい時に役立つ、小型化の副産物といえよう。


 キセキは杖の先端を前に向けてクルッと回転させる。すると、髪の色に合わせてあしらった臙脂色の水晶が光り、アルペイの声が聞こえ始めた。


(ほとんどは先生方のほうから私に『何かないか』と聞いてこられるのですよ。これ、メディアには言わないでくださいよ……)

(経済効率促進課長としての初仕事を求められてるんだ。お父様もこのやり方が一番良いって言ってたからこの案で決めたんだよ。議員発案より、若いお前が言ったほうが注目も集められるってな……)


 絶句するアルペイ。誰もいない空間、ましてや自分のホームである議事堂の中。何をしても自分が優勢だという、根拠に乏しい自信があった。よもや落ちこぼれ三人に何かできようとは、到底頭の中になかったことだ。


「記録魔法を使って、今までの会話はすべて録音しました。メディアに出すならこれにしましょうよ。これなら歪めようのない事実ですし、フェアでしょう」

「ま、待て……。聞いたことがある。記録魔法は難易度の低いものではなく、魔法学校では卒業試験で課されると。何故一年生で留年するような輩が会得している……?」

「それは……」


 あえてすぐ言わずに、グッと溜めて、鋭い眼光をアルペイに向け直して言い放つ。


「私が優秀な魔法使いだからですよ!」


 魔法使いとは大きく出たものだが、それよりも記録魔法を使ったことのほうに驚きを隠せないユキとイナコ。アルペイの言うとおり、そもそも一年生では履修すらしていない魔法だ。


「馬鹿を言うな落ちこぼれが。そんな録音が信用されるわけないだろうが。落ちこぼれの使った魔法だぞ? 適当にインチキして作ったと思われるのがオチだ。ほとんどの大手メディアは政府側についているしな」


 不思議なことに、この国では反政府の立場に立つメディアがほとんどない。半鎖国状態を続けてこられるほど危機感も少なく、戦争や貧困など、大きな苦難にあったこともないので、政府に反感を持つ人が少ないのも理由だ。政府に反旗を翻すのは、一部の過激な大衆週刊誌くらいのものだ。


「週刊誌とか芸能誌とか、ゴシップ系にはすべて出しますよ」

「構わないさ。そんなものを読むような国民なんて、たかが知れている。ゴシップ誌に出すなら、こちらも大手メディアを使って君達のネガティブキャンペーンを敢行させてもらうよ」


 呼び方が『お前ら』から『君達』に変わっている。記録魔法の衝撃に少しは効果があったのだろうか。

 しかし、権力の差は圧倒的だ。大手メディアに悪く書かれては、ゴシップ誌でいくら真実を語ろうと自分達が貶され、現金の威厳は地に落ちるだろう。そのようにユキは冷静に判断した。


「現在の私達では、国民の信用が得られないというのはあなたの言うとおりでしょう。ただ、私達がこれから名声を得て、国民から認められるようになった時、これを世に出したらあなたはどうなるでしょうね」

「君達がどうやって国民から人気を得ようと言うのか。無理に決まっている」


 アルペイはそう答えながらも、自分の失態が世間に公表された時のことが少し頭をよぎり、想像にも拘わらず身の毛がよだつ思いがした。


「まあ、僕も鬼じゃない。メディアの報道内容に口出しはしないと約束してやろう。もういいだろう? 僕は忙しいんだ。仕事に戻らせていただくよ」


 資料を持って議事堂を後にしようとするアルペイ。その両脚は目に見えてわかるほどに震えている。武者震いなのか、緊張なのか、あるいは恐怖を感じたのか。わからないが、その隙のある背中にぶつけておきたい言葉が、イナコにはあった。


「私達は精一杯評判を上げて、あんたらの考える現ナマの廃止ってのを阻止する。よく覚えとけよ!」


 一瞬立ち止まり、横顔を少しだけ見せたアルペイは、不敵な笑みを浮かべているように見えたが、そのまま議事堂を退出していった。

 三人からは議会が終わった時から残っていた肩の重荷がスーッと取れて、ひとまず落ち着きを取り戻したようだ。


「キセキ、ゴメンね。本当にゴメン。悔しかったでしょう。あんな大技を決めたのに、それが今は信用されないだなんて、私が認めてしまった……」

「おお、でもよ! ホントならアルペイに権力濫用で滅茶苦茶にされるところが、あの魔法が……なんてったっけ、なんとか力? になって、食い止められたんだぜ!」

「抑止力、ね」

「そう、それ! 流石ユキだ。そして素晴らしかったぞ、キセキ。記録魔法なんて、どこで身に付けたんだよ」


 本当はこの技でアルペイを追い込むところまで持っていきたかったキセキ。それを反撃され、自分だけでは逆に追い込まれるところだった。その窮地を機転でかわしたのはユキだった。

 その後もこうして真っ先に自分をフォローしてくれる。イナコも盛り立ててくれる。姉貴分達の尊さを感じ、キセキは素直に感激した。

 感動に自分で水を差すようだが、自分の手品も素直に種明かしすることにした。


「ありがとう、ユキ、イナコ。私悔しい思いなんて全然してないよ。だってね……」


 もう一度アルペイの音声を再生する。しかし、杖の水晶が光っていない。


「え? 魔法を使ってないのに声が再生されてる?」

「そう、つまりさ」


 キセキは杖を入れていた胸ポケットから、もう一つ黒い小型の物体を取り出す。音はその物体から出ているようだ。


「まさか……」

「そう! 適当に水晶を光らせて、このフォーヨー社製の最新レコーダーで撮った音声を再生させてただけ」

「「イ、インチキだったのかよー!」」


 二人揃って片足立ちでよろめき、大げさにこけるフリをする。このあたりのノリの良さも、真面目な魔法学校生徒の中ではピカイチだ。


「私が記録魔法なんて使えるわけないでしょ。騙されちゃって。そんなんだから留年するんだよ」

「てめえもだろ! 留年するような悪い奴は手品の種も汚えぜ」

「そもそもイナコが煽りすぎたせいで使いにくいんだよねこの音声。私達性格悪いって思われちゃうじゃん」

「なにを~!?」


 三人に本来の姦しさが戻ってきた。


「これ実は機械の録音だから、尚更信用性は高いはずだけど、それでも今はメディア側が政府寄りだから報道してくれなさそうってのは変わらないよね」

「そうね。だからやっぱり、私達が社会的な評価を得て、皆が私達を信じてくれるようになるまで、公開するのはやめておきましょう。握り潰されたり、マイナスに動くのが怖い」


 ユキはそう分析し、リーダーとして取り急ぎの方針を固めることに決めた。


「私達の目的は、肖像画にされてしまった現金を廃止させることなく継続させていくこと。それはすなわち、私達のプライドを守っていくことね」

「「そうだ!」」

「そのために今言えることは、私達が国民に認知されて人気を得ていくことが近道ね。他にも方法はあると思うけど……まずは現場を知らなければ始まらないわ。アルバイト募集してた学校前のハンバーガー屋で、皆の決済手段を研究してみましょう」

「「了解!」」


 議事堂を出てから早速電話をかけ、アルバイトの面接に漕ぎ着けた三人だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ