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第十七話 国王家の闇に迫れ! リーダーユキ、スパイチームを組成

 出席免除が下りた三人が毎日授業をサボっているかといえば、決してそうではなかった。

 レージェはあくまで、三人が受けた国からの残酷な処遇に対抗するための活動を認めたのであって、単なるサボりを認めたわけではない。活動に関係のない理由でのサボりが常態化すれば、それこそ許可を取り上げられかねない。その危機意識は持っていた。


 すぐにでもアイドルの練習を始めたいのは山々なのだが、まずは楽曲がサンプルでも一曲は決まらないことには、歌もダンスの振付もイメージが湧きにくい。

 発声練習や体力作りの有酸素運動など、できることはいくらでもあるだろうが、まずは下地作りよりも実践から入ったほうが楽しみを感じられるだろうと、ユキは他の二人のことを慮って保留していた。


 そんなわけで、今日も仕方なく授業に出席している。既に四限目の現代文に突入していた。

 メグミもここ数日はきちんと授業に顔を出しており、生徒の本分をわきまえたようだった。その点を指導したのはイナコなので、真面目になってくれて嬉しいのだが、楽曲の完成は少し待たなければいけないだろうというのが、少しもどかしく感じられた。難しいジレンマだ。


「評論の中で筆者は、最後に人々のコミュニケーションの難しさについて語っていますね。その理由は直接的に書かれてはいませんが、文章の中から読み取れる人はいますか? ……おっ、ではセリアさん」

「はい。十行前に、私達が住む惑星『ナバス』について、恒星『アイミツ』との絶妙な距離間隔があってこそ生命体が存在しているという記述があります。これが、人と人との距離感、近すぎても遠すぎても駄目だという、その難しさを暗喩として示したものなのではないでしょうか」

「素晴らしいですね。まさにその部分で、百点満点をあげたい解答です。いいですか皆さん、すなわち……」


 教科書は昨年から改訂されていないため、三人にとっては昨年も聞いた、特に興味のない授業が淡々と進んでゆく。昨年は先程の教師の質問に答えられた生徒はいなかったので、委員長・セリアの学力は大したものだなあと思いながら聞いていた。

 そんな中、イナコはふと気づいたことがあった。


「なあ、そういえば地学でも似たような話があった気がするんだが、アイミツみたいな熱を持つ恒星から、ほどほどの距離にナバスみたいな惑星があれば、生命体が生まれるってことだよな?」

「まあ、アイミツに近いと暑すぎるし、遠いと寒すぎるから、生命体が生きていけないってことでしょ。あんまり詳しくないけど」

「おう。でも宇宙は無限だとか、広がっているとか言うじゃねえか。それってつまり、遥か彼方に同じような恒星と惑星があったとしたら、人が住んでる可能性もあるってことじゃないか?」


 授業中なので小声で話してはいるが、イナコの疑問はなるほど興味深いもので、心に刺さった。テスト勉強用としてしか授業を聞いていなかったユキとキセキにとっては、刺激的なものだった。

 しかし、その話題に『待ってました』と言わんばかりに食いついたのは、彼女達の前に座っていたリサチだった。


「イ、イ、イナコさん! そ、そそれ、わた、私もずっと、考えていたんです!」

「うおっ! ビックリした……。ごめん、誰だっけ?」

「すみません、すみません! 私、リ、リサチです。あの、この間から、メグミ達と一緒にいる……」


 確かに、応援してくれることが決まった五人組の中で、まったく話していない者が二人いたことを思い出すイナコ。その一人がリサチだったのだが、発言の機会がなかったからというわけではなく、見るからに奥手そうな性格が原因だったようだ。


「おう、リサチか。ごめんな覚えてなくて。よろしくな。まあ落ち着いて喋ってくれよ」

「ご、ごめんなさい、私、あがり症で……」


 落ち着かせるためなのか、ふうっと大きく深呼吸をして、両手でパンパンと頬を叩いた。度のきつそうな眼鏡がずれたので、慌てて正しい位置に直す。


「あの、イナコさんの言うとおりで、人類が他の星に住んでいる可能性はあって、私、国立図書館にも行ったりして、調べたことがあるんです、昔。でも、なぜかまったく文献や論文が見つからなかったんです。天文学分野で有名な大学ですら、その研究テーマについては何も」

「そうなのか。私でも疑問に思うぐらいだから、調べられてると思ったぜ。それとも、可能性がないから馬鹿馬鹿しくて研究されてないだけなのかって」

「いえ、それで私も調べるのは諦めていたんですが、インターネットで調べていたら、海外のサイトでその件について触れているものがあって。キャンディ語だから、読み間違えてるかもしれませんけど……」

「ちょっと待て、お前キャンディ語読めるのかよ? すげえな」

「あっ、い、い、いえ、読めるといっても、辞書を引きながら、ですけど……」


 キャンディは惑星ナバスにおける最大の経済大国で、この世界で名実ともにリーダーシップを取っている。国際化を進める世界各国はキャンディ語の習得を義務教育化しているが、鎖国状態を続けてきたサンブックはキャンディとの交流が盛んではなく、学校でもキャンディ語は教えていないため、習得している者は極めて少ない。


 もっとも、今は建築物からカード決済に至るまで、さまざまな技術を輸入しており、またキャンディからの観光客もサンブックは多く受け入れ始めている現状があるので、今後は交流が盛んになる気運はある。


「そのサイトでは、生命体が生息している可能性のある惑星が、少なくとも数十個は確認されていると。もちろん遠すぎて辿り着けないので、実際に目で見て確かめることはできないようですが」

「なるほどなあ。でもなんでそんな重要っぽい話を、サンブックの研究者どもは放置してるんだ?」

「それがわからなくて……。不思議ですよね、なんか」


 イナコと話をするために体を捻って右横を向いていたリサチ。まさにその右横に座っていたマオナが、前を向いたままボソッと言葉を発した。


「タブー……」

「えっ?」


 聞こえなかったというのもあるが、何より不気味な空気を感じて、奇しくも一同から同じ声が漏れた。

 おそらく三人は名前を知らないが、自分から名乗ることはないだろうと、普段の友達付き合いから察したリサチが、わざとらしくフリを入れる。


「マオナ、何か知ってるの?」

「タブー。つまり、国王家が恣意的に権力を行使して、その研究をさせないよう国内の関係機関に働きかけている可能性が高い。そう思わない? フフッ」

「いわゆる『陰謀論』みたいなやつか?」

「うん……まあ近いね……」


 イナコは基本的に現実主義者で、妄言を唱える人とは関わりたくないと思っている。ただ、自分達を手伝ってくれると約束した一人なので、あまり邪険にすることもできない。形だけでも話を聞いてみることにした。


「マオナ、そう思う根拠はあるのか?」

「……ない。これはただの推測。でもね、考えてみて。これだけ国際交流が進んで、サンブックもその例に漏れない。世界でそういう研究があるなら、サンブックの学者だって研究して、仮説を立てて、世界にアピールしたいはず。それが、そのことに触れている記事すらないというのはおかしい。国王家にとって、その可能性があることすら国民に知られたくないということ」

「人類が他の星に住んでいる可能性を、国民に探られたくないってことなのか? 何で国王家が?」


 前髪で目の上半分が隠れ、イナコから質問を投げかけられる度に、声を出さずにニヤリと微笑してから話しだす。その不気味な雰囲気は、いかにもオカルト話をぶっこんできそうではあるが、意外にもその考察は真っ当なものだった。


「それは……わからないけど。フフッ。でも考えたことない? 国王家の周りを囲む王宮省の人数が、他国と比べて異常に多いこと。なぜかこの国の特許は王宮省が管轄していること。そして王宮省が発案者となっている特許が多数あること」

「国王家が頭脳明晰で、昔から色んな発明をしてきたってのは有名な話じゃねえか。その国王家の発案を特許に登録したりする事務処理に人手がいるんじゃねーの」

「いや、特許は所詮王宮省のサイトに載せるだけで、あれだけの人数を割く必要性はない。私が思うのは、国王家発案ってことにして国民の信頼を集めつつ、実は王宮省の精鋭職員達、側近が発明に加担してるんじゃないか。そういうこと」


 特許については二人の言うとおりで、王宮省のホームページからインターネットで検索することができる。サイトに掲載された技術等使う場合は、権利者に特許使用料を払う必要があるが、王宮省が権利者となっているものについては、使用料は無料となっており、普及するのも早い。


「うん、面白い仮説だと思うが……何でこんな話になったんだっけ」

「それはつまり……あ、あれ?」


 本題を見失った二人を、ユキが横からサポートする。


「私も国王家が色々発明するのを不思議だとは思ってたのよ。だって、海外との交流がなかった時代から、海外諸国と同等か、それ以上の技術を発明していたこともあったわ。ただ頭がいいというだけでは、到底説明がつかないと思う。いくらなんでも、すべての分野に精通するのは無理よ」

「……そう。そのとおり。そこから考えられる私の仮説は二つ。一つは、鎖国時代から実は、国王家や側近がひっそりと海外に渡航していて、そこで発明のヒントを得ていたということ」


 一同がマオナに体を向けて聞いていたところ、教師がその不自然さに気づいたようで、じっと睨みつけた。慌てて前を向き直し、耳だけをマオナに傾ける。


「もう一つは、どこか遠くの星には人類が住んでいて、ナバスと同等かそれ以上の文化があって、国王家やその側近にはそれを覗き見る力がある」

「んな馬鹿な! ……でも、辻褄は合ってんのか?」

「そ、そう。言語、こ、言葉だってそう。鎖国だったから、独自の言葉ができたのは、その、当たり前なんだけど、サンブック語って、漢字、ひらがな、カタカナがあって、すごくややこしい。ローマ字とかいうのも、使いどころがよくわからないし、新しい言葉も、語源のわからないカナカナ語やローマ字ばかりで、すべて王宮省が発表してる。不自然だけど、違う星から言葉も真似てるとしたら……」


 イナコの思いつきて始まった会話が、思いもよらぬ方向に飛躍していった。何も結論が出たわけではないが、ユキは大きな収穫を実感していた。


「二人とも、素晴らしい考察力だわ。私達も、国の裏側が全然わからなくて困ってる。マオナ、リサチ、あなた達の能力があれば、国の裏側を探れるんじゃないかしら。あなた達がもし協力してくれるなら、その役を是非ともお願いしたいわ」

「スパイってこと? フフッ。面白そう」

「ス、ススススパイ? そそそんな怖いこと、できないできない! ……でも、考察したり調べたりする係なら。私でも、役に立てるかな……」

「無理のない程度にね」


 これまで蚊帳の外だった二人は、貴重な役割を与えられたことに喜んでいるのか、少々不気味な笑顔を浮かべていた。

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