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第十三話 珠玉の助言連発! サフィーP人脈作り指令

「そ、そんなに驚かなくてもいいでしょ……」


 サフィーは自分に向けられた驚きの言葉に怯む。大きな声はどうしても慣れることができなかった。


「ご、ごめんなさい。でも急に先生が見守り役だなんて言うから」

「嫌だった、ってことですか?」


 キセキは『滅相もない』と言いながら首をブンブンと横に振る。


「見守り役というか何というか、あなた達を最後まで導いてあげなさいと、校長先生にそう命令されたんですよ。まったく、現金廃止阻止のためのアイドル活動なんて、そんな訳のわからないものを……これが生徒指導なの……?」


 後半は三人に向けて言ったのではなく、独り言かつレージェへの愚痴という雰囲気だったが、三人はばつの悪さを感じた。

 ただ、サフィーが味方についてくれるのは間違いないようだ。レージェからの勅命とあらば、手を抜くことはできないだろう。そう考えたユキは、積極的に味方に取り込む意志を固めた。


「先生、アイドルを導くというのはすなわち『プロデューサー』になっていただけるということですね? 大歓迎です。これからよろしくお願いします」

「いや、そんな大層なものになるつもりはないけど……」


 ユキがキラキラ目線攻撃を送ってきていることが何となく読めたので、サフィーは目線を合わせずに肩透かしな回答をした。自分が過度に期待されるのは、これまた苦手だった。

 これで回避できたかとユキの目をチラッと見てみると、素っ気ない自分の返答を意にも介さず、予想通りの眩しい目線が送られてきていた。まったくやる気のない回答では、生徒を幻滅させるかもしれない。


「あ、そうそう。あなた達にアドバイスをしに来ただけなんですよ」

「アドバイス! 早速、プロデューサーとしてのお仕事ですね?」


 本当にレージェに言われた助言の内容を伝えに来ただけなのだが、三人から見ればわざわざ走って追いかけてまで、重要なアドバイスを授けたかった、熱意に満ちたプロデューサーだ。

 レージェはここまで見越して自分を焚きつけたのだろうかと、サフィーは溜息をつきながらも、あらためて感心せざるを得なかった。

 どうせ生徒に教えるなら、心に響くように伝えようと、オホンと咳払いをして気合いを入れ直す。


「まず、あなた達に必要なもの。端的に言いましょう。まずは作曲家です。さっきは急場だったとはいえ、アイドルが校歌などという選択肢は有り得ません。校長先生のお慈悲で許されただけですから感謝しなさい」

「そ、それは反省してます……」


 反省の主はもちろんユキだ。もっとも、イナコとキセキはアイドルに詳しくないので、アイドルらしい選曲をしても歌えなかったと思うのだが、それにしても校歌というセンスが有り得ないのは理解できる。


「有名になりたいというなら、オリジナルの曲で勝負しなければいけないでしょう。誰か曲を作れる人はいますか?いませんね」


 せめて回答くらいさせろと思った三人だが、特に音楽に素養がある者もおらず、黙り込むしかなかった。


「だから作曲ができる人を見つける必要があります。あとは、スタイリスト。舞台に立つには衣装がいりますし、他にもメイクとか、色々おめかしが必要です。そのあたり、素人ではセンスのあるものにならないでしょう」


 ツッコミを入れる隙を与えず、矢継ぎ早に意見を挙げるサフィー。いずれも的を射ていることは確かで、三人も首肯せざるを得ない。


「あとは、営業力。ライブをするには会場がいりますし、会場があっても肝心のお客さんが呼べなければ話になりません。宣伝をしたりとか、地元のコネだとか、そういうものも重要なのです。これらを一言でまとめるなら『人脈作り』に他なりません」

「先生、そんなに一度にたくさん言われても覚えきれませんよ……」

「あっ、忘れてました。あとあなた達の独自性を出す戦略として、魔法を使うのはどうでしょう。ただ歌って踊るだけでは他のアイドルと同じ、いや歌唱力を考えればそれ以下でしょう。魔法を取り入れるのですよ、魔法を」


 うっかり肝心な校長の意見を言い忘れかけたサフィー。屋上に上がるまでは魔法に関する助言だけして去るつもりだったのが、生徒を前にして、また生徒に頼りにされ、無意識に指導に力が入ってしまった。


「プロデューサー、間違いなくどれも目から鱗が落ちる意見だよ。ありがとう。一つずつ検討しようぜ。まずは作曲家の発掘についてだけど」

「そうね……って、プロデューサーじゃありません! イナコさん、その呼び方は止めなさい」


 すんなり流しかけたところ、真剣に考えようとしているところを見るに、本当はすっかりプロデューサーのつもりでいてくれているのだと、三人は焦るサフィーを微笑ましく眺めつつ確信した。


「サフィー先生って、小学校の教員免許も持ってるって聞いたことあります。だったらピアノも弾けて、楽譜も読めるんじゃないんですか?」

「キセキさん、楽譜が読めるのと作曲ができるのとはまた別なんですよ。キーやコード進行、作曲法ならではのノウハウがあるし、それに私はピアノしかできないから、ギターやドラムの音を入れられませんしね」

「なるほど……それってすごくハードル高そうですね」

「それこそ、あなた達の家なら有名作曲家の知人ぐらいすぐに見つかるんじゃないんですか?」


 サフィーはそう言った後、三人のハッキリしない態度を見て、発言したことを後悔した。

 生徒は皆、全寮制の学校で親許を離れて暮らしている。家族が大好きでホームシックになる者、自立したくて飛び出して親を頼りたくない者など、さまざまな生徒がいる。三人がそのようないざこざを心に抱えている可能性を考慮していなかった。

 しかし、サフィーの心配を良い意味で裏切るかのように、三人を代表してイナコが気さくに現況を語る。


「いやあ、私らって紙幣の肖像画になってる人の子孫だからよく勘違いされるんだけど、現在進行形で超名家ってわけでもないんだよね」

「えっ? いやそんなまさか。謙遜しないでください」

「いやほんとほんと。だって先祖が活躍したの百年以上も前だし。その跡継ぎがとりわけ優秀だったってわけでもねえし、何より当の先祖の代から田舎に隠居しちゃったもんで、もちろん今でも付き合いのある家系とかはあるんだけど、そんな大層な人脈が残ってるわけでもないんだよ」

「そうそう。私の家もそんな感じ。ご先祖様のことはもちろん尊敬してるけどね」


 三人は世間一般から見ればお嬢様育ちであることは間違いなく、その点においては謙遜ということもできるが、肖像画の子孫という肩書きから生まれるハードルと高さを加味すれば、イナコ達の発言は当たらずも遠からずといったところだ。

 想定外の事実にサフィーは当惑するとともに、今まで三人を厳しく叱ってきた自分の行いに自信を持った。

 肖像画の子孫を叱っている。謎の勢力から何かされるのではないかと、いつも不安に思いながらも、生徒の生い立ちで差別しないのが自分のモットーだった。信念を貫いたのは正しかった。

『今そこまでの家柄でないなら大丈夫だろう』という、少し恥ずかしい理由で安心したのは別として。


「そんなわけで、家の伝手でってのは難しそうだなあ。ユキとキセキは頑張ったら家が協力して探してくれるかもしれねえけど、私は家族と仲良くもないしな。肖像画の話した時も『あっそう』みたいな感じだったし。あんま私に興味ないんだ」


 突然拗ねたような態度を見せたイナコを庇うために、ユキとキセキが話題の転換を図る。


「私も一緒で、家には頼りません。先生もおっしゃっていたでしょう? 第一魔法学校の生徒に、子供扱いは無用って」

「そうそう。だから作曲家もスタイリストも、私達で頑張って見つけるんだ!」


 三人の連携はよくできているなあと、サフィーはおそらく初めて、三人のことを高く評価した。困った時に助け合う、理想の友達関係。奥手ゆえ友達が少ない自分にとっては、とても羨ましく思えた。


「なるほど。まあ頑張ってくださいね。ところでライブをする場所については、何か考えがあるんですか?」

「それはまだ……大まかには、単純に人口が多い土地で、それなりのお客さんの数が呼べる場所かなと」

「コンサートホールとか、自前で借りるならかなりのお金がかかると思いますよ。あなた達、自分でそれを工面できますか?」

「ええ、仕送りの余りだけでは苦しいので、今アルバイトをしています。会場代や交通費、宿泊費が工面できるように頑張っていこうと」


 資金力。この作戦の根本を揺るがしかねない喫緊の課題だが、アルバイトをまだ辞めるべきではないとユキが言っていたのは、これを見越してのことだった。


「ふむ。もちろん招待されるようにでもなれば、そのあたりは用意してくれるのでしょうけど、少なくとも今は自分達持ちでも『やらせてください』という立場ですからね」

「はい。何とか頑張ります」

「先生、あともう一つなんでしたっけ?」

「それは校長の……オホン。ライブに魔法を取り入れるというアイデアです」


『校長先生の意見で』と言いかけて思いとどまる。もしもレージェが三人にアドバイスを送ったとわかれば、三人は他の意見も求めて校長室を訪れるはずだ。レージェはプロデュースを自分に託したのだから、三人に直接頼られるのを望まないだろうと考えた。


「魔法を取り入れるっつってもなあ。具体的に何すりゃいいんだ?」

「それは自分達で考えることです。色んな魔法を研究して、使えるものを探してください。魅せる魔法は、一朝一夕で身につくものではありませんから、覚悟してくださいね」

「ええ? プロデューサーなんだから、アドバイスとかくれねえのかよ」

「だ、か、ら。プロデューサーじゃないって言ってるでしょ!」


 サフィーにお約束のツッコミを入れさせたところで、その場はお開きとなった。

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