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第08話:協力者

初仕事終了です。

「は?今なんと??」


ユラシル伯爵の言葉に俺は耳を疑い、驚きのあまり聞き返していた。


リー支局長が咳ばらいをして、説明をしてくれた。

どうやら、俺が運んできた書類は俺の推薦状らしい。

ご丁寧にカンタ支局長は俺の経歴や業績などを記載した書面を推薦状に添付している。

なんだか、就職の面接みたいな感じだなとぼんやり思っていた。


「アラン=ウェルシア。なかなか面白い経歴だ。

 あのアイオルド村の出身らしいな。」


ニヤニヤとユラシル伯爵は下卑た笑みをしている。

俺は努めてポーカーフェイスを装っているが、冷や汗が止まらなかった。

アランは自分の過去を誰かに話すようなことはしていない。

目的のために知られてはいけないことが多いからだ。


「ところでアラン君。

 君は【オーバークラブ】という組織を知っているかな?」


伯爵のその言葉に思わず俺の身体は凍った。

その組織は、アンダーグラウンドを牛耳る巨大組織であり、その力は国を裏から操っているといわれている。

だが、その情報はすべて噂レベルの都市伝説であり、記者間でもその存在の賛否が分かれるほどだ。


「ユラシル伯爵、推薦先というのはその組織ということですか?」


「はは、いやいや試して悪かった。そういうことではない。

 知っているどうかを確認したかっただけだ。

 あくまで私への推薦だよ。カンタ支局長とは懇意にしているのでね。」


それはつまり、裏切ったら【オーバークラブ】が黙っていないということだろう。

そして、その話をしたということは俺は推薦を辞退することはできない。

それどころか、戦力外だと判断された時点でアランに明日はなくなる。


カンタ支局長はもとより、リー支局長も完全に関係者だ。

四面楚歌のこの状況では、ご機嫌取りをするしか術はない。


だが、ここでへりくだってはいけない。

それでは伯爵には侮られる。ここはリスクがあってもアランが有能であり、侮れない存在だと示す必要がある。


「そうですか。伯爵のもとにお仕えできるとは光栄です。

 微力ながらカリン教の発展に貢献できるよう努めさせていただきます。」


「なっ!?」

今度はユラシル伯爵が驚く番だった。

ユラシル伯爵がカリン教幹部であることは一般には知られていない。

アランも知らない情報であり、ステータスを覗くことができた俺だから知りえた情報だ。


「なるほど。カンタ支局長が推薦するわけだ。

 前途有望な若者じゃないか。」


カリン教は新興宗教であり、今勢いのある宗教だ。

ただ、その教義には人類以外の種族、特に亜人等を差別化する傾向が強い。

この国は広く亜人を受け入れる姿勢を取っており、伯爵がカリン教に与するということは国の方針に背くということだ。


しかも、先ほど話に出てきた【オーバークラブ】はカリン教の関係なのだろう。

まあ、宗教にはカルト的な信者とかもいるし、暗躍部隊がいてもおかしくないしな。

脅しであった【オーバークラブ】はユラシル伯爵の弱点にもなりえるということだ。


「評価していただきありがとうございます。

 伯爵は私に何を望み、その見返りとして何をいただけるのでしょうか?」


「おい、アラン君。伯爵に対してその物言いは無礼だぞ。」

リー支局長がたまらず注意するが、伯爵は笑った。


「構わん。見返りを求めぬ者の方が信用が置けんわ。

 記者という立場を利用して情報を集めてもらうこと。

 場合によって、情報を意図的に流して民衆を誘導してもらうことだな。

 見返りは十分な資金とお主の目的を叶えるための支援をしよう。」


俺はそのその言葉にピクリと反応した。

いや、正確にはアランの身体が勝手に反応したというべきか。


アランには目的がある。それは復讐だ。

幼い頃アランを襲った悲劇に絶望し地獄を味わった彼にとって復讐を決意する。

そのために記者となったが、足りないものが多すぎた。

だから、伯爵の言葉は甘言だった。


「ありがとうございます。

 誠心誠意働かせていただきます。」


こうして会談は無事(?)終了した。



 ***


「さて、もう声を出していただいて構いませんよ。

 どうでしたか。」


『なかなか興味深い話だったよ。』


魔通信機からダールトン伯爵の声が聞こえてきた。

どうやらユラシル伯爵との会談の内容は伝わったようだ。


ミッションはダールトン伯爵に書類に記載されている情報を届けること。

つまり、直接書類を渡す必要はなく、会談の様子を盗み聞きさせることでも構わない。


「話を聞いていただいた伯爵にお願いがございます。

 私を雇っていただけませんか?」


『なかなか面白いことをいう男だな。

 ユラシルの駒となることを選んだのではなかったか?』


「ユラシル伯爵は私を利用価値のあるうちは使いますが、そうでなくなれば切り捨てるでしょう。」


『何かあったときの後ろ盾ということだな。

 それで、私にはどんなメリットがある?』


「1つはユラシル伯爵の動向を把握することができるということです。

 ユラシル伯爵から得られて情報を伯爵に提供します。」


ダールトン伯爵とユラシル伯爵は政治的に対立している。いわゆる保守派と急進派のような感じだ。

ユラシル伯爵の情報が得られるメリットは大きい。


『二重スパイということか。裏切らない保証も正しい情報を提供するという保証もないな。』


そう。スパイが信用されないのは仕方がない。


「その心配はごもっともですが、そこは実績で信頼していただくしかありませんね。

 もう1つは冒険者であるライアさんのことです。彼女は興味深い血筋のようですね。」


『なっ!?』

魔道具越しでも伯爵の驚きが伝わってくる。

これは他人のステータス情報を見ることがができる俺だから知ることができた情報。

伯爵が名も売れていない冒険者に貴重な魔道具を渡すのには理由がある。

恐らく、伯爵はライア=ペイの血筋のことを知っているのだ。

その価値を知るからこそ、魔道具を渡してまで連絡を取れる状態にしておきたかった。


『どこで知った?何が目的だ??』

伯爵は声を荒げているようだ。


「知っているのは私だけです。情報源は秘密です。

 私の目的は身の安全ですよ。

 知ってはいけない情報を知ってしまった挙句、対立する勢力の使い捨ての駒になってしまった。

 そのままでは私は伯爵に潰されてしまいます。

 それならば、自分を売り込んで安全を買うのは自明の理というものです。」


『…。この魔道具を借りたいと言い出した時から何かあるとは思っていたが。

 そういうことか。分かった。君を雇おう。』


「ありがとうございます。

 例の冒険者達と定期的に連絡を取り、彼女についても報告するようにしますよ。」


『心得てるということか。長い付き合いにしたいものだ。』


そう言って伯爵からの通信は切れた。

ふー、なんとかうまくいったようだ。


一息ついた俺は自分のステータス画面を確認した。


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[ステータス]

氏名 :アラン=ウェルシア <<インストール済>>

年齢 :24

種別 :人間(男)

レベル:10

体力 :2,039

魔力 :512

ジョブ:記者、ユラシル伯爵の密偵、ダールトン伯爵の協力者

スキル:【隠密】【地獄耳】【話術】【投擲】【文書作成】

    【火魔法:ライト】【風魔法:疾風】【光魔法:フラッシュ】


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[サブステータス]

社員名:仮 染太郎

年齢 :29

番号 :N1905

情報 :【開発者権限】【連携:アラン=ウェルシア】【言語理解:ビー語】


[ミッション] <<クリア>>

・ダールトン伯爵に情報提供する。

・届ける情報はリュックに入っている書類に記載している情報

・期限は3日。(残り--:--:--)


[追加ミッション] <<クリア>>

・ダールトン伯爵の協力者となること


[追加機能]

・ログアウトが可能になりました。

----------------------------------------------------------------------


あれ、追加ミッションの項目ができてる。

偶然だがミッションをクリアしたようだ。


ミッションをクリアしたからかログアウトできるようになったらしい。

すぐにログアウトを選択すると目の前が光で包まれた。


俺は、転職した初仕事が終了した。

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