第07話:伯爵邸
ミッション期限である3日目
「それでは、よろしくお願いします。」
俺はウィル支局に来て、リー支局長に挨拶をしている。
今日はこれからユラシル伯爵との会談がある。
「ああ、よろしく頼むよ。」
そういって、俺達は馬車に乗り込んだ。
行先はユラシル伯爵の別邸だ。
余談ではあるが、貴族は王都や主要都市に別邸を持つことがある。
領地の視察や王都への定期連絡などで出張をする際の宿として使うためだ。
ちなみに、ここウィル市街にはユラシル伯爵の別邸だけでなくダールトン伯爵の別邸もある。
馬車の中で俺達は向かい合う形で座った。
リー支局長はどこか緊張した面持ちでいる。
かく言う俺もかなり緊張している。
おっと、そうだった。一応、念のためにリー支局長のステータスを確認しておくか。
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[ステータス]
氏名 :リー=サルマン
年齢 :54
種別 :人間(男)
レベル:22
体力 :2,008(-500)
魔力 :1,184
ジョブ:記者(ウィル支局長)
情報 :権力の虜
スキル:話術、剣術、魔法、文書作成
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あー、いるいる。メディアは権力を監視するとか言っておきながら権力側についてるってあれ。
取材を通じて権力者や有名な商人などともコネクションができてくる。
そうするとしがらみや権力者側からの見返り等、色々と枷が増えてきて取りこまれていくことがある。
そして、最終的には深みにはまり抜け出せなくなってしまう。
能動的か受動的かはあるだろうが、権力の虜になっているということはリー支局長は信用できない存在ということだ。
「今回はお忙しい中、ありがとうございます。
それにしても、同席していただけるなんて心強いばかりですが、構わなかったんですか?」
「え、あ、ああ。何、気にしないで構わないさ。」
「私は個人で動くことが多かったので、今回のように協力が得られるのは驚きでした。」
「そうかね。確かにそう言った風潮はあるがね。
協力しあったほうがメリットが多いからね。
それに、カンタ支局長とは同期でね。お互い協力しあってきた仲だ。
微力ながら協力させてもらうよ。」
アランの記憶にあるカンタ支局長は、いつもニコニコしている好々爺のような初老の男。
昔は仕事をバリバリこなすエリート記者だったらしいが、ある時を境にぱったりと仕事をしなくなった。
今では仕事は基本部下に任せっきりで何もしていない。
そんなカンタ支局長が今回に限っては、積極的に動いているのが嫌な予感はしていた。
カンタ支局長と同期で協力しあう仲と言われては、余計に不安になるというものだ。
「ありがとうございます。
今回の件について、書類の中身等は何も聞かされていませんので、もし何かあればフォローの方をよろしくお願いします。」
「ほう。了解した。
私も機密事項だと聞いているからね。
書類の内容については私も聞かされていないから、どれほどの力になれるかわからないがサポートさせてもらうよ。」
リー支局長は俺が何も知らないということに反応したようだ。一瞬だが口角が緩んでいた。
いよいよ気を引き締めないとヤバそうな気配がしてきた。
一応準備はしてきたけど、ふたを開けたらどうなるか。出たとこ勝負だな。
そう思っていると、馬車が停まった。どうやら着いたよだ。
***
俺達を出迎えてくれたのはユラシル伯爵家の執事をしているという白髪交じりの中年男性。
幾つもの戦場を経験してきたかのような凄みを醸し出している。
そんな男に連れられて、伯爵家の応接室に案内される。
応接室内にはメイドの女性が待機しており、俺達を確認してから室内に通された。
待つこと10分。
髪をカールさせ、顔には油でテカテカしている太った中年男性。
それが俺がユラシル伯爵に対する第一印象だった。
その後、典型の謝辞と挨拶を述べた後、本題である書類を取り出す。
メイドは書類を受け取ると、開封した形跡が無いかを確認し、ロック解除の魔術を実行した。
俺はその様子に驚かずにはいられなかった。
ロック解除は専用の魔術を学習する必要があり、専門職として扱われている。
専門職を持つメイドは普通の貴族にはいない。
俺はそこで彼らのステータスを確認し忘れていることに気づき、改めて確認する。
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[ステータス]
氏名 :ケリー=ドルチェ
年齢 :44
種別 :人間(男)
レベル:56
体力 :8,210
魔力 :3,510
ジョブ:執事
情報 :殲滅の暗殺者、
スキル:武術、剣術、暗殺術、威圧
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[ステータス]
氏名 :ユン=マイヤー
年齢 :27
種別 :人間(女)
レベル:28
体力 :2,770
魔力 :4,510
ジョブ:家政婦
情報 :一流の解除術師
スキル:魔法、給仕
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[ステータス]
氏名 :ウン=ユラシル
年齢 :63
種別 :人間(男)
レベル:25
体力 :3,500(-300)
魔力 :3,510
ジョブ:貴族
情報 :尽きぬ強欲、カリン教幹部
スキル:剣術、魔術、悪知恵、詐術
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うわ、胡散臭い情報ばかりが載っている。
伯爵はまさに悪い貴族らしく欲の皮が厚そうだ。テンプレな感じだ。
「書類をこちらに」
その言葉で、メイドは伯爵に書類を手渡した。
「ほぅっ」
伯爵はそうつぶやいて俺の方に視線を向けて、不敵に笑った。