第05話:冒険者
ミッション2日目です。
翌朝、俺は宿を出て朝食を食べにウマカフェという食事処にやってに来た。
このカフェはなんと冒険者ギルドに併設されている。
つまり、冒険者やその関係者御用達の店というわけだ。
やはりファンタジーの世界と言えば冒険者。そして冒険者ギルドは鉄板だ。
しかし、今の俺はそのこと以上に感動していることがある。
それは、言葉が分かるということだ。
アラン=ウェルシアの<インストール>による恩恵だろうが、言葉が分かる。
サブステータスに記載されていた【ビー語】という言語なのだろう。
カフェには注文カウンターがあり、そこで代金も払うシステムのようだ。
俺はサンドウィッチを注文しようとして、固まった。
そう、言葉を理解することはできるが話せるのか?ということだ。
しかし、その心配は杞憂に終わった。
というのも、思ったことを脳が勝手に翻訳してくれているようで、【ビー語】で発声できた。
注文したサンドウィッチを受け取り、席を探す。
この時間は冒険者たちも利用するようで、割と込み合っている。
意外だったのが、冒険者のマナーだ。
冒険者と言えば荒くれものが多いイメージだったが、この街ではそうでないらしい。
ガヤガヤと騒がしくしているが、乱暴な言葉遣いをするわけでもなく活気があるといった感じだ。
騒がしい中、気になる単語が聞こえてきた。【地獄耳】の効果だろうか。
声の聞こえた方向には、4人掛けのテーブルに男1人と女2人が座っていた。
俺は小声で「開発者権限 情報開示」と唱え、彼らのステータスを表示させた。
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[ステータス]
氏名 :カロ=ダンテ <<ロック>>
年齢 :17
種別 :人間(男)
レベル:32
体力 :6,189
魔力 :2,801
ジョブ:冒険者(C級)
情報 :英雄になる男、剣士
スキル:剣術、体術、魔法
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[ステータス]
氏名 :ユリ=イーダ
年齢 :17
種別 :人間(女)
レベル:28
体力 :7,511
魔力 :1,029
ジョブ:冒険者(C級)
情報 :武術家
スキル:剣術、棒術、体術、
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[ステータス]
氏名 :ライア=ペイ
年齢 :17
種別 :人間(女)
レベル:30
体力 :3,078
魔力 :7,020
ジョブ:冒険者(C級)
情報 :王家に連なる者、魔術師
スキル:短剣術、魔法
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うわ、ツッコミどころが満載だな。
ステータスに<<ロック>>がついてるのも気にはなるが、そんなことよりも情報に英雄だの王家だのが書かれてることだ。
物語に出てくる主人公達のような一行だ。
これは、ぜひとも繋がりを作っとかないといけないな。
「すいませんが、こちらの席空いてます?」
「あ?なんだよあんた。」
俺の言葉に、男が怪訝そうに返してきた。
それはそうだ。見ず知らずの人から急に声を掛けられたら怪しく思う。
「先ほど、気になる言葉を耳にしまして。
もしよかったら詳しく話を聞かせてもらえないでしょうか?」
そう言って、俺は銀貨を一枚テーブルに置く。
「どんな話が聞きたいって?」
いいね。男の方は乗ってきた。
「ちょっと、カロ。やめなって。」
「あら、いいじゃない。話くらい聞いてあげても。
話すかどうかはその後で判断しても。」
「そうだぜ、ユリ。ライアの言う通り話くらいは聞いてもいいだろ。」
「はあ。分かったわ。」
「そういうことで席に座ってくれ。」
俺はお礼を言ってカロと呼ばれた男の隣の席に座る。
「先ほど、偶然『ダールトン伯爵』という言葉が聞こえてきまして。
どういった話なのか興味があるんですよ。
あ、私記者をやってるアランというものです。取材の一環と思ってください。」
「おお、あんた記者なのか。それだったら俺達も仲良くしておきたいところだ。
俺はカロ。それとショートカットのがユリでロングの方がライアた。
俺達3人は冒険者をやってるんだ。
今はC級だが、これからバリバリ活躍していくんでそん時はいい記事書いてくれよな。」
実は記者と冒険者は割と繋がりがある。
冒険者はギルドへの貢献度によってランク分けされるが、それはあくまでもギルド内の評価だ。
当然その評価は民衆にとっても基準にはなるが、知名度も重要になってくる。
最も、高ランクの冒険者の方が知名度が高いのは自明の理ではあるが、記事に取り上げられることで一躍有名になる低ランクの冒険者もいる。
そして、その知名度の高さは指名依頼という形で稼ぎが増えることを意味している。
だからこそ、自分たちのことをいいように書いてくれる記者とのコネクションは冒険者としてもメリットがあるのだ。
「ええ、ここで出会ったのも何かの縁でしょうから。
お互い協力しあいましょう。
それで、話を戻させてもらっていいでしょうか?」
「ああ、『ダールトン伯爵』についてだな。
簡単な話だ。俺達は護衛の依頼を受けて、昨日この街まで伯爵を送り届けたのさ。」
ダールトン伯爵がこの街に来てるだって。これはチャンスだ。
「そうだったんですか。伯爵は何用でこの街にこられたのでしょう?」
「さあな。あいにくだが目的は聞いていないぜ。
仕事はあくまで護衛のみだからな。
貴族ならお抱えの護衛がいるはずだが、俺達冒険者に依頼してきた時点で訳アリってやつだ。
下手に首突っ込んでヤバい目にあいたくないから、変にかかわりは持たなかったんだがな…。」
そういうカロは眉間にしわを寄せ悩ましい表情を見せた。
どうしたのだろう、と思っているとライアが引き継いでしゃべり始めた。
「実はね、帰りの護衛も依頼されたのよ。
まあ、それ自体はいいことなんだけどね。
別れる間際に、妙なものを渡されちゃったのよ。」
「妙なもの?」
「ええ。魔道具だと思うんだけど、私達には使い方がさっぱりわからないの。
それでどうしたものかと悩んでたのよ。」
そう言ってテーブルに置かれた魔道具。
それは俺が今回のミッションを左右する重要なものだった。