第02話:初体験
主人公最初の初任務の始まりです。
「すごい」
俺は思わず声を漏らしていた。
目の前には草原。
風を感じることができ、草のにおいを感じる。
ここがバーチャルの世界であるとは思えない。
背中に重みを感じると思ったら、俺はリュックを背負っていた。
重みまで感じるなんてほんとに現実に近い環境なんだな。
『もしもーし、仮君。聞こえる?』
俺は一人感心していると、声が聞こえた。リリーさんの声だ。
ダイブする前にイヤホンを装着していたのでその声なのだろう。
「大丈夫です。ちゃんとダイブできました。」
『そう。それは良かった。
こっちでもモニタしてるから大丈夫だとは思ってたけどね。
早速だけど、いろいろ説明していくからね。』
リリーさんから聞いた情報を総合する。
まず、この世界。
社内では第3仮想世界と呼んでいる世界。
地球の物理法則をベースとして構築されている剣と魔法のファンタジー世界だ。
貴族、平民、奴隷などの階級が存在し、人間以外にも亜人、獣人、妖精族、魔族等がいる。
他にもモンスターも存在し、ゲーム世界を意識したつくりになっている。
次に、ステータス。
ゲームにありがちなレベルシステムを導入している。
「ステータスオープン」「ステータスクローズ」と発生することでステータスウィンドウが表示される。
ステータスウィンドウには顔写真と名前とレベルそれに職業やスキル情報等が載っている。
通常は自分自身のステータスしか確認できないが、スキルによって他人のステータスを覗くこともできるらしい。
俺は開発者権限を与えられており、他人のステータスは覗き放題だ。
さらに、俺達社員の場合は通常のステータス画面と異なっている。
仮想世界では常に自動シミュレーションが行われており、その1キャラクターを自分が演じることになる。
そのため、すでにあるステータス画面とは別に、管理をするためのサブステータス画面がある。
サブステータス画面には、ミッション情報も載っている。
今回の設定とミッション情報が表示されており、ミッションをクリアすることで業務終了となる。
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[ステータス]
氏名 :アラン=ウェルシア <<未インストール>>
年齢 :24
種別 :人間(男)
レベル:10
体力 :2,039
魔力 :512
ジョブ:記者
スキル:【隠密】【地獄耳】【話術】【投擲】【文書作成】
【火魔法:ライト】【風魔法:疾風】【魔力感知】
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[サブステータス]
社員名:仮 染太郎
年齢 :29
番号 :N1905
情報 :【開発者権限】
[ミッション]
・ダールトン伯爵に情報提供する。
・届ける情報はリュックに入っている書類に記載している情報
・期限は3日。(残り71:05:11)
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『今までのところでわからないところはある?』
「氏名のところに<<未インストール>>と表示されていますけど何ですか?」
『そうそう。その説明が抜けてたわね。今回は使わなくてもいいと思うんだけどね。』
そう言ってリリーさんは教えてくれた。
<インストール>というものがあるらしい。
氏名の横にある<<未インストール>>をタップすると<インストール>をすることができるらしい。
<インストール>を使うと、現在のキャラクターの過去エピソードを自分の中に取り込むことができる。
シチュエーションによってはキャラクターの知人との会話等が必要となり、その際に不自然さが生じないよう過去を追体験しておくということだ。
ただ、一気に情報が脳に送られるため、頭痛等の変調があるらしい。影響は個人差があると言っていた。
『さて、そろそろ一人でブツブツ言ってると周囲から奇異の目でみられることになるから通信を切るわね。
それじゃあ、頑張って。』
そう言って通信が切れた。
さてこれから初仕事だ。今回は簡単な仕事だと言っていた。
だが、状況を把握するためにも自分の持ち物を確認しておこう。
所持品に関してだが、リュックの中を確認するといくつか入っていた。
[所持品]
・書類
・ペン
・乾パン
・水筒
・緑の液体入り小瓶×6
・身分証(記者クラブ)
・通行手形
・財布(金貨×6、銀貨×23、銅貨×50)
・小型ナイフ×2
緑の液体は何だろう。安直ならポーションとかそんなところかな。
今回はこの書類をダールトン伯爵に届ければクリアということか。
さっそく、書類を届けに行きますかね。
***
草原についた轍を頼りに1時間ほど歩いてやっと街を取り囲む壁が見えてきた。
バーチャルとはいえ、体力を消耗するなぁ。
歩いていくと人の列が見えてきた。
どうやら、門の前にいる警備兵が通行人をチェックしているようだ。
列の最後尾に並び様子をうかがう。
通行手形を見せてお金を支払っている。銅貨3枚がここの通行料なのだろう。
俺の番になったが、ここでまずい事実が発覚する。
警備兵の言語が理解できない。知らない言語をしゃべっているようだ。
ゲームでは通常、言語理解のスキルがあるとか、もともと言語が通じるとか設定されているものだが、どうやらこの世界では違うようだ。
しかし俺は慌てない。他の人のやり取りを見ていたのが幸いした。
通行手形を出し、銅貨3枚を警備兵に渡す。
先ほどまで渋い顔をしていた中年の警備兵は笑みを作っており、無事門を通ることができた。
ふう。なんとかなったがそれにしてもうっかりしていた。
言葉の壁があるとは盲点だった。
一から理解していたら時間が足りない。
「ステータスオープン」
やはりスキルに言語理解は無い。書類を渡すにも顔も知らない。
他人のステータスを覗いて本人か判断するのも現実的じゃない。
そうなると、リリーさんから聞いた、インストールを試すしかないか。
頭痛を起こすとかすっごくヤバそうだけど、仕方がない。
<<未インストール>>をタップすると、『インストールしますか YES/NO』というサブウィンドウが表示される。YESを押すと、キィィィンという耳鳴りが聞こえ、頭が割れるんじゃないかというような頭痛が襲ってきた。
「う、ああぁっ」
俺はそのまま街中で気を失ってしまった。