第二話:なるほど、こういう転生もあるのか
僕はサイゼリヤの前に立っていた。
姿勢は悪いがちゃんと両足で立てているし、頭も割れていない。
トラックとの交通事故をイメージしただけで、
あんな明晰夢を見られるものだろうか。
考えを整理しよう、と、スマホを取り出そうとしたその時、
駅の改札から出てきたスーツの男性に目を奪われた。
耳がとがっている。
首から下はスーツのサラリーマンなのに、どう見ても"エルフ耳"だ。
次に出てきたのは制服の女子生徒3人組だった。
顔つきに対して背丈は小学校低学年並みだ。まさか、ドワーフか?
歩幅が狭いのがカワイイ。
普通の人間の中に、エルフとドワーフが混ざっている。2割ほどだろうか。
トラックにはねられたショックで頭はフラフラしていたが、
世界の変化を目の当たりにして胸の奥が熱くなった。
死のうという気持ちはすっかり薄れていた。
スマホを取り出してパズドラを起動する。
降臨ダンジョンでも遊んでちょっと頭を整理しよう。
2コンボ、3コンボ…
「ドリアの謎肉」や調味料の「ドラゴンパウダー」のことを考えると、
最初に死んだ時点で異変は起こっていたに違いない。
4コンボ、5コンボ…
自分が転生するのではなく、世界のほうが変わっている…
死ぬたびに少しずつ、元の世界からズレているのだろうか?
8コンボ、9コンボ…
何度も死ねばこの世界がいわゆる"異世界"に改変される、ということか?
パズドラのモンスターもデザインもさらにリアル寄りになったような…
11コンボ、12コンボ!
とりあえず、今の世界を見て回ろう。
駅の隣のローソンに入り、店内を見回す。
雑誌コーナーでは奇妙な男性客が立ち読みしている。
上半身には服を着ているが下半身は霧がかってよく見えない。精霊か?
ヤングジャンプを手にとって、精霊の横に立ってみる。
ヒーターにあてられたように暑い。火属性のようだ。
手元の雑誌は燃えていないようだが、どんな仕組みなのか。
そういえば、漫画の中身はどうなっているのだろう。
ヤングジャンプと言えば、古代中国の武将が活躍する「キングダム」だが…
主人公のデザインはそのままだったが、
激昂すると先祖のオオカミ男の血で覚醒するキャラクターになっていた。
味方軍師がドワーフで、敵軍師はエルフ…
人間以外にも満遍なく様々な種族が登場しているのは、
ハリウッド映画で言う"ポリコレ"的なキャスティングなのだろうか。
「あっ、もしかして…」
表紙を見返すと、巻頭グラビアのアイドルにしっぽが生えている。
体毛が薄いから気がつかなかった。
プロフィールには
"ライカンスロープ族の父とヒューマン族の母との間に産まれる"と書いてある。
なんて夢のある世界なんだ。
異世界化の記念にこの号は買って帰ろう。
ローソンの男性店員は人間…じゃないな。
ツメが悪魔のようにとがっている。魔族か?
「350円で良いです」
そういえば、人間以外の種族が喋るのを初めて聞いた。
イントネーションがネイティブのそれではない。そして日本語が少しヘンだ。
この違和感、何かに似ているような…
「iDで」
「Edyですねー」
このやり取りは相変わらずなのか。
「いえ、"アイディー"で」
「あっ」
店員が僕の背後を見て何か驚いている。
首をひねって後ろを見ると、目出し帽の大男が無言で包丁を突きつけていた。
コンビニ強盗だ。
首筋が緑色… オークか?
強盗は僕を羽交い締めにすると、首に包丁を刃を当てた。
えっ、えっ、人質ですか。
「カネ ダセ」
オークもカタコトだ。
店員はレジカウンターにサッとかがむと、無言でこちらに何かを向けた。
拳銃だ。
そして、そのまま引き金を引いた。
「防犯マニュアルどうなってんの?」と言う間もなく、オークは僕を盾にする。
銃弾は僕のノドを貫き、風穴を開けた。
ゴボゴボゴボ、ヒュー、ヒュー、
血が溢れて息ができない。
ノドの奥がうがいのような音を立てている。
店員は僕を撃ったことに驚く様子もなく、続けざまに発砲する。
当然、オークは再び僕を盾にして防いだ。
胸に穴が空いた。
銃弾は貫通せず胸骨で止まっている。苦しい。
店員はさらに引き金に手をかけた。
銃声が届くよりも早く、僕の意識はぷっつり切れた。
…
……
………
…………