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転生できたと思ったら"○生"だった件  作者: 無限おしぼり
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第一話:えっ、これって転生?

20668、20674…

20668、20674…

20668、20674…


眼球を何往復させても見つからない。


つまり、受験番号20670は不合格だ。

僕は今年も落ちたのだ、父の卒業した医学部に。


4浪したら死のうと決めていた。今日がその日だ。


死んで… 死ねば… 異世界転生だ!!!


オークやゴブリンの襲撃を撃退して、村の女エルフにチヤホヤされる、

そんな自分に生まれ変わるんだ。


――――

通っていた予備校に転生のウワサが流れたのは、

3ヶ月前のことだった。


心を病んで失踪したと思われた浪人生がふらっと現れ、

"100%異世界に転生できちゃう方法"を吹聴している。


もちろん最初は誰も信じなかったが、

このウワサが広まったのは、彼が一度だけ"魔法"を見せたことだ。


人差し指の先に100円ライターほどの火を灯す、という地味な魔法だったが、

誰もそれを手品だと暴くことはできなかった。


しかも翌日から、彼はまた失踪してしまったのだ。


――――


バカげた考えとは分かっている。

だが、このまま親のスネをかじってみっともなく生きるより

一発逆転、転生の夢に賭けてみてもいいじゃないか。


そんなわけで僕は転生する"条件"を揃えた。


"都内某駅を通過する急行電車に、

1番線ホームの欠けた点字ブロックから飛び込む"


2018年3月5日 17時15分… 帰宅中の皆さん、ごめんなさい。

僕は欠けた点字ブロックを踏切板にして、思い切りジャンプした。


ぐりん、と猛スピードで視界が回転する。

熱い。首に焼きごてを押し付けられているようだ。

僕の頭部はきれいに千切れて、ホームに転がった。


後ろから甲高い悲鳴が上がる。

もう振り返ることはできないが、女子高生だろうか。

トラウマを植え付けてごめんなさい、でもちょっと興奮するなぁ…。


視界が半分暗くなった。

左目がでろんとアスファルトに落ちたようだ。


スマホでこちらを撮影している男がいる。

こんなグロ動画撮ってどうするんだ。

あと、動画は横向きで撮れよ…。


残った視界もボヤけてきた。

熱い。眠い。


……

………

…………


気がつくと僕は駅のホームに立っていた。

首は身長167cmの高さにあるし、手足もくっついている。


えっ?いやいや、バカな。

今のが妄想?


妄想でミッション系の女子校に通ったこともある僕だが、

あんなに鮮明な自殺の妄想ができるなんて…

死のうという決意で妄想力が魔法の域に到達したのか?


スマホで時間を確認する。

「2018年3月5日 17時25分」

飛び込んだときより、少し日が落ちた気がする。


ふと『パズル&ドラゴンズ』のアイコンが目に入った。

そういえば、そろそろスタミナが溢れるな…

僕は頭を整理するため適当なクエストをプレイすることにした。


あれ? ボルケーノドラゴンってこんなリアル寄りのデザインだったっけ…?

げっ、ドロップ率1%のモンスターが落ちた。

こういう運の使い方ってある?


プレイを終えて深呼吸する。

…よし、まだ死にたい。まだ転生したい。


「死にたい」という気持ちはまだ死んでいなかった。

だが、急行電車はしばらく来そうにない。


僕は駅を出てサイゼリヤに入った。

腹が減っては自死もできぬ。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

この沖縄系フェイスのウエイトレスが最後に会話する人間なのか。

"具志堅"と書かれた名札をまじまじ見つめながら、

メニューを見ずにミラノ風ドリアを注文する。


「お待たせしました」


ミラノ風ドリアが運ばれてきた。

週2で食べているカロリー源とも今日でお別れか…

水を一口飲みスプーンを取るが、違和感に手が止まった。


ドリアの表面に、やたら存在感のある角切り肉が満遍なく乗っている。

見た目や色はカップヌードルの"謎肉"にソックリだ。


以前からのミートソースのひき肉はそのままに、

ファミレスのメニューとしてこの角切り肉は大盤振る舞いと言える。

これが最後の晩餐と知ってのささやかなサプライズだろうか。


肉だけすくって食べてみると、謎肉より固めの食感で、味は鶏ムネ肉のように淡白。

表面がちょっと冷たいのはチンの時間が甘いからだろうか。


ヘビやカエル、ワニも鶏肉に似た味と例えられるが、

脂肪が少ない生き物の肉はだいたい鶏ムネ肉のような淡白な味わいになるそうだ。


淡白な謎肉と濃い味のミートソースは悪くない組み合わせだが、何か足したい。

ドリアにタバスコをかけようとしたとき、2つ目の違和感に手が止まった。


「ドラゴンパウダー……? なんだこれ」

見た目はほぼバジルだが、食欲をそそらない名前の調味料が並んでいる。


スプーンにひと振りしてなめてみると、

ヒツジのような臭みと、唐辛子のピリ辛、コンソメのような肉系の旨味を感じた。


原材料は、食塩、砂糖、しょうゆ、香辛料、唐辛子、ドラゴンエキス…

これじゃ説明になっていないだろう。


ドラゴンエキス自体に何が入っているんだ、という話だ。

もし本当にドラゴンのダシだとしたら、ファミレスのテーブルに置かれるくらい

ドラゴンが家畜化されてるってことか?


せっかくなので、ドリアに一振りする。

一味唐辛子に似た赤さだ。謎肉と一緒にひと口食べてみる。


「なるほど、こういうのもあるのか」

淡白な謎肉との相性は抜群だ。


もう一振り、二振り。

ドリアと謎肉でほどよい満腹感に満たされた。


結局、謎肉の正体は鶏肉だったのだろうか?

「まあいいか… 次はどうやって死のう」

会計を済ませると、僕は店を出て駅と反対側へ歩き始めた。


さて、異世界転生の定番な死因と言えば"トラックとの交通事故"だろうが、

そんなチャンスはそうそう巡ってこないだろう。


…などと思案していると、蛇行する大型トラックが向かってきた。

前輪が片方外れかかっている。


「や、心の準備ができてな」


突然ジェットコースターに飛び乗ったかのように視界が飛んだ。

街路樹に身体を叩きつけられ、頭上から銀杏がボトボトッと落ちた。


骨が砕けたのだろう、全身が熱いと同時に寒気がする。

血か汗か脳漿か、ドロっとした液体が頬をつたう。


トラックは別の街路樹に突っ込んだようだ。

駅前がざわつき始めた。

意識が薄れてきたが、まだ僕に気づいた人はいない。

誰にも気づかれず死ぬのは寂しいものだと思った。


検死で解剖されるんだったら、

もうちょっと豪華な最後の晩餐にしとけば良かったな、

と見栄っ張りな考えが頭をよぎった。


……

………

…………


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