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双ツ刃のマガツカゼ  作者: 路折
第一章、出会
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八、意

屋敷に戻ると焔羅(えんら)が出迎えた。


「おかえりなさいませ。街の視察は如何でしたか?」


さぼったのがばれていたらしい。


「必要だろ?昨日あんな話をされたんだ。見てみたくもなる。」


適当な理由で返す。それに焔羅は無表情で返す。


「次からはどちらかがここに残ってください。お二人ともいなくなられるのは困ります」

「わかった。それは謝る」


踵を返し去ろうとする焔羅に守風(しゅか)が問いかけた。


「焔羅さん。貴女はどう思っているんですか?」

「何がでしょう?」

「勿論あなたの仕えている人についてです」

「私はただあの方にお仕えするだけです。個人の感情などありません」

「それは…」

「失礼します」


行ってしまった。


「個人の感情がないやつがあんな話を聞かせたり、俺たちが街を歩いて情報を収集するのを放っておくはずないけどな」

「はい…」


結局もやもやしたものを抱えたまま何もできず三日ほど経った。

ここまで全く外に出ることのなかった左館(さだて)だが今日はどうしても外出をしなければならないらしく護衛を頼まれた。


「いいか、絶対に私に指一本触れさせるなよ。向かってくるやつらは全て倒せ」


ため息をつきながら応じる。

守れとうるさいのでとりあえず移動に使う車に防御壁を展開させておいた。


屋敷を出る。

待ち伏せはされておらずそのまま左館と焔羅は車に乗り込む。

そして(じん)と守風は二人で二輪自動車に乗り少し後ろを走りながらついていった。


なるべく人通りの少ない道を選び、街を出ようとしたその時ー


突然四人の男が横道から襲いかかってきた。

それぞれに棒やら刀のようなものを持っている。


「!?うわああああ!た、助けろ!」


左館が車の中でわめいているのが聞こえる。

だが防御壁がある為、男たちが棒で車を叩いても傷がつくことは無く、このまま走り去ってしまえば問題ないように思えた。

思えたのだがーー


「こ、殺せ!早くこいつらを!焔羅!」


物騒な声が聞こえた。

無言のまま焔羅は車から降りると手に持っていた槍を男たちに向け、振りかぶる。


「だめです!」


振り下ろされた槍を守風の刀が受け止める。

先ほどまで自分の後ろにいたはずなのにいつの間に、なんてことを考えつつ刃も動く。


「おい、死にたくなきゃ今のうちにさっさと行け」


男たちに声をかける。


「な、なんだ、お前は!」

「まあそこは取りあえず置いておいてだ。お前たちじゃ絶対に勝てない。無駄に命を掛けるな」


すっと男たちに近寄り耳元で呟く。


「まだだ、この先まだ機会はある。だから今は行け」

「!?」


驚いた顔をしながらも男たちは去っていった。

それを見やり槍を降ろす焔羅。


「殺せなかったのは失敗ですが、追い払えたことには感謝します」


焔羅は守風に視線を戻すとそう言う。


「殺せないですよ。こんな殺気のない槍では」


守風は挑むように焔羅に告げた。


「…引き続き護衛をお願いします」


しばらく見合っていたが焔羅は視線を外すとそう言って車に乗り込む。

まだ車内では左館が震えていたが構わず車は発進する。

刃と守風はそれについていった。


帰り道でも左館はまだ怯えており、しきりに排除とか殺さねばなど呟いていた。

出かける度に襲われていたら誰でもこうなるのかもしれないが…


(自業自得だよな)


ため息とともに呟き刃は自室で横になる。

すると控えめに扉が叩かれた。


「刃さん、ちょっといいですか?」

「ああ、大丈夫だ。どうした?」

「失礼します」


守風が部屋に入ってきた。


「あの、焔羅さんのことなんですが…」

「何かあったか?」

「さっきの、襲われて刀を合わせた時なんですが」

「ああ」

「全く殺意を感じなかったんです。むしろ私が止めるのを期待していたような」

「……」


刃は考え込む。


「焔羅さんの目的はなんでしょうか」

「まあ、客観的に見れば街人を救いたいように見えるよな」

「はい」

「けどなら今までなんで左館を追い出そうとしなかったのか」

「そうですね」

「まあ左館がこの街を救ったのも事実ってのもあるし、そもそも追い出すことも簡単にはできないか。

もう一度選挙をすれば間違いなく結果は変わりそうだが…いやそれもわからんか…金に弱い人間はたくさんいる」

「はっきりと左館への感情が変わったのは街人が殺された時でしょうか」

「…ああ、そうかもな」


左館のやり方を始めは街の為仕方ないと思っていたが、街人への制裁を目の当たりにして怒りに変わったのかもしれないとは思う。


「一度ちゃんと話がしたいところだが、意外に隙がないんだよな」

「そうですね、でもどうしたら…私はこの街の人たちも、焔羅さんも救いたいです。欲張り…ですが…」


守風が悲しげな顔をする。今すぐに何も出来ない自分に腹がたっているようにも見える。

そんな顔はさせないと決めたのに。

なら考えろ。何が最善だ?いや、最善じゃなくてもいい。

守風の想いを、焔羅の想いを、この街の人々の想いを叶える方法を。





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