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剣姫伝  作者: 東 八千代
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[剣姫立つ]序章の弐

かつて世界は大きな戦争を三度体験していた。


遥か太古、人が天上と地上に分かたれていた時代、天上人に支配されていた地上人が自由を求めて戦った自由戦争。


天上人に勝利した地上人が天上人の造り上げた遺物を巡って争った聖杯戦争。


自律起動し近づく者を容赦なく破壊する遺物は誰も手に入れる事は出来ず、今度は地上の覇権を巡って争った百年戦争。


そして、戦争に終止符をうった七人の者達がいた。その七人は種族、性別の垣根なく結束された強者であり、瞬く間に戦争を終結に導いた。


後に彼らは[七英雄]と讃えられ、自国へと帰っていく。


世界は安寧を取り戻し平和を享受していた。


そして……


東の大国[ジパング]、七英雄[剣聖]が住まう国から物語は始まる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


街は喧騒に包まれていた。


街行く人は足早にかけていく。大慌ての人もいるが、心はどこか高揚感を持っているように感じる。子供達は嬉しそうに、はしゃいでいた。


今日は祝賀祭なのだ。百年戦争が終結してから毎年この日に祝いと慰霊を兼ねて行われている。特に七年目の為、七英雄とかけて、ジパング首都であるエドでは大々的に祭が行われていた。


皆嬉しそうに、今日までの無事を祈り、これからの幸せを願う。しかし、そんな中、一人の幼女が仏頂面で街行く人を眺めていた。祭には相応しくない顔である。非常に愛らしい顔立ちの幼女であり、将来の器量は想像を越えてくることだろうと誰もが思う。

服装はジパングでよく着られるキモノの変形、手足が動かしやすいように半分になっている。


幼女は仏頂面にて足をぶらぶらさせて、ぶつぶつと呪詛の言葉を投げつけているのだった。


「カエデ様…」


そんな幼女=カエデを困ったように背後から見ている従者らしき青年が声をかける。


「なんですか?」


カエデは丁寧に振り替えるが、その張り付いた笑顔に青年は背筋を凍らせた。


「…そろそろご機嫌を直らせては如何でしょうか。せっかくのお祭りです。楽しまないのは、損ですよ」


「ふん! お師様が悪いのです。今日は一緒に祭を回るはずだったのに、急に何処かに行ってしまって」


カエデは、養父と出掛ける予定だった。が、出る直前に使者が現れ養父を連れていってしまったのだ。残されたのは、カエデと養父の従者である青年イットウの二人であった。


「カエデ様。ボクデン様は、カエデ様と行きたかったのです。ですが、あのお方はそう言ったお人です。その双肩にはこのジパングの人々の安全が乗っております。それがわからないカエデ様ではないでしょう?」


「……」


カエデは無言になり俯く。わかってはいるのだ。カエデの養父であるボクデンは「剣聖」である。魔獣討伐と請われればすぐにでも駆けていく。それは際限が無い。その瞳に映るもの全てを彼は助けるのである。英雄の英雄たる由縁と言えた。そんなボクデンの事が大好きであるし、尊敬している。でも子供の感情だけはどうしようも無かった。


「…はぁ、何かカエデ様が悲しいと僕まで悲しくなってくるなぁ~」


イットウの言葉にカエデは肩をピクリと反応させる。が振り向くまでは行かない。イットウはもう一度、間を保った後いつものようにいつもの事を繰り返し始めた。


「僕は今日カエデ様と一緒に祭を回るの楽しみにしていたのに、一緒に回れないから苦しいなぁ、悲しいなぁ。カエデ様はきっと僕の事が嫌いなんだなぁ」


酷い三流演技である。ちらちらとカエデの反応を見ながら言葉を変えるイットウ。


「そ、そんな事はないです!」


イットウの最後の言葉が勝因となった。カエデは慌てて立ち上がるとイットウと向き直る。


「絶対嘘ですよ~きっと僕とは一緒にいたくないんですよね」


イットウはカエデに背を向け泣いてる振りをする。


「そんな事ないです! 私イットウ兄様と一緒に回りたいです!」


カエデは慌てて言う。もらったとばかりにイットウは笑みを浮かべ、


「本当ですか?」


「本当です!」


「イットウ兄様大好き…って言ってくれたら信じるのですが…」


イットウは悪のりする。普段言って貰えない事を要求した。


「う…イットウ、兄様…大好き…」


カエデは、耳まで真っ赤にして言った。十にもなると、気恥ずかしくて言えなくなる。イットウは、久々に聞いたカエデの言葉に腰から砕けそうになるのを必死に押さえ込み、


「信じましょう。ささカエデ様、祭を見て回ろうではありませんか!」


カエデへと手を差しのべ繋いだ。


「はい!」


カエデは、笑顔を見せイットウの手を握り返した。


二人は並んで祭へと向かっていった。

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