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剣姫伝  作者: 東 八千代
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剣姫立つ 序章

夕闇が訪れ世界は黒へと変貌を開始する。ゆっくりと天へ登り光が明滅するように星が浮かびあがった。


星は輝き、静寂が夜へと広がりを見せ始めた頃、徐々に徐々に森へと染み渡っていく響きがあった。


森の声と言えば良いのだろうか? 虫の音に、木々の合唱、森の動物達が鳴く、薫風が踊り続けていた。


「……」


だが、一斉にその声は鳴りやむ。森の奥から発生した獣臭が唸りを上げ森全体を染め上げたのだ。やってくるのは、この森の支配者たる獣。真っ暗闇の中に一際輝く恒星の如く揺れる銀の体毛、その四足は大地を穿つほどに強靭。開かれた顎に広がる犬歯は刃の如し…シルバーウルフ。銀狼種と呼ばれる最大級に危険とされている魔獣である。


森は息を潜めたように静まり返り、支配者の歩みをじっくりと行く末を見ているだけだ。


「グルルルル!」


底冷えしそうな唸りを上げ吼える。それにより呪縛が解かれ森の動物達は安全圏まで駆け出して行った。森の木々も自分に足が在るならば逃げたしていた事だろう。それだけシルバーウルフは異様に気が立っていた。先程森へと侵入した者がどうしても許せないのだろう。


シルバーウルフは警告はしたとばかりに全身に力を込めて疾走を開始する。闇を切り裂く銀は正に流星だ。侵入者は自身に何が起こったのか解らないままに、全てを切り裂く爪か、何者をも砕く牙に蹂躙される事だろう。


既に侵入者は眼前。まもなく只の肉片と化す事だろう。そして、シルバーウルフは飛び掛かった。瞬きの後に噴出する血潮は大地へと吸い込まれるはず。


静寂…しかし、その時は訪れる事は無かった。


「おやおや危ないね」


静けさを破るかのように侵入者は呟いた。まるで何事も無かったかのような落ち着きがあった。驚愕するのは王者である。確実に肉片に変えるはずの牙が止められているのだ。しかもその止め方が異常なのである。腕を差し出して噛ませているだけ…まるで犬をじゃれつかせているかのようにだ。硬い。自身の牙が侵入者の皮膚すら突き破れていない事実に、王者はただただ恐怖するだけだった。


「…そろそろ放してくれないかな?」


侵入者は、何気なく言った。その言葉に王者は背筋を凍らせて、瞬時に飛び退いた。


「…」


シルバーウルフは、唸るように侵入者を睨み付ける。月光に写し出された姿は、腰に刀を差した初老の男だ。見た目からは強さなど感じられない。だが目の前のこの男はその見た目とは相反した強さなのだと理解する。


「君は知性があるのだろう。私の言葉を理解してくれると思って話をする」


男は、人と話すように、ゆっくりと話始める。


「先日、この森の生態調査に来た一団が君に襲われた。その人数約二十名。一個中隊と言ったところかな。それを君がほぼ壊滅させてしまった。だから私に討伐命令が出てしまった」


「でも、私は君を殺したくはない。恐らくは彼らが君の逆鱗に触れてしまったのだろう。何、心配する必要はない。適当に誤魔化すさ。これでも国のお偉いさんには顔が聞くのだよ。だからこれからはひっそりと暮らして欲しい。約束してくれるなら私はこの場を去ろう」


シルバーウルフは、驚いていた。この男は自分より圧倒的強者である。しかし、この男は自分側の非を認めた上で強者の強者たる由縁を使わずに譲歩案を出しているのだ。恐らくはこの男の言っている事は本当だろう。しかし、この男が信用出来たとしても、他の人間は違う。人間は醜く強欲だ。きっといつか他の人間が自分達を滅ぼしに来る。


「……やはり引いてはもらえないんだね」


男は悲しそうに言った。


シルバーウルフは、覚悟を決めて四肢に力を込める。全身全霊、自身の最大最高の力を眼前の男にぶつけるために。


そして弾丸のように男へとその巨体を発射させた。


それは刹那の瞬であった。シルバーウルフの瞳には世界が停止したようにゆっくり流れる。男の手は腰の刀に手が添えられている。抜かないのだろうか? と思う。しかし抜く気配はない。このままでは、自分の爪が男の臓腑を蹂躙することだろう。幾らこの男でも、自身の最高の一撃には耐えられないと思う。幾千通りとも思えるような思考の極限。終焉は唐突に訪れた。


激突する両者。一体いつの間に抜いたのか、男の手には刀が抜かれていた。あれほどの凝縮された時間の中でさえ、男が刀を抜いた瞬間さえ感知できなかったと力の差を見せつけられ、王者は地面へと倒れ付した。


「許してくれ……」


男は呟き刀を納める。瞬間、王者の巨体はゆっくりと2つに分割され絶命した。


男は、嫌な仕事をしてしまったことを顔に滲ませ、ふと気付く。

シルバーウルフがやってきた先より、気配を感じたのだ。シルバーウルフより遅いが、それなりの速度でやってくる。


「……そう言うことか」


到着したそれを見て、男は、自分のやってしまった事を激しく後悔した。


それは男が殺してしまった王者の子供。まだ生まれてまもない幼子であった。真っ二つにされた親へとかけより、熱を無くした骸へと鳴きながらすり寄る。


知性の高い銀狼が話を聞かずに襲いかかってきた理由を理解し、男は、天を仰いだ。


初めて投稿させて頂きます。仕事の合間を縫っての投稿でしてしかもスマホ書きは自身初です。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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