冬「初デんっ(むがむが)」 碧「お出かけです!」
ええっと、はじめまして。いや、はじめてじゃないですけど……はじめまして。自己紹介してませんでしたよね。
わたしは"宵待 冬美華"といいます。15歳で、身長は160cm超えと女の子の中では少し高め。趣味は読書と散歩。基本的に名字で呼ばれるけど、親しい間柄だったら下の名前で呼ばれる。また変なくせ毛のせいで"ふみねこ"と言われることも。もちろんおふざけで。
まぁみての通り、これと自慢できる程の特異点はない普通の女の子です。
今年、高校デビューしました。高校、高校です!楽しむ時は大いに楽しもうと思っています。というのも、中学の時に部活……と言っても大会の時にしか設立されない臨時なものなんだけど、それに所属していてあまり楽しめなかった。でも楽しくなかった訳じゃないよ。ちゃんと思い出はあるから。
嫌いなものもあるよ。蜘蛛とか毛虫とか。特に秀でて嫌いなのが人の障り。人の視線とか距離感とか、そういうのが一線を越えるとストレスになる。だから、小中とあまり人と関わろうとしなかった。怖かったから……。
それともう1つ。傷痕だ。わたしの体には大きな火傷の痕がいくつもある。特に左胸からお腹と右腰から太ももの上の方までにあるものが大きく、よく目立つ。焼けて爛れている訳ではないく、ただ焦げ茶に変色した部分があるだけ。別に触っても普通の肌の感触となにも変わらない。
ただ……他の人から見たらわたしの体はおかしなもので、小学校に上がる前に何度か虐められたことがあった。だからわたしはその頃から痕を隠すためにずっと包帯を巻いている。そして極力巻いている包帯も見せないようにしている。今もそう。体育とかは見学したり、ジャージ着たりと色々制限をかけている。またあの時みたいに……なりたくないから…。
そんなわたしに手を差し伸べてくれたのが……そうです、碧です!
本名は"朝月 碧"。わたしと同じ15歳。身長は大体180cmくらいと結構高い。小学校低学年の時同じクラスで、よく遊んでもらった。始めは遊ぶ以前の問題で一度喧嘩しているんだけど、碧の執拗な遊びの誘いで何度も連れ出され、結果かけがえのない友達になった。
けど小学校3年生の時、突然碧はいなくなった。ご両親の仕事でイギリスに引っ越すことになったからだ。
他人の家の事情だからどうこう言うことができないし、どうすることもできないんだけど、まぁ……あの時は子供だったからって事もあって結構精神的にきちゃって。大事な人だから……突然いなくなったことに受け入れることができず、1週間学校を休んだ。今もあの頃ももう会えないんじゃないかって思っていたから……また会えた時にはすごく嬉しかった。
なんかわたしの個人的な感情が混ざっちゃったけど、ざっとこんな感じです。ほかにも優とか弟とかいろんな人がいるけど、それはまた今度ということで。
さて………………。
「……………………」
周りを見渡す。駅から駅へ行く道。休日の朝早く。流石にこの時間は人があまりいないと思ってたけど、意外にもかなりの人が行き来していた。歩ける隙間なんてない。
そんな中わたしは
「ええっと……………………」
人混み外れたところにある駅構内の地図を見ていた。
今はここで、こっちはさっき出た駅で……あれ、じゃあここは?
というか待ち合わせ場所……どこ?
今わたしは……絶賛迷子中です。
遡ること2日前。
「え、お出かけ?」
「うん。今度の土曜日に」
放課後、喫茶店で碧からそんな提案を出された。
ゴールデンウィークが明けて2週間たった木曜日。あの恥ずかしい告白等があって、少し複雑な関係になったわたしと碧。恋人同士ではないけど、互いにそのような感情がある。
だからなのかな、碧が部活とかで忙しくて一緒にいることがなくて寂しい。相手のことがあるから贅沢なんて言えないけど、もう少し一緒にいて欲しいな……。
そう思っていたから碧に言われた時、正直驚いたし、嬉しかった。
「どこ行くの?」
「んー、それは秘密」
といたずらに笑顔で言ってくる。こいつ……わたしのことをからかってるな。
「おーしーえーてーよー」
「ダーメ。土曜日まで秘密」
「むぅ……」
「ふてくされてもダメ」
「…………からかってるでしょ」
「なんでそう思うの?」
「すごく楽しそうな顔してるもん……」
"そうかな"とまたいたずらに笑ってくる。むかつく……。だから碧のほっぺたをむにーって引っ張ってやった。
「ふぁ、ふぉうひへばふぁふぃふわ?(あ、そういえば足は?)」
「あぁ、うん。おかげさまで」
「ふぉう。ふぇか、ふぁたふへるお?(そう。てか、まだつねるの?)」
「後もう少し」
「ひひゃいれふ……(痛いです……)」
結局どこに行くのか教えてもらえず、教えてもらったことは待ち合わせ場所だけ。だからその待ち合わせ場所に行こうとしたんだけど…………はい、迷子になっちゃいました。
碧には入ってすぐの改札口に来てって言われているんだけど……どこ?
そうしているとピコンとスマホから音が。碧からLINEが着た。
"今待ち合わせ場所にいるよ"
どうやら先に着いたみたい。今着いたのかな?
ピコン
"今どこ?"
そうでもないようです。これ……多分結講待たせちゃっているやつだよね。早く合流しないと。あせあせあわあわして地図を見て探そうとしても結局分からず、
"今駅と駅の間の地図のところ"
"迷子になりました……"
と泣く泣く返信し、ひろいに来てもらいました……。情けない……。
碧にひろわれ、エスコートされながら電車の中へ。ここに来るまで色々あったから、やっと一息つけると思ったけど……あまかった。
乗り込む電車がまさかの満員!しかも降りる人より乗る人の方がはるかに多く、最早パンクするんじゃないかと思うほどのレベル。次の電車にしようかと話になったんだけど、乗り込む人たちに押されてそれは叶わなかった。現在わたしたちはドア際でギュウギュウと押されてる。いや……ギュウギュウ押されているのはむしろ碧の────
「おっ……おおっ!」
突然ぐーっと体が外に引っ張られるような感覚が。それにつられて乗っている人たちが同じ方向に引っ張られる。すごい圧迫感。胸……苦し……。
何度か苦しいことがあったけど、目的地の最寄り"舞浜駅"に無事到着。
舞浜駅……。はて、どっかで聞いたような?
それはそうと……
「……………………」
胸をおさえながらじーっと半目で碧を見る。
「あの、冬美華さん?なんなんでしょうか……」
「胸……触った……」
うぐっと唸る碧。
あの時わたしは碧に壁ドン───じゃなくてドアドンされて、そこにできた隙間に収まっていた。で、あのカーブ。ぐーっと乗ってるみんなが引っ張られて、押しつぶされるような感じで碧がわたしの方に寄ってきてぎゅーと。その時碧の体が胸に……その……ぽよんと…ね。
いや……仕方ないと思うよ、うん。だってあれで耐えろって言う方が無理だもん。むしろ碧はよく耐えて我慢してた。
だから"あれは事故!"と言い聞かせているんだけど……やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
「変態……」
「うぐっ」
「スケベ……」
「…………」
「……………………ありがと……」
「……どうも…」
色々あったけど……わたしが押しつぶされないようにしてくれたから、一応はお礼はしないと。
「そ、それで……結局どこ行くの?」
なんか変な空気になりそうなので、無理矢理話を変える。
「どこって……わからないの?」
「わからないに決まっているじゃない!教えてくれないんだから!」
と言って、はっと気づく。ちょっと声大きかったかもしれない……。周りの人たちがわたしたちの方をチラチラと見てくる。中には雰囲気を壊されたのかイライラした目線で見てくる人もいる。ごめんなさい……。
「冬美華、声大きい」
とさっきより少しボリュームを下げて碧が言う。全く関係ないように言ってるけど、あんたのせいなんだからね。
「教えてくれないから聞いているの。
ねえ、もういいでしょ」
「んー、そうだね……。もういっか。
冬美華、舞浜に着く前に何か気になるものなかった?」
「気になるもの?」
と言われて思い出してみる。
えっと…………。
「山?」
「そ」
「そこに行くの?」
「うん」
「何があるの?」
「え…………」
碧が驚き……と言うより呆れのような、そんな絶句をした。手を額に当てている。な、なになに?なんか変なこと言っちゃった?
「えっと……1つ聞くね。冬美華ってその……行ったことない?アミューズメントパークとかそういうの」
「うん。あんまり行かないよ。なんで?」
「いや……なんでもないです……」
「?」
力なく答える碧。変なの。
「まぁ着いてみればわかるよ。ほら、もうすぐだ」
と指差す方を見てみると
「うわぁ……」
すごく大きくて綺麗な建物があった。門なのかな、立派な扉がいくつもある。これテレビで見たことある。夢と魔法の国……だっけ?あの赤パンツのネズミさんがいるところ。結構楽しそうだった覚えがある。
碧についていってチケットを購入し、門の前の人たちに並ぶ。
「ぅふわぁぁ……」
間の抜けた欠伸が出る。ん……。
「眠い?」
「うん……ちょっと……。でも……」
「でも?」
「今、それよりもすっごく興奮してるの!どんなのかすごく楽しみ!」
「そ、そう」
「それに……碧と一緒に遊ぶの久しぶりだし……」
「え、なんて?」
「なんでもない」
最後のは聞かれなくてよかった。だって恥かしいもん。
その後、碧がパークの地図を広げてどこにどんなアトラクションがあるかを説明してくれた。そしてどこを周るかをコースと一緒に決める。その時パス(?)がなんとかって言ってたけど、そこは碧に任せることにした。
そんなことをしていると開園時間2分前になった。そして係りの人が開門する。よーしっ!いっぱい遊ぶぞー!
「あー、楽しかった!」
碧を連れてアトラクションから出る。すごいスピードで降りたり動きまわったりして髪が乱れているけど、そんなの気にしない。それほど楽しかった!
さっき乗ってきたのはジェットコースターみたいなアトラクション。火山の中を駆け巡って最後は猛スピードで駆け下りるもの。たしか映画でやってたよね。
「楽しそうで……なにより」
そんな気分高揚のわたしと違って、碧はなんか力なく答える。どうしたんだろう……。もしかして楽しくなかったとかかな。楽しんでるのわたしだけ?
「どうしたの?」
「いや、別に」
「楽しく……なかった?」
「いやいやいや、そんなことはない!」
「じゃあ、なに……?」
「少しビビりました……」
「ぷっ」
吹き出しちゃった。だって碧のそんな姿見るの初めてで面白かったんだもん。
でもよかった。
「楽しくない訳じゃないんだね」
「楽しくない訳あるかっての。
おーし、次行くぞ、次!」
「うんっ!」
碧に引っ張られてその後をついていく。今更なんだけど、碧がわたしの手を握ってた。ぎゅっと、ね。
「ぅん〜〜はぁ〜〜」
ぐぐーっと体を伸ばす。ん〜〜、気持ちいい。
今はパークからの帰り道。碧と一緒に電車の席に座ってる。腕時計を見ると針は8時を指していた。ちょっと遅い時間。人はあまりいない。
「乗ってる人少ないね」
「そうだね。行く時あんなにいたのに……泊まったりしているのかな?」
「泊まる?」
「そ。あそこはホテルもあるんだよ。パークで遊んで泊まるって感じで」
ホテル、お泊まり……か……。
「ん?どしたの?ボケーっとしちゃって」
「んー?今度行く時はお泊まりもしたいなぁって思ってただけ」
そしたら碧が急にそっぽを向いた。よく見ると、耳が少し赤かった。もしかして照れてる?
ぷにぷにつんつんとほっぺたを突く。なにも反応無し。面白くないの。
この後は特に何もないまま時間だけが過ぎていき、いつの間にかもう家の前。
「今日はありがと。楽しかったよ」
「それはよかった」
とホッと胸をなでおろす。結構緊張してたんだね。
「特にあのマンションみたいの」
「あ、あぁ……あれね……」
「碧怖がってたでしょ。わたしの手ずっと握ってたよ」
「いや……マジであれは怖かった……」
「ビビりー」
「うっ……。そんなこと言ったら冬美華だって怖がってたじゃん。ストーリーの時、俺の陰に隠れてたくせに」
「いやっ、あれは、その……」
「それに潜水艦の中で半ベソかいてたのは誰だったけな〜?」
「うぅぅ……。いじわるっ!言うな!」
「はははっ」
と楽しそうに笑う碧。またからかって。
だけどこういうの好き。温かみがあって。もっとこうしていたいなっておもうんだけど……
「さて……時間も結構遅いし、そろそろ引き上げだな」
「そう……だね……」
時間が許してくれそうにない。
腕時計を見るともう11時近く。高校生でも外にいるのがおかしい時間。もう少し碧と話したいけど、流石にそれはわがまますぎる。
ぴとっと碧の両手がわたしのほっぺたを包む。ちょっと冷たい。
「寂しそうな顔しないでよ。いつでも会えるんだから」
そんな顔してたのかな。でも寂しいのは事実だから何も言わない。碧の手に自身の手を重ねる。こうしてると落ち着く。
少しの間そのままでいて、碧の手を離す。これで大丈夫。寂しさはもう和らいだ。
「じゃあね、碧」
「ん。またね、冬美華」
そう言って、来た道を戻っていく碧の姿を見えなくなるまで見送った。といってもすぐに曲がっちゃうから、見送ったのはほんの10秒ちょっとなんだけどね。
家に入ってお土産をしまって、お風呂入って、寝る準備をする。今日は久しぶりにいい夢が見られそうだ。
続きますっ!