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恋猫  作者: Hiei
2/5

再開

毎度ながら、文章が変になっていると思います。本当にすいません……。

ええっと……。

こんにちは。わたし、"宵待 冬美華"といいます。以後、お見知りおきを。

今年、高校デビューしました。

高校に入学して、はや1カ月経とうとしています。

今はまだ4月。桜の花は散ったけど、ポカポカ陽気は変わらない。

けど、クラスの雰囲気は変わった。入学したてはみんな緊張してちょっと静かだった。それが今は多くの人がその緊張から解放され、和気藹々、楽しく過ごしている。

わたしはというと、

「……………………」

1人。本を読んでいる。

……別に友達がいないわけじゃないよ。小学校中学年から一緒の子がいるから。まぁ……その子1人だけなんだけど……。

寂しくない……と言ったら嘘になる。みんなの輪の中に入りたいと思っている。けどね、わたし……友達作るの苦手なんだ。自分の……身体の事で変な目で見られるのが怖くて、だから人に近づきたくても"ダメだ"って体にブレーキがかかる。だから……苦手。

「ねぇ、冬美華」

前の席でわたしに向かって女の子が話しかける。"橘 優姫"。わたしの小学校のころからの友達。

「なに?」

「いい加減、他の人と話したら?高校生活楽しめないぞ〜」

「ん……そうしたいんだけど……。」

そうしたいんだけどね。

「怖い……」

「はぁ……」

ため息つかれた。

「どうにかならないものなの?それ。」

「無理無理!絶対無理!アルマゲドンの地球衝突を防ぐぐらい!」

「あれってどうにかなっているよね。」

よくご存知で。

「はぁ、無理……か。まぁ……冬美華だから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど……でもねぇ」

「ごめん……」

「謝んなくていいって。

でも友達は作ったほうがいいよ。冬美華には絶対必要」

「うん……。わかった。ありがとう、優」

「いいっていいって。」

「優姫ー。先輩が呼んでるよー」

「んー。了解。じゃ、冬美華。また後で」

と言って教室を出ていった。

友達、作らないと。



と言ってもすぐにできるわけでもなく、1週間経ってしまった。

今日はゴールデンウィークのちょっと前の土曜日。わたしは本を買いにきている。ちょうど、好きなシリーズの新刊の発売日なのだ。高校生の恋愛ストーリーで、第1部のところが今映画化されているの。

ただ入手が難しい。どこの本屋さんに行っても販売部数が少ないからだ。人気が故にわざとしているのか、あえてこうすることで人気を煽っているのか、そのはよくわからないけど、どっちにしろ発行元に言いたい。

もっと発行部数増やして!


何とか3店舗目で本を確保。時間はかなりかかった。買って帰ろうとした時にはお昼過ぎだった。

帰り道。わたしはいつもとは違う道で帰った。と言っても通ったことがない訳ではない。片手で数えられる程だけど。

だ、大丈夫!道迷ったりしないから!

確かこっちの方向に行けば帰れ

「うわっ!」

突然足下に黒い何かが飛び出した。

「おっ、おおっ!きゃ!」

驚いて後ずさりした時、アスファルトの段差を踏み外して尻もちつく形で倒れた。痛い……。特に右足首がきている。捻ったのかな。

「にゃう?」

そんなわたしの近くにネコがやってきた。クロネコだ。何だろう……わたしを見つめてくる。

そして右足首に近寄りペタペタと叩いて、その後ペロペロと舐めてくる。

あれ?

「もしかして、君がそうなの?」

飛び出してきたのって、このクロネコ?

そしたらわたしの周りをぐるぐると歩いて、太ももに乗っかってきた。また見つめてくる。

「そっか。

でも急に出てきちゃダメだよ〜。危ないからね。」

わたしの言ったことが伝わっているのかわからないけど、お腹にほっぺをすりすりしてくる。伝わっている……のかな?

「…………。」

周りの人たちがわたしを暖かい眼差しで見て歩き去っていく。なんか……居心地悪い。

と、とりあえずこの場から離れよう。そう思って立つ。けど。

「痛ぁ……。」

捻った右足首が痛い。これは歩くのたいへんかも……。





「痛っ!」

足首が痛い。しかも最初より悪化している気がする……。うぅぅ。

「にゃう?」

わたしの側でクロネコが心配そうに鳴く。転けた時からずっと側にくっついてついてくる。

痛いけど、しゃがんでクロネコを撫でる。

「大丈夫だよ。ちょっと歩きにくいだけだから。一緒にいてくれてありがと。」

「なーご。」

「できれば助けて欲しいけど……ま、言っても無理か。」

「?」

「ん?ネコの手も借りたいなぁーって思っただけ。君みたいなね。」

「にゃー。」

突然クロネコがくるっと踵を返して、来た道を反対方向に走っていく。

「あれ?どこいくの?」

わたしの声が聞こえてないのか、そのまま走って見えなくなった。

もしかしてだけど、伝わったのかな?

まさか。まさかね。

…………ちょっと待ってみよっかな。





待ってみたけどなかなか来ないです。結局歩いて帰ることにしました。クロネコちゃんには悪いけど。

だってあのまま待ってたら、変な人にお持ち帰りされる。さっきだって男の人に変な目で見られてたいへんだったんたんだから。

「痛ぁ……。」

また悪化したのかな。さっきより痛い。

捻っただけじゃないのかも。

「みゃ〜う。」

「ん?」

聞き覚えのある鳴き声が後ろから聞こえた。見るとあのクロネコちゃんがいた。

「みゃうにゃーん。」

しきりに何かを訴えてくる。

「みゃうみゃう。」

「な、なに?」

な、なんだ?

「あ、いたいた。こんなところにいたのか」

クロネコちゃんの次に、男の人の声がした。声のする方を見てみる。

「うそ……でしょ……」

「ん?」

「碧……なの?」

「ん?何で俺の名前知っ…………ちょっと待って。もしかして……冬美華…?」

「……うん」

そこには、幼い頃に離れ離れになった友達の姿があった。






今、頭の中がぐるぐると渦巻いています。

何せわたしの目の前には、ここにいるはずのない人がいるから。

え?どゆこと?

「え?えっと…………え?」

「冬美華、久しぶり!」

「え、うん。久し……ぶり」

久しぶりに会った友達"朝月 碧"がわたしの手を握って、ニコニコ笑顔でブンブン振ってくる。

いや、えっと……嬉しいのはわかるよ。わたしだって嬉しいもん。また会えたんだから。

だけどそれよりも……。

「なんで……ここにいるの?」

ほんと……ほっんとこれ。

だってわたしの記憶が正しければ、碧はここ"日本"にはいないんだよ!たしかえっと……どこだっけ?と、とにかくこんなところにいるはずないの!

でも……ここにいる。わたしの目の前に……。

「どう……して……」

「あぁ、うん。それは……と言いたいところだけど────場所を移そう。ここじゃ話辛い」

と言って、視線をわたしの方から道路の方へ移す。それを見てわたしも碧と同じ方向を見る。……周りの人たちが見ていた。これは確かに話辛い。それに周りの妙な空気で気分が落ち着かない。

わかったと小さな声で言って、その場を後にした。もちろんわたしは動けないので碧に手伝ってもらった。自転車の荷台に乗る形で。


近くの公園に来た。お昼はとっくに過ぎているので、公園には子供でいっぱい。

わたしたちはというと、公園の出入り口に近いベンチに座っている。クロネコちゃんも一緒。わたしの膝上に寝っ転がっている。

「冬美華。どうなったか説明してくれない?」

碧が聞いてくる。主語は言わなかったけど多分足首のことだろう。

クロネコちゃんを弄りつつ、なにがあってこうなったか碧に事細かに説明する。

かくかくしかじかかくかくしかじか。

因みに、かくかくしかじかの"かく"は古典で"これ"とか"このように"って意味があります。今はどうでもいいんだけど。

「ふむ」

と碧は納得したように言って、わたしの前にしゃがんだ。

「………パンツ見ようとしてるの…?」

「なっ!なに言ってんの!」

碧の顔が真っ赤になる。

「だって座っている女の子の前にしゃがむとか、どう見たってパンツ見ようとしているにしか見えない。」

「ないない!そんなつもりは一切ない!ただ俺は冬美華の足の怪我がどうなのかが見たいだけで、決して冬美華のパンツが見たい訳じゃないから!」

何か……そこまで否定されると

「……れは…………でショ……ク。」

「え?何か言った?」

「な、なんでもないっ!見るなら早く見てっ!」

「わかった。」

「上、見ないでね!絶対だよ!」

「了解致しました、と。」

そもそもショートパンツで見えるのかよとぼやきながら、わたしの足を触る。

「痛っ……。ど、どう?」

「んー。ブーツの上からじゃわかんないな……。脱がしてもいい?」

「いいよ。ちょっと待ってて。」

「俺がやるからいいよ。痛いでしょ、足首。」

「うん。ありがとう。」

碧が脱がして、改めてわたしの足首を触る。強く触っているのか足に激痛が走る。

「痛っ!痛い!あっ!うぅ!」

「あぁ、ごめん。でも我慢して。」

「いっ!でもっ、もっと、優しく、お願い、だからっ!」

「そこまで強く押してないけど……。」

そう言いつつもさっきよりは弱く押す。

けど痛いことには変わらない。ピキピキと痛みが走る。

「い!あっ、痛っ!

ねぇ、ほんと、やめ、やめて!」

「ちょっ、動くなって!わからないだろうが!って痛っ!蹴るな!ブーツ履いたまま他人の顔を蹴るな!」

「じゃあやめてって痛い痛い痛い!」

「なら暴れるなよ。」

「痛い痛い痛い!ほんと痛っ!ほんと、ほん、やめ、やめてよぉ……。」

もう完全に涙声。自分でもわかる。もう本当にそれくらい痛い。そんな必死の訴えも虚しく碧に揉まれ続ける。最早拷問。しばらくしてようやく碧の拷問から解放された。痛い……、うぅぅ。

「なるほどね」

「……何かわかったの」

まだ直らない涙声で碧に足首のことを聞く。あんなに弄りまわしたんだから、わからないなんてことを言ったら怒るよ。

「はっきりとはわからないけど……」

「碧!」

わからないって言った!今わからないって言ったよね!

「ちょ、ちょっと待って。最後まで聞いて。はっきりとと言っただけで、わからない訳じゃないから。

冬美華。その足首、多分捻挫しているよ。触った感じはね。ここ、(くるぶし)の辺りを触ってみ。腫れているのがわかると思う。」

碧に言われた通り触ってみる。んー。よくわからないなぁ……。少し変な感じがするけど。

もう片方のブーツを脱いで同じところを触ってみる。それはもう明らかだった。見ただけでもすぐわかる。それくらい腫れていた。

「うわ……どうしよう、これ。」

「あらまぁ。こんなにはっきりと。ていうか冬美華、足首細っ。脚もそうだけど。」

「ちょっとどこ見てんのよ。それに驚くところそこじゃない!わたしのは平均的な太さです!そんな細くないもん!」

ぷいっと碧から顔背ける。本当……変わってない。素直に自分の思ったことを言っちゃうところとか、全然……。

「はいはい、さいですか。それはそうと、この腫れ具合酷いな。

湿布とか家にあるの?」

「うん、あるよ」

「どんな湿布?」

「えっと……薬局とかに売っているやつ。あれじゃダメなの?」

「ダメじゃないけど、どうせならちゃんとしたものがいい」

「ちゃんとしたものって……」

湿布にちゃんとしたものってあるの?偽物と本物みたいな?

「行くよ」

「へ?」

どこに?

「プロのところにだよ。この近くに整体院があるんだ。そこできちんと診てもらおう」

「いや、でも……」

「素人の診断よりプロのほうがよっぽど信憑性が高いだろ?だからほら、行くよ」

と言って、わたしを自転車の荷台に乗せた。……ちょうど高い高いする要領で。なんか恥ずかしい……。

いや!それよりも!

「えっ、ちょっ、だから待って!ストップストーップ!」

必死に止めようとするが、そんなわたしの制止も聞かず、アウ……合法ギリギリでどんどん進んでいく碧。

どうしよう……お金ほとんどないよ……。





結局、わたしは連れられて整体院に行った。診断結果は捻挫、しかもちょっとマズイやつ。少しの間あまり動かさないでねと言われ、湿布とネットを処方された。肝心のお金はというと……碧にほぼ全額払ってもらいました。ほぼです。

「ごめんね、全額払ってもらっちゃって」

「いいよ。気にしないで」

そう碧は言うけど、気にしない方が難しい。何せ整体院でお医者様に診てもらい、よくわからない機械を使ったりとして少し尾根の高いものに。そしてさらに処方してもらったものの代金を含めるとさらに高く……。そのお値段、およそ4000円弱。高校生にはかなりの大金。そのほとんどを碧に払ってもらった。具体的には……9割ぐらい。本当、碧には申し訳ないです……。あんなにしてもらったのに……。

「お金、きちんと返すから」

「いいよ。別にそんなことしなくても」

「それは絶対ダメ!あんな大金……絶対返すから!」

「そんなに意気込まなくてもいいよ。あれくらい軽いものさ」

そんな碧の言葉にムッときた。

「なに言ってんの!そんな簡単な」

ものじゃないと言おうとしたけど言えなかった。碧に人差し指で口を塞がれたからだ。

「いいって言っているでしょ。それでも気にするなら、1つだけお願いを聞いて欲しい」

とすごく真剣な顔でわたしを見つめてくるから、少し恥ずかしくなって目を逸らした。前にもこんなことあったけど、あの時はこんな思いはしなかった。ちゃんと見つめ返せたはず。なんでなんだろ。

「どんなお願い?」

「冬美華の側にいたい」

「へ?」

な、なに?今……なんて。

「あの……碧、もう一回言ってくれない?」

「え?うん。冬美華の側にいたいって言った」

や、やっぱり聞き間違えじゃない!これってつまり

「付き合ってってこと……?」

「それは冬美華にお任せします」

と言ってまた自転車を押し出した。よく顔が見えないけど、ほんのり頬が紅く染まってた。これってもう付き合ってと言っているようなものじゃない。碧は好きなんだ、わたしのこと……。

わたしは……あれ?

「あ、碧……」

「なに?」

「あの、返事なんだけど……。少し考えさせて」

「OK、わかった。ゆっくりと考えて。時間はたくさんあるからね」


その後碧とそれぞれの知らない昔話をした。わたしは碧の海外の話を興味津々で聞いた。特に生活やそこに住む人たちの意外な面とかに聞き入った。逆に碧もわたしの大変だったあの頃の話をちゃんと聞いてくれた。ただこうした楽しい時間の中でわたしは考え事をしていた。

そうしている内にわたしの家に着いてしまった。碧がわたしを降ろしてくれる。

「今日は色々その……ありがとう」

「いいって。俺も君がちゃんと充実した生活を送れて安心したよ」

「一応……だけどね」

「それでもいいよ。楽しそうに話しているんだから、それを見られただけで充分です」

"腹減ったから帰るね"と言って自転車にまたがって帰ろうとする。あ、ちょっと

「ま、待って」

「?」

「あの……連絡先教えてくれない? お返事のことがあるし、大事な人だからもう……繋がりを切りたくない」

という訳で碧の電話番号とLINEを登録した。よし、これでいつでもお話ができる。






「宵待さん」

「……………………」

「宵待さんっ」

「え……あっ、はいっ!」

「どうしたのですか?さっきから上の空ですよ?」

「すいません……。考え事をしていました……」

「はぁ。次からは気をつけるんですよ」

「はい……」

こんなやりとりがお昼までに5回あった。挙げ句の果てになぜか保健室に行くようにも言われた。保健室、行くほど?

「……………………」

「……美華…………華」

「……………………」

「……華……冬美華っ!」

「うわっ⁉︎」

耳元で名前を言われた。おかげで耳がキーンとする。びっくりしたぁ……。

「耳元で大声だすな」

「そこまでさせた冬美華が悪い」

「もっと他にもあったでしょ!」

「結構揺らしたりしたよ。こうやって」

と大きく揺らして"どう?"と見てくる。ごめんなさい、気づかなかったわたしが悪いです。

「でもどうしたっていうのよ。ボーッとしちゃってさ」

「そんなにしてた?」

「してたしてた。なに考えてたの?」

「別に……特別何か考えてた訳じゃ」

とはぐらかし、水筒のお茶を飲む。これはまあわたし自身のことだから、他の人に介入されるようなことは決して

「もしかして告白されたとか」

「んぐっ!」

お茶を噴き出しそうになった。

「え、冬美華⁉︎」

「ケホケホッ!はぁ……はぁ……」

死ぬかと思った……。ゼーハーゼーハーしている。苦しい。

「まさかのビンゴ……」

「それよりケホッ、言うことがケホケホ、あるでしょ!」

「あったっけ?」

それでもなんだかんだで背中をさすってくれる。胸を押さえて呼吸を整える。無理に空気を吸おうとせずにゆっくりと確実に酸素を取り込んでいく。喘息や過呼吸になった時、わたしがよくやる方法だ。

気づくと教室にいたクラスメイトが私たちを見ていた。少数の女の子がわらわらと集まってくる。

「どうしたの?」

「何かあった?」

「大丈夫大丈夫。なんでもないから」

「はぁはぁはぁ……ふぅ」

「ほら、ね」

「うん、わかった」

「何かあったら言ってね」

と言って元の場所に戻っていく。わたしが言うのもなんなんだけど、女の子って不思議。なんていうか、妙な協調性があるよね。それにリード性も。男の子の気持ちがなんとなくわかる気がする。

「治まった?」

「なんとか……」

「で、どうなの?告白は」

「こ、告白じゃないっ!」

「じゃあなんなの?」

「えっと……えと……そうお願い。お願い、提案だよ!」

「この場合の提案って英語だと"propose"だよね。告白と変わんないじゃん」

「えっと……えっと……」

もう反論する材料がない。言いくるめられた。あうあう……。

なので昨日のことを簡単に優に話した。

ふむふむと優。そしてなんか残念そうな顔をした。額に手を当てている。え?

「はぁ……」

「そこまでなの⁉︎」

せめて人並みぐらいはあると思ってた。

「とりあえずお昼食べよ。話は帰る時に」

そう言ってお弁当を取りにいく。わたしもリュックサックからお弁当を取り出す。時計を見ると残り15分。早く食べないと。



放課後。

わたしは優と一緒に下校。今日は珍しく優の部活がオフの日。なんか顧問の先生が急遽オフにしたらしい。なにかあったのだろうか。

「おーい、冬美華」

「え、なに?」

「またボーッとして。考え事?」

「ん、まぁ……」

お昼の時とは違うけどね。

「冬美華がこんなになるってことだから余程のことなんだろうけどね。ちょっとズレてるけどね」

"そこが冬美華のいいとこなんだけど"と続ける。ズレてる、よく優に言われる言葉。わたし自身、ズレてると言われても自覚がない。なにが普通なのかよくわからん。

「で、えっとなんだっけ。冬美華の悩み事は」

「お昼話したじゃない」

「授業に集中していたもので。どっかの誰かさんとは違って、ね」

あまりに憎たらしくいたずらに笑うからムッときて、ぷいっと反対方向に顔を向ける。どっかの誰かさんは集中してませんでしたよ。ふん。

「ごめんって。でも話してくれないと相手に迷惑かけちゃうでしょ、たしか」

「うん、て覚えてるじゃん」

「これだけしか覚えてないの。ざっくりでいいからもう一回話して」

と頼みごとをするように手を合わせてくるから、"もう……"と声を漏らしてもう一度優に話す。

話を聞いた優はお昼の時とは違って、今度は真剣な顔で聞いてくれた。

「ふむ。冬美華、ちょっと聞くけどさ。好きが2種類あるの知ってる?」

「うん、まぁそれくらいは」

好き。そう表現するものは大きく"like"と"love"の2つがある。あくまでわたしの認識下だけど。それがどうかしたのかな?

「じゃあその違いってわかる?」

「え、違い?」

と言われても……

「…………スペルが違う?」

「いやいやいや、そっちじゃなくて。意味の方だよ」

「意味……?」

意味、意味ねぇ……。

んーーーーーーーーーー。

「わからないって顔してるね……」

お昼の時みたいな呆れた声で言われた。わからないです、降参です。ていうか呆れるほどなんだ……。

「OK、わかった。えーっとね…………またちょっと質問するよ。冬美華はその……わたしのこと好き?」

え?そんなの

「好きだよ。そんなの当たり前じゃん」

と言ったら、顔を真っ赤にして俯いちゃった。え?なんか変なこと言っちゃったかな……。

「なんでそんなことをさらっていえるんだよ……!」

なんか……ぶつぶつ言ってる。

「じゃなくて……えっとなんだっけ?

そうだ、その冬美華の言う……好きはどんな"好き"なの?」

なんで好きって言うたびに躊躇うんだろ……。深く考えないことにしよっと。それよりもえっと……………………。

「友達として?」

「なんで疑問形なの……」

今度はショック受けたかのように項垂れる。感情が激しいやつ。

「……じゃあ次、次ね。冬美華はさ、その告白してきた」

「告白じゃない!」

「はいはい、提案ね。その提案をしてきた男の子に対してはどうなの?」

どうって…………どうなんだろ?

言われてみるとよくわからない。好き…なのかな……。さっきの優のを考えてみる。優の時、"好き"は友達として。小学校の頃からいつも一緒で信じ合える仲。安心感をもたらしてくれる。それが優に対する"好き"。

じゃあ、碧は?碧はどうなの?…………。わからない……わからないの。好きなのかどうか。でも嫌いでもないし無関心でもない。なんていうか……碧と一緒にいたあの時、胸が締め付けられるような感じがして……熱くなってぽっぽしていた。それに優とは違った安心感もあった。温かく包み込んでくれる感じ。

でも好きって感じじゃない。もっとこう…………。

「……………………」

どうしよう……。またぽっぽしてきた……。なに……この感じ。

「ふふっ」

突然優が笑いだした。

「もう答えが出たんだね。ううん……もう出ていたんじゃない?」

「え?」

優の言葉に驚く。え?出ていたってどういうこと?

「なんで……そう言えるの?」

「ほっぺた紅いから」

「え⁉︎」

「特にあんたは色白だからはっきりとわかる」

「えええっ⁉︎」

二重に驚いた。紅かったんだ……そんなにはっきりと……。

「わたし……好きなのかな?」

「さあ?私に言われてもわかんないよ」

そんな無責任なぁ……。

「冬美華はどうなの?」

「どうって……好きなのかわからないの。好きとは違うんだけど、でもそんな感じがするの」

「それってつまり好きってことなんじゃない?それ以外に何かある?」

と言われたので考えてみる。んと……。

「えーっと……えっと…………恋しい?」

「たまに冬美華の頭が羨ましくなるよ……」

とわたしと反対方向に顔を向けた。ちょっとだけ頬が紅くなっていた。

「まぁ、なんだ。結局好き……じゃなかった、恋しいか、そう思うのは冬美華次第だからどうこう言えるようなことはできないけど、少なくとも私から見て、冬美華はその人に対して恋していると思うよ」

"さっきも言った通り結局は冬美華次第なんだけどね"と言ってまとめた。結局はわたし次第。わたしが決めること。好きかどうかを。答えはまだはっきりと出ていない。だけど言えることはある。その想いを碧に言おう。直接。

「優、先帰ってて!わたし寄るところができた!」

「おう!行っといで!頑張ってね」

「うん!」

さっき来た道を走って戻る。駅に入って電車に乗って目的地へ向かう。

場所は────碧の学校だ。



学校に着いて疾1時間半。校門でひたすら碧を待つ。時間はもう6時前。空はもう暗くなってきている。部活が終わったのかチラホラ生徒が校門から出て行く。男子校のため女子は珍しく、わたしがいることに気づくとチラチラ見てくる。碧まだかな……。

「おーい」

遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。探すとそこにいた。碧だ。部活が終わって急いできたのか息が乱れている。

「あの……大丈夫?」

「はぁ……はぁ……大丈夫大丈夫。ちょい待ち」

と乱れた息を整える。安定したのか大きく息を吐く。

「で、話って?」

「あ、えっとね……昨日の返事をんぐ」

「待って冬美華、場所を変えよう」

話を切り出そうとしたら口を塞がれた。

腕を引っ張られ、そそくさと学校から離れる。

「おい、あれなんだ?」

「可愛い子いたな」

「朝月に用があるみたいだったな」

「もしかしてできた……とか?」

「マジか」

「あのやろ……」

去り際に聞こえた男子生徒の会話が妙に気になった。


高校近くの小さな公園に来た。ベンチに座って買ってもらった缶コーヒーをちびちびと飲む。隣では碧が250ccのお茶をぐいぐい飲んで、ぷはーと一気に飲み干した。すごい……。

「はぁー、スッキリした。ずっと喉乾いてたんだー」

「部活、大変だね」

「大変だけど、それに合う面白さや楽しさがあるからそこまで苦痛じゃないよ」

ふーん。なんで説明口調なの?

「まあこの話はそれくらいにしといて。何か話すことがあったんじゃないの?」

「んっ……あ、そうだった」

コーヒーを飲むのをやめて、碧の方に顔を向ける────けど元に戻しちゃう。なんていうか……恥ずかしくなってちゃんと見ることができない。そのせいか

「あ、その……えっと……」

話を切り出すこともできない。ど、どうしよう……。そだ、コーヒー!確かコーヒーには心を落ち着かせる成分があったはず!

「んっ、ん、んむっ」

「あ、そんな飲み方したら……!」

「んっ、んぐっ!ケホッケホッ!」

むせた。無理に勢いよく飲んで変なとこ入った……。苦し……っ!

「ケホケホッ、ケホッ!」

「ほら、言わんこっちゃない!」

背中をさすって息を整えさせてくれる。それ以外にもハンカチを渡してくれたり、タオルを濡らして制服に付いたコーヒーを拭いてくれる。…………。

「……………………」

「あー、大丈夫かな。こっちはいいけどこっちはちょいとマズイな……」

「…………碧ってさ、お人好しだよね」

「え?あぁ、よく言われるよ。余計なことにも突っ込んでくるんだってさ」

余計なこと、ね……。

「……ほんと……その通りだよ……」

「へ?」

「碧はお人好し過ぎ。余計かことに首を突っ込んできて……それこそバカがつくほどね」

「え?え?」

碧、混乱してる。今ちょっとだけいじってやろって思ったんだけど。

「でも……でもね、そんな碧のお人好しで……今のわたしがいるの」

真剣なことだから、想いをちゃんと伝えるとこだからそんなことはしない。

「わたしはあの時、深い海底に沈んでた。真っ暗で光の届かない闇の空間に。友達とか家族とか近所の人とか……そういう発光体すらなかった。1人でいるのが嫌なくせに……寂しいくせに、他人に拒絶されるのが嫌で1人ずっと沈んでた。もう誰もわたしのことを見つけてくれないんじゃって思ってた……」

声が震えて、視界も歪んでいく。

「だけど……そんなわたしに手を差し伸べて……引っ張ってくれて……光を見せてくれた人がいるの。それが」

「俺……か」

「うん……そう、碧だよ。碧だけわたしに真っ暗闇の中から光を見せてくれた。見たんじゃない、見せてくれたの。その時はもう……嬉しかった。見つけてくれたから、わたしというものを見てくれたから……」

頑張って涙をこらえる。ここで流したら、またあの時みたいに弱い自分に戻っちゃう気がして怖かった。

「その時から……かな。碧が頭から……心から離れないの。碧が遠くに行っちゃった時も……今の今まで」

さっきから胸がギュッと締め付けられる。それに熱い。

「まだちゃんと答えが出てないけど……でもこれだけはいえる」

そう言って視線を碧に向ける。そして精一杯の想いを込めて

「あなたが……恋しいです」

碧に

「好きです、大好きです」

と言った。こんな時、笑顔で言ったり真剣な顔で言ったりするのが定石なんだけど、そんなことできなかった。多分今のわたしは泣き顔だ。頑張ってこらえてた涙が、次々と頬をつたって流れ出てる。これを泣き顔と言わずしてなにがある。

泣いちゃった。また……あの時の弱虫の自分に戻っちゃう……。

もうダメ、耐えられない……。胸の締まりがギューっと強くなる。それくらい碧が好き。だけど……

「でも、付き合ってとは言えない……」

「?」

どういうことって顔で見てくる。けど、すぐに理解したような顔した。

「なるほど、あれか」

「そう……」

キーワードがないのに話が進む。

わからない人のために言っておきます。碧が言った"あれ"とは以前優と話してたわたしの"人避け"のこと。

「いくら昔よく遊んでも、今までずっと離れていたからちょっと……」

「そっか」

と寂しそうに言う碧。すごく申し訳ない……。

「ごめんね……」

「いいよ。仕方ない」

そう言ってベンチから立とうとする。このまま行っちゃうのかな。離れちゃうのかな……。それだけは……ヤダ。

そう思ってたら自然に手が伸び、碧の服を掴んでいた。

「ん、どうしたの?」

「……離れちゃ……ヤ……。もう……わたしの前からいなくならないで……」

ギューっと強く掴む。さっきよりも大粒の涙が流れる。感情が溢れて止まらない。

「全く……女の子を泣かせるとは……」

はぁ……とため息をついてまた隣に座る。

「もうどっかに行ったりはしないよ」

「ほんと……?」

「ほんと。なんなら命をかけてもいい」

「かけちゃわたしが困るよ……」

"たしかに"と笑う碧。それにつられてわたしもなぜか笑ってしまう。

こんな人なんだ、碧は。わたしがこういう風になっても元気にしてくれる、笑顔にしてくれる、そんな人。

「それで結局のところ、どうなったんだ?」

「どうって、あれのこと?」

碧の告白(?)について。

わたしの変な回答のせいでぐちゃぐちゃにしちゃって、結果きちんとした答えを出せないでいたんだっけ。

好きで離れたくないのに、近くなると怖くなる。近づきたくても近づけない。いやな関係だ。

「恋人ではない」

「でも……友達ともいえない」

「もどかしいな」

「ごめん……」

「いいって」

そう言ってまた碧が立ち上がる。今度は服を掴まない。

そしてわたしの方を向いて言うんだ。

「冬美華のこと責めたりしないさ。もともとそういうのが無理だったんだしね。


でも、冬美華は嫌なんでしょ?

そんな自分が。人避けするのが。特に今は。


なら少しずつ……冬美華のペースでやっていこう。それで悩んで苦しまないように。無論俺も全力でサポートする」

って。

それを聞いて、わたしはもう……ダメだった。抑えていた堰が完全に決壊した。


結局……碧と付き合うことにはならなかった。今のところは。

わたしがきちんと碧を受け入れることができるまでお預けになった。相思相愛なのに距離がある……それこそ碧が言った"もどかしい"関係。わたしが導き出した答えだからこんなこと言うの無責任なんだけど。


続きますっ!

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