第壱竜 神に選ばれた者
ぼくの左手には古くから伝承されし『角竜』が宿っている。別に信じてほしいと言ってるわけでもないし、君を騙すつもりもない。
ぼくの左手には、確かに『角竜』はいるんだ。
__青空の下。
ぼくはいつものように、いつもと同じ場所で自然を感じている。そう、ここはぼくにとっての楽園だ。だれにも邪魔されず、害が一切及ばないこの場所は、ぼくの所有物だ。この世界にはいろいろな人間がいる。それもまた、一つの場所を自分だけのものだと思う人間がいるわけで、それがぼくなのだ。
世の中はぼくの基準で周っていて、時間の感覚もぼくが歯車となっている。まだぼくの左手に宿る角竜のことはだれも知らない。いくらそれを教えたとしても、軽く受け流されてしまうだけだし、自分でも自分がどういう役割を持って地球にいるのかも理解が追いついていない。
ただし一つわかることがある。それはぼくが、<神に選ばれた者>であることだけだ。
ぼくは生まれ故郷がわからない。自分が人間ということもわからない。でも記憶がはっきりした時点で覚えてることは一つもなかった。この辛さは自分にしかわからないものだろう。そして時々、左手からは声が聞こえるようになり、その日から毎晩角竜からのお告げの夢を見るようになっていた。
その竜が、何をぼくに訴えようとしてるのかはわからない。何のためにぼくが神に選ばれて、何のためにここで生きてるのかもわからない。
「ぼくはどうしたらいいんだ、アルゼロッド」
”アルゼロッド”。いつも夢から覚めた瞬間、この名前が頭に浮かぶ。アルゼロッド。君は一体誰なんだ。君はぼくの何なんだ。なぜぼくは君のことを思う。男なのかも、女なのかもわからない。もしかしたらその名前は、ぼくの身元を示す唯一のカギなのかもしれない。
__だから、ぼくはアルゼロッドを探す。何も手がかりなんてないし、見つけられるという確証もない。でも、絶対見つけてみせる。それがぼくの、生きる定めである気がするから。