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Light and Darkness  作者: あおの蒼穹著 敬愛監修
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 戦火の中を彷徨っていた2人と1匹。とある街に立ち寄って休もうと思っていたが、奇怪な現象を見てしまった。人が死んでいる。たくさん。それを観察してみると、どうやら鋭利な刃物で瞬殺されているようだった。


 1人の男がその中で悠然と立っていた。その男を見た途端ニータは、

「あ、あ、あ?」

 と悲鳴にならない声を上げて恐怖に怯えていた。

「どうしたニータ?」

 ゲダインがニータの顔を心配そうに覗き込んだ。ニータはその男から目を離さずに――実際には離せなかったのかもしれない――恐る恐ると言った感じで呟いた。

「あの男の人…………ゲルハルトさんです」


 その男はこちらの様子に気づいたようでゆっくり歩み寄ってきた。

「おやおや、こんな所にいたのか。私は君が急にいなくなって寂しかったよ。何処をどう生き延びて来たんだい? 僕の元で僕の片腕になって戦争を終わらせようと言ったのを忘れたのかい?」


 ニータはゲルハルトを見て叫んだ。

「ゲルハルトさん、貴方はただの人殺しです。理想なんてない! 戦争を終わらせようなんて嘘っぱちなんでしょう!」


 ゲルハルトはニータの叫び声を聞いて、困った顔でやれやれと言った感じに口を開いた。

「何を言ってるんだ。君はその男に騙されているんだよ。僕の元へ帰っておいで……。さあ僕と一緒に新しい世界を作り出そう」

 そう優しく手を差し出す。ゲルハルトが浮かべている笑みは一見見優しそうに見えたが、その裏にははたしてどのようなものが渦巻いているのだろうか。


「行くなニータ!」

 ゲダインはニータに向けて咄嗟にそう叫んでいた。その言葉を聞いたゲルハルトは眉を吊り上げた。

「先ほどからなんだと思っていたら、〝ニータ〟か。〝美しき魂〟ね。これはこれは、ぴったりな名前だよ……」

 ゲダインはゲルハルトがぼそっと呟いた言葉を聞き逃さなかった。ゲルハルトは続けてこう言ったのだ。


「――真っ赤に染まった、ね」


 ゲダインはその言葉を聞いて血の気が失せた。ゲダインはふつふつと湧き上がる怒りでどうかなってしまいそうだった。この男はおかしい。それもとんでもなく。

 ゲダインはこの男が幼い少女の手を血に染めさせた張本人だと知った。ゲダインはゲルハルトに向けてつかつかと歩み寄り言った。


「おい貴様! 何故ニータに暗殺術など仕込んだ! 彼女がそれでどれだけ傷ついたと思う!」

「仔馬は生れ落ちてその瞬間から自らの力で立とうとする。しかし人間はそうはいかない。今の時代、人が1人で生きていける訳が無いのだよ。しかも女が。両親を殺されて一人ぽっちのあの子が生きていくために必要な術を教えただけだ」

「求めていない者に与える事ほど愚かで無意味な事は無い! 貴様の思想もヒトラーと同じファシズム、ドイツの灰だ!」

 そう言ってゲダインはゲルハルトを殴った。


 ゲルハルトはペッと血を吐いて

「正義感を振りかざしたって変えられない物がこの世にはあるんだ……」

と捨て台詞のように言った。


 ゲダインはヴォルグに沸いた怒りを必死に抑えつつも、

「こんな男殺した方がいいだろ?」

と聞いたがヴォルグは

「捨て置け。その男はもう盲目と同じだ。ただの兵器。心も無い」


 ニータは、

「ゲダイン……ゲルハルトさんは自分なりに考えを持っているの。そうでしょゲルハルトさん!」

 ニータの言葉にゲルハルトは、

「何を言っているのか……全く興ざめだ。人を殺さなければいいのだろう? 私はもう降りた。ドイツの行く末などどうでもいいのだ……はっ! くだらぬ。貴様らもどうせ死ぬのだよ」

 そう言ってとぼとぼと仕事の無い浮浪者のように目的無く歩き去って行った。


「ニータ怖かっただろ? 大丈夫か?」

 ニータを見てゲダインは優しく言った。ニータは希望の目をゲダインに向けてすがるように言った。

「記憶がフラッシュバックしたの……ゲダイン。どうか私の傍にいつまでも居て。私が本当の私を取り戻せるまで。全て忘れて心から笑える日まで」

「もちろんだ。君は僕が守る」

 ゲダインは心からそう言った。


 ゲダインは眼を鋭くして、ヴォルグに命令するような強い口調で言った。

「ヴォルグ、ニータを頼む」

「どこへ行く気だ?」

「ヒトラーを打ち取りに。ゲルハルトを見ていて早急にことを進めなければと思った」

 そこには何も受け付けないような雰囲気が感じられた。

「……分かった。ここでまってる。死ぬなよ」

「ああ」

 ゲダインは一点を睨みつけた。その方向は最後にヒトラーが出没した場所だ。きっとそこにまだいることだろう。

「神よ」

 ゲダインは天を振り仰いで、神に祈りをささげた。ヒトラーからもらった軍資金をつぎ込んでヒトラーを討ち取りに行くのだ。


 それからヒトラーが討ち取られたという旨を聞いたのはすぐだった。



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