Ⅶ
「ヴォルグ、アウシュヴィッツの中を見た事があるか?」
「実際に見た事はないな。千里眼でかろうじて見えたが、あれは酷いな。まるで人間が豚や牛のように壊され、踏みにじられ、挙句殺される。結局、人間だと思われてはいなかったのだ最初から」
ニータが聞いてきた。
「アウシュヴィッツって何ですか? 私長い間ドイツにいましたけど……知りません」
「ああ、そうか。アウシュヴィッツはポーランドにあるから。アドルフ・ヒトラー率いるナチス党が作ったんだ。ポーランド南部オシフィエンチム市郊外にある。ソ連への領土拡張をも視野に入れた東部ヨーロッパ地域の植民計画を推し進める為に作られたんだが」
ヴォルグが言った。
「日本とイタリアもその存在を知りながらマイノリティーを殺す事に全く異を唱えなかったんだな。全く異常だよ」
「とにかく許せない存在だがポーランド軍は様々な国から軍隊が集結していて火の街と言っていいほど戦火に巻き込まれ植民地化されている。アウシュヴィッツを潰すのは現実的に考えてまず無理だ」
ゲダインは言った。
「それならばやはりヒトラーの暴走を止める以外ないだろうな」
「ああ、奴の居場所はコロコロ変わるが斥候を雇っている。俺がヒトラーから期待を込めてもらった言わば軍資金だが、まさか自分が殺されるために使われてるとは思いもしないだろう。今は待ちだ」
「儂が超獣化すれば居場所も捉えられるし、兵士どもをなぎ倒してヒトラーを殺す事も可能なんだがな。そうすると儂が死んでしまうのでな」
ゲダインは笑って「死ぬのが怖いか?ヴォルグ。俺はそんなココロさえもとうに擦り切れて無くなってしまったからな。悲しいと言うか虚しいよ」
ニータはゲダインを真っ直ぐ見つめ、
「パパ、死ぬのだけはダメだよ。人殺しの私が言っても説得力無いけど、それでも愛する人の為に人は戦い殺し合うと思うんだ。今はそういう時代なんじゃないかって……」
幼いながら毅然とした態度で少し自信無さげに言った。
ゲダインは、
「ニータ、何も考えるな。お前が悪いわけじゃないんだ。罰は与えられるべき者にだけ与えられればそれでいい。それで世の中が良くなる。きっと」と言った。