Ⅴ
ゲダインとニータは丑三つ時の警戒が薄くなった時間帯にその工場――と呼ぶのが正しいかどうかは事が終われば誰もが気づくだろうが、そこに侵入した。もちろん、もし万が一何かが起こっても対応できるようにしながら。
「おかしいな。人の気配がまったくしない」
ニータは心細い武器と言っても人も殺せないホントに神頼みのお守りをしっかり握りしめゲダインの後をついていった。
「地下に行ってみよう。確かこの階の下に出来損ないの、言い変えれば優しすぎた人間の拘留されている管理室があるはずだ」
地下に行った途端二人は異臭に鼻をつまんだ。どうやら人間扱いされなかった、つまり兵器の為り損ないが、食事もろくに与えられず放置されたまま死んでしまっているようだった。
「ニータ離れるんじゃないぞ。奥まで行く。生きている人がいるかもしれない」
「分かりました」
先に進んでいくと何か生き物の気配を感じる……ゲダインは緊張を解かないままその影に近づいていった。
そこにいたのは1匹の狼だった。
「なんだビックリさせやがって」
ゲダインは少しだけ張りつめた緊張を解いた。
ニータは顔を紅潮させて、
「わぁ、カワイイ! ねぇゲダインこの狼も仲間に入れようよ」と無邪気な笑顔で言った。ゲダインはニータの少女らしい笑顔を初めて見たので嬉しかったが、真実を教育しなければならないと思い少し困った。
「野生の狼は人には懐かないんだ。足手纏いになるし……」
ゲダインが言いにくそうにそう言うや否やその狼が、
「何を2人でこそこそ話している? この小童が!」
と狼が怒りながら言葉を発した。ゲダインとニータの驚きようと言えば想像に難くなかった。




