Ⅰ
「大佐逃げましょう! もう勝ち目はありません」
片目に黒い眼帯をして部下に大佐と呼ばれた男は、
「馬鹿者! お前にはドイツ人としての誇りが無いのか!」
と叫んだ。空は真っ黒で――と言っても雲に覆われていたのではなく無数の爆撃機が飛行していたからなのだが。ドイツ軍はイタリア、日本と緊急戦時連邦軍と名乗り同盟関係にあった。イタリア軍は主にドイツに駐留していた。
「うわー!」
ものすごい音が響いて、兵士の悲鳴が轟いた。爆撃が始まったのだ。
「あのビルに逃げ込め! 地下があるはずだ!」
兵士数十人を連れて大佐と呼ばれた男がとある建物を示した。薄暗く蜘蛛の巣が張り蝙蝠等が跋扈していたそのビルには丁度シェルターのような物があった。部下に大佐と呼ばれた男はドイツの殆どの地区の構造を網羅していた。大佐とその部下数十人はそこに隠れた。が、先客がいた。その人間は15歳くらいの少女だった。
「君は何人だい? ここで何を……」
その少女に話しかけようとしたが、言い終わる前に一面が血の海であった。
惨たらしい現場に冷たい視線を向けながら少女は日本語で何か呟くと、そこから出て行った。