Ⅹ
途中何度か銃弾を避けながら、ヴォルグの指示で確実にある場所へと向かっていた。
「もうちょっとだ。頑張れゲダイン」
「ああ」
もうかなりの距離を走っただろう。追いつかれないでいるのは奇跡に近かった。ヴォルグがいなければ確実に追いつかれている。
「見えてきたぞ」
ヴォルグの言葉にゲダインは気力を振り絞った。ゲダインの視線では全くわからないが、夜目が効くヴォルグは見えているのだろう。その場所――港が。
走りながらゲダインとヴォルグはこの国を出た方がいいと話し合っていた。船が出ることは町で仕入れていた情報で知っていた。
目的地は亜米利加。その船に乗ることが出来れば光明が見えてくる。
しかし、問題があった。2人と1匹は無一文であったのだ。
「どうするゲダイン?」
ヴォルグがそう訊ねてきた。
「やはりこっそり忍び込むしかないな」
「……そうだな」
ゲダインの言葉にヴォルグは頷いた。
「……見ませんでしたか?」
「うーん、見てませんね」
2人と1匹はそんな会話がなされている下――つまり海から船に乗り込むことに成功していた。
あれから港について、どうしようか散々話し合っていると(港は隠れる場所がたくさんある。ヴォルグの鼻があるおかげで追手が迫ってきてもすぐに移動することが出来た)、朝陽にきらりと光った海が見えた。ゲダインは「これだ!」と思った。
2人と1匹は静かに静かにそのときを狙っていた。
そして、とうとうそのときは訪れた。追手が船の前にいた関係者に「こんな者が通らなかったか」と話しかけたのだ。その隙を狙って2人と1匹は素早く船に乗り込んだ。こちらに気付いている様子は無い。
船はゆっくりと進みだした。亜米利加へ向けて。
2人と1匹は、倉庫と思われる場所に息をひそめて隠れていた。これからどうなるのかは全く予想が出来ない旅だった。