Ⅸ
居場所がばれた。
「起きろゲダイン、ニータ! 逃げるぞ」
それは深夜を少し過ぎたときだった。ヴォルグが何者かの足音を聞きつけた。その足音はかすかではあるが、こちらに近づいてきている。2人と1匹が野営しているそこは、木ばかりで周りに集落などは無い。
もちろん人もいない。そんなところに近づいてくると言うことは……すなわちこちらを狙うものにほかならないわけで……。
ヴォルグが大きな声で2人に叫ぶと、2人を起こす。足音はまだ遠いが確実にこちらに向かってきている。おちおちしていられなかった。
ヴォルグの叫び声でゲダインはとび起きた。
「どうしてここがばれた?」
ゲダインはニータを起こしながら、疑問気に呟く。
「大方ヒトラーが跡をつけさせていたのだろう」
「っく……あのとき完璧にすべてを討ち取っていれば!」
「んん……んぅ?」
ヴォルグが推察したことを言っていると、ニータが寝ぼけ眼でこちらを見る。その目は焦点があっていない。
「過ぎたことを言っても仕方がない。とりあえず逃げるぞ」
「どうしたの?」
「逃げるよニータ」
「へ?」
「急ごう。ナイフは持った?」
「うん、ここに」
「じゃあ行くよ。ちょっとの辛抱だ」
ゲダインはまだよくわかっていないニータを抱きかかえると走り出した。その少し後ろをヴォルグが続く。荷物は邪魔になるのでその場に捨てることにした。
走りながらゲダインは苦笑する。
「全くヴォルグを仲間にしてよかったよ。ヴォルグがいなかったら今頃はこの世にいなかっただろう」
「ふ」
ヴォルグが何をいまさらという感じで息を吐いた。
――そのときだった。
「ゲダイン少し右に避けろ」
「ん?」
ゲダインは少し疑問に思ったが、この場ではヴォルグに従うのが賢明と考え、素直に右に少し避けて走った。
その横を銃弾が通り過ぎて行った。
「…………」