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恋する不安 ①

惹かれている気持ちに気付いてしまうのもやっかいなものだ。澤田 隼人が同じ空間にいれば、その存在が気になってつい視線を持っていかれる。

少し距離があればその姿を目で追ってしまい、すぐそばを通れば表面は装っていても胸の鼓動は速度を増す。そんな自分にため息をついてしまう。

こんなはずじゃなかったのに・・・


私の見てきた限り彼はいい男だ。いろんな意味で。

見た目はこの社内といわず今まで出会った中でもトップに位置する。性格は私の知っている限りでは基本紳士で優しい。時にグレーな部分も見えたりするけど、そんなとこはあまり人に見せていないようだ。だから女子社員の間では王子的存在だ。そして何より仕事ができる。

こんな好条件の男を好きにならない方が珍しい。

そんな彼が嘘のような秘めた想いを寄せていた柚原 楓は、ひたすら山中 健吾を想い彼の気持ちに気付くことすらなかった。

そして私も彼のことはいい男とは思っていたけど、好きになることはなかった。

私の心にそんな余地はなかった。


誰にも言えない恋をしていたから・・・4年という長い年月もの間。本当は恋だなんて綺麗な言葉でまとめてはいけないのかもしれないけど、私にはずっと胸が苦しくなる想いだった。

それは今から1年前まで、私が終わりにすると決心に至るまで続いていた。

初めから好きになってはいけない人だったけど、自分の気持ちに気付いてからは良いも悪いも考えられずに自分の想いを通してしまった。

自分のことしか考えられなかった。

それは社会人になってから2年近く付き合っていた彼と別れた後のこと。

相談に乗ってくれた相手を好きになるというパターンはよくあることで、その相手が同じ営業部の佐野 孝宏だった。

彼はわたしの3歳年上で、入社当初から先輩として何かとサポートしてくれて相談にも乗ってくれていた。私がその当時の彼氏と別れた時もいつもと変わらず元気づけてくれたりしたのだけど、そんな佐野さんを今までと違う眼差しで私は見てしまったのだ。

すこし強引さのある言動や行動に魅力を感じて、止めようもないくらいに惹かれてしまった。

ダメだと何度も自分に言い聞かせたけど、頭は理解しても心は彼を求めて戻れなくなっていた。


そんな彼には奥さんがいたから、心の葛藤はずっとずっと続いていた。

だけど私の積極的な誘いに彼は答えてくれた。言葉で表せばそれは『不倫』だから、誰にも言えない想いで隠れた付き合いだった。

2人で過ごす時間はわずかで時間を惜しむかのように濃密だったけど、彼には帰る場所があったから私はいつも心を埋められなかった。

平日の夜しか会えない彼との付き合いは、恋愛関係とは言ってはいけなかったのだろう。

幸せと感じるよりも苦しさや虚しさを感じる時間の方が多かった。

それでも私の性格上辛い顔も寂しい気持ちも伝えることができなくて、誰にも見られない場所で涙を流したことは何度もあった。奥さんのことを考えれば自分のやっていることは何一つ正当化できなかったから。そんな日々を送るうちに自分の存在が感じられなくなっていった。

そして彼には幼い子供もいて、何度も考えた。終わらせないとだめだと。彼の家庭を恨んだ日もあったけど、綺麗事ではなくこの関係の先に幸せはないと重く感じていたのだ。

それは後輩の柚原 楓の純粋で真っ直ぐな想いを目の前で見続けると共に、私の心に深く侵食していった。

彼女の切ない片思いを見守る中で、私も純粋に想い愛されたいと思った。私だけを愛して欲しいと。

今更そんな都合のいい感情に押し潰されそうになって、彼との男女関係を切るように終わらせた。身勝手に始めた関係を、また身勝手に終わらせた。

なかなか彼はそのことに応じてくれなかったけど、連絡を絶ちそ知らぬ顔をするかのように後輩として徹底的に接するのみにした。ずるいずるい終わらせ方をした。

それから1年埋められない心の穴を、自分のやってきた結果だと受け止めながら生きてきた。

楓を見続けると、時々佐野さんを想っていた頃の感情がオーバーラップしてしまったこともあったけど。彼との思い出の物を全て処分し、気持ちを少しずつ整理して、また誰かを好きになるなら【不安のない恋をしてみたい】そんな決心にも似た思いが生まれた。


だから今戸惑いばかりを感じてしまっている。

不安のない相手を好きになりたかったのに・・・

澤田 隼人に惹かれてしまうなんて。


彼は男として上等過ぎる。彼に想いを寄せる人があまりに多すぎて、私の気持ちは怯んでしまう。

昔の私なら、そんなことは障害ではなかったけど今の私は違う。

もてる男も浮気をする男も、恋愛対象にしたくない。

私だけを想ってくれる人に出会いたい。

そう強く思ってきたのに・・・この大きく揺れる気持ちはどうしたらいいのだろう。


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