今はまだ秘密 ②
ここでやっと『君が好きだから嘘をつく』の中の【幸せはここにある】の時間に追いつきました。
楓と健吾に隼人との関係がばれないように焦る咲季がこの先書かれていきます。
そして楓達と約束した飲み会の当日。
私は早めに集合場所である美好に到着することができた。
このお店は楓と山中くんの行きつけのお店で、私も何度か来させてもらったことがある。
店主であるおばちゃんがとても気さくで温かみのある人柄で、私が初めて山中くん・澤田くんと行った時も歓迎して優しくしてくれた。
自己紹介するとすぐに私のことを『咲季ちゃん』と呼んでくれて、常連さんと同じように対応してくれたことがすごく嬉しかった。
楓の恋もすごく応援してくれていたみたいだし、そんなお母さんみたいなおばちゃんのいる美好が私にもお気に入りのお店になっていた。
入口のドアを開けてのれんをくぐり中へ入ると、「いらっしゃいませ~、あら!咲季ちゃん!」と笑顔で迎えてくれた。
「こんばんは~」
私もおばちゃんの顔を見ると笑顔になる。
「健吾くんから予約の電話をもらっていたから、奥の席に用意してあるわよ」
「はい」
おばちゃんが誘導してくれた奥の席には4人分の箸やお皿が並べてある。
みんなが来たことが分かるように奥側の席に座ると、おばちゃんは温かいおしぼりを手渡してくれたのでお礼を言って受け取った。
「ありがとうございます」
「咲季ちゃんはお仕事どう?」
「ボチボチです」
笑って答えると「頑張ってるね」と柔らかい笑顔を見せてくれた。
ああ・・おばちゃんの笑顔には癒されるなぁ~と感じていると、「みんなも何時に来るか分からないし、先に何か飲んでおくかい?」と聞いてくれた。
「じゃ~飲んじゃおうかな?ライムサワーお願いします」
「はいよ、ちょっと待っていてね」
そう言うと厨房に下がっていった。
サワーを待っている間に楓へ『今、美好に着いたよ』とメッセージを送ると、すぐに『駅で健吾と合流したので、これから美好に向かいます』と返信されてきた。
おいおい山中くん、駅まで迎えに行きましたか。
そういえば会社でもいそいそと帰り支度して、出て行ったものね。
会社から美好と駅は反対方向なのに甘々だね~っとにやついていると、おばちゃんがライムサワーを持ってきてくれた。
「はい、お待たせ。それとこれはおまけね」
そう言ってライムサワーの横にお通しの【おくらとなめたけの和え物】とは別に、【ポテトサラダ】を置いてくれた。
少し大きめに崩してあるじゃがいもがすごく美味しそう。
「ありがとうございます!美味しそう~、いただきます」
「じゃあ何かあったら呼んでね」
そう言っておばちゃんは笑顔を見せてから、違うテーブルのお客さんのとこへ行った。
ライムサワーを飲みながらスマートフォンのアプリでニュースを見ていると、メッセージの通知が表示された。
送信者は澤田くん。その名前を見ただけでドキッとする。
書かれている文を見れば『今、どこですか?』とのこと。
『美好に着いたよ』と送れば、『一緒に行きたかったな』と返ってくる。
まったく・・・またそういうことを言う。
その文字をにらみながら、彼の顔を思い出す。
そして楓と山中くんの前でも言わないか、一瞬心配になった。
話題を変えてしまおうと『楓と山中くんは今こっちに向かっているって』と送った。
すると『今部長に呼ばれたので、終わり次第行きます』と返ってきたとこで、おばちゃんの元気な声が聞こえた。
「いらっしゃい、楓ちゃん・健吾くん」
「こんばんは」
「こんばんは」
その声の方を見ると、にこにこした楓と山中くんの姿が見えて、同時に3人の笑い声が聞こえた。
すぐに澤田くんに『了解。楓達も今来たよ』とメッセージを送って、また入口の方に視線を移した。
「お疲れ様、今日は一緒に来れたのね」
「うん、駅で待ち合わせしたから」
「そうなの、奥で咲季ちゃん待っているわよ」
おばちゃんの一言に楓がパッとこっちを見たので、笑顔で手をおもいっきり振って楓の名前を呼んだ。
「楓~久しぶり!会いたかったよ~」
「咲季先輩!」
楓がこっちへ走って来て、おもいっきり抱きついてきた。
山中くんと付き合えることになったと、楓が報告してくれた時は本当に嬉しかった。
「楓、本当におめでとう。よかったね」って祝福すると、涙声で喜んでいた。
だからこそこうして今日二人一緒のところを見られて、本当によかったなって思う。
そして相変わらず冷やかしてしまいたくなる気持ちがムクムクと出る。
「何~早速一緒に来たの?待ち合わせしたって聞こえたんだけど」
さっき楓からメッセージで聞いていたけど、山中くんをからかいたくてつい聞いてしまう。
「そう、駅で待ち合わせして来たんです。ここで待ち合わせでよかったんですけどね」
「山中くんが迎えに行くって言ったんでしょ~。さっさと帰り支度して、帰って行く姿見たんですけど~」
山中くんを見ながらからかうと、彼はばつの悪そうな顔をして言葉にできずにいる。
それがたまらなく面白い。かわいいなぁ。
「迎えに行っちゃうとか、もう楓に甘々ね。そっか、山中くんってそういうタイプだったのね」
わざと頷きながら納得して見せる。確かに今の彼は楓にとても甘々だ。
「勘弁してください」と言いながら、楓には椅子を引いてあげ、席に座るように示した。
そして私の前に楓が座り、その隣に山中くんが座った。
そして楓と私が近況を雑談していると、おばちゃんがおしぼりを2人に渡してくれた。
「はい、おつかれさま。隼人くんが来る前に始めるかい?」
おばちゃんが気を使って聞いてくれると、山中くんが私に視線を寄こして聞いてきた。
「あれ?隼人はもう戻ってました?」
「えっ・・あ、ううん。少し遅れるって連絡あった・・」
澤田くんの名前が出ると焦って、ついどもってしまう。
でも山中くんは気にした様子もなく私の言葉を聞くと、うんうんと頷き、おばちゃんへとまた視線を戻した。
「そうですか。じゃ~おばちゃん、先に始めちゃう」
「そう、じゃあ飲み物は?」
おばちゃんに聞かれて、みんなビールとそれぞれ食べたい物を伝えた。
すぐに運んでもらったビールで乾杯し、あれこれと楓に聞いて山中くんを冷やかして楽しんだ。
楓の嬉しそうな顔を見ると、私も楽しい。
おばちゃんに運んでもらった肉じゃがや揚げだし豆腐、卵焼きなどを食べながら笑い声は絶えなかった。
そこへ入り口のドアが開き、おばちゃんの「あら!いらっしゃい。待ってたわよ」と弾む声が聞こえた。
「こんばんは」と言葉を返すお客の声に反応して視線を向けると、澤田くんが立っている。
「隼人!」
山中くんが呼ぶと、彼は視線をこっちに向けて歩いてきた。
「遅くなってごめんね」
楓と山中くんに視線を送り、ビジネスバッグを床に置いた。
「俺達も始めたばかりだよ。何飲む?」
「ん~、ビールで」
テーブルを見てみんながビールを飲んでいることを確認してそう言った。
山中くんが「おばちゃんビールお願い」と注文している間に彼は私の隣に座り、「遅くなってすいません」とささやくような声で私に微笑を見せた。
「・・っうん」
彼が来たことの喜びと恥ずかしさが相まって、私の返事はぎこちなくなってしまった。




