表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

2人の関係 ③

「バカじゃないの?」


タバコの煙をくゆらせながら隣の席で呆れ顔を見せる沙耶から視線をそらし、ビールのジョッキを傾けてグビグビと飲み進めた。

それでも刺さるように痛いその視線に負けて、ジョッキをテーブルに置いてため息をつく。


「分かってるよ・・ハイハイ、馬鹿なんです」


流し目で沙耶を睨むと「フンッ」と返されてしまった。

そんな風に紗耶が呆れるのは、私と澤田くんが付き合うことを会社では秘密にすることを私が提案した事について。


「なんで自ら付き合っていることを隠すかね~。いい男なんでしょ?もてるんでしょ?あんたの存在をアピールしといたっていいじゃない」


「・・・うん、そうだけどさ」


自分でも嫌になる位に口ごもってしまう。

沙耶の言いたいことはよく分かる。もし私が友達の恋愛相談を聞く側だったら、間違いなく沙耶と同じことを言うし。

でも今の私にはそれができない。

好きな人と付き合って浮き足立つような気持ちでいっぱいになるとか、胸がいっぱいで食事も喉を通らないとか。みんなの憧れている人と付き合って自慢したい気持ちと独占欲。

そんな感情は恋する気持ちなら当たり前なことなのに、それを躊躇してしまう気持ちが先立ってしまう。

それを察知しているのか呆れているのか、沙耶はカウンターに肘をつき手のひらに顎を乗せて私の顔を見続ける。そして僅かに笑った。


「で?王子はなんて言ってるの?」


「・・王子」


「イケメンでモテるんでしょ?じゃあ王子じゃない」


澤田くんを見たことない沙耶の浮かんだイメージはそれだったのかもしれない。

イケメン・モテる・年下・・・本人に会っていなくてもやっぱり王子って称号がピッタリなのかもしれない。


「王子ね・・」


「王子なんでしょ?」


「そうだなぁ。とにかく社内じゃ澤田ファンが多くて。前にも話した通りアピール女子がいっぱい」


「だったらあんたは彼女アピールしとけばいいのに。私の彼よ!って予防線張ってやればいいじゃない。今度は胸張って付き合うんでしょ?」


沙耶の言いたいことは分かる。孝宏と付き合っていた時はいつも何かが不安だった。

満たされない不満と不安をいつも沙耶に愚痴っていたから、今回後ろめたい交際ではないのに私がオープンに付き合わないことに異議を唱えてくれているのだ。


「私の彼よ!って?言えないなぁ・・。」


「何でよ」


「嫌よ!恐ろしい。皆に睨まれる、殺される。それにさ・・」


「ん?」


「何ていうか・・自信がないんだろうね。あんなキラキラした男の彼女ですって胸張って前に出る自信がさ、私にはないのよ」


すっかり日陰癖のついている自分にもため息が出てしまうけど、今回彼氏と言うことを躊躇してしまう程のモテ男と付き合ってしまったことが自分の中で処理しきれていない。

そしてもし別れても会社の人達は知らないという弱気の保険を密かにかけて、ダメージから自分を守りたいと思ってしまった自分にもため息が出る。

そんな私の言い訳を聞いて沙耶は一瞬寂しそうな表情を見せたけど、すぐに強気な言葉を返してきた。


「もう!本当にバカ。あんた自分が思う以上にいい女だよ!いい男がいい女選んだってだけの話じゃない。周りがゲスなことしてくるようなら、あとは王子に任せればいいの!結局女はいい男には嫌われたくないんだから、彼氏に目を光らせてもらえば周りの子達も黙るでしょ。で?王子はあんたが付き合いを隠したいって言った時の返しを教えなさいよ。それって結構重要な所なんだから」


「う~ん・・周りの反応が気になることを話したら、とりあえず会社では秘密でもいいって」


そう、確かに澤田くんはそう言ってくれた。

詳しいことまでは決めていないけど、それでいいって思う。

私達の関係が周りに知られていなくても、幸せになれるならそれでいい。


「へぇ~、いいんだ。でも秘密でもいいって言うってことは、王子はオープンにしてもいいってことなわけね?」


「う・・ん、そうかな。いつまで秘密にするかはまた考えようみたいなことを言っていたから、まあ隠して付き合うことは考えてなかった感じかな」


そう答えると沙耶は二ヤッと笑いながら「ふ~ん」と何度も頷いて見せた。

それを見て流し目で「何よ」と応戦しても、鼻で笑われてしまう。


「それならいいんじゃない?」


「何が?」


「悪くないってこと、あんたらの付き合い方が。王子が迫ってあんたが落ちて。付き合うことにしたけれど、あんたが隠れて付き合いたいってことに王子は理解をしてくれた。しかもずっと隠して付き合うわけじゃなくて、いつまで秘密にするかまた考えるってことは、王子はいつオープンにしてもいい付き合いってことでしょう?」


「ん~、そうかな」


私の煮え切らない返事に舌打ちを返してきた。しかもジト目で呆れた顔を見せる。


「そ~なの!あのさ・・久しぶりの恋愛で鈍くなるのは構わないけど、ビビりまくってないで相手の気持ちもちゃんと受け止めてあげないと後で後悔しても知らないからね」


「厳しいなあ~」


「そりゃ厳しくもなるでしょ、あんたに幸せ逃して欲しくないんだから」


ぶっきらぼうな言い方だけど親友の気持ちは伝わって来るものだ。

馬鹿だ馬鹿だと言いながら、その中に愛情と優しさを感じてしまうのだから。

彼氏ができたことの報告をして喜んでくれるだけじゃなくて、私の迷いや引け目を理解して背中を押してくれる彼女の存在は私には例えようの無い程大きなものである。


「ありがとう・・沙耶」


「どういたしまして。感謝は私が喜ぶ物で返してね」


「またそういう事言うんだから!」


私が頬を膨らませて怒ると、沙耶はケラケラと笑って見せた。


「まあいいじゃない。ところでさ、今度会わせなさいよ。その王子に。会いたいわ~、どれだけいい男か楽しみにしているから」


「え~」


「え~じゃないでしょ、ここまで聞かせといて」


「はいはい」


そう答えた後2人で笑ってしまった。親友に彼氏だと紹介する日が来るとは思っていなかったから、何ともムズ痒い感じがしてしまう。

澤田くんはどう思うかな?そんな事も想像してしまう。


「からかって遊んだりしないでよ?」


「知るか!」


そう言ってまたタバコに火をつけ、おもいっきり煙を吐き出した彼女を見ながらビールを飲み進める私達の関係はまたいいもんだなと感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ