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蕩ける ①

彼の腕に包まれて、私の虚勢が剥がれていく。

まるで吸い付くように、彼の胸に密着し瞳を閉じて頬を寄せる。

ああ、私はこの温もりの中に戻りたかったんだと感じてしまう。

私の背中に回された腕の力が僅かに緩むのを感じて見上げると、優しい眼差しに少しだけ笑みを浮かべて視線を合わせてくる。


何て色気を見せてくるの・・・


ゆっくりと近づいてくる彼の顔に応えるように、瞳を閉じて息を止めてしまう。

結んだ唇にも力が入ってしまい、僅かに顔を引いてしまう。

すると唇に優しく暖かい体温が重なった。

唇の触れた瞬間の柔らかな感覚に、ゾクリと身体に甘い痺れが走る。

その感覚にわずかに唇が開き、もっと彼の唇を感じられるように、軽く彼の下唇を食む。

するとまるでお返しのように彼は私の上唇を優しく食んできた。


ああ・・私、この唇を覚えている・・・。


そんな彼に愛しさが込み上げてきて、もっと密着できるように彼の背中に回した手に力が入る。

感じたい・・。もっと、もっと・・欲しい。

そう願う気持ちに沿って、密着し続ける唇を更に求めてしまう。


ゆっくりと後ろに倒されて耳元から髪をかきあげられ、吐息がもれてしまった。

するとそれを飲み込むかのように深く唇を求めてくる。そして僅かに彼の唇が離れると、愛しい物を追いかけるかのように私の視線が追ってしまう。

ほんの少し見上げると、とても近い距離で目が合ってしまい、また胸がキュッと刺激される。

その瞳はとても甘く優しい。そして真っすぐ私を求めてくる。

何とも言えない恥ずかしいような感情に戸惑っていると、彼は微笑を見せ私の鼻先に軽くキスを落としてから柔らかい声ででささやいた。


「咲季さん、可愛い」


余裕をうかがえてしまう彼に、表現できない感情がわく。


「またからかってるでしょ」


戸惑いをごまかすように少しだけ睨みをきかせて返すと、右手でそっと私の左頬を包み、親指で優しく撫でてきた。

それはくすぐったい位に優しくて、鼓動は速度を増す。


「やっと手が届いた」


そう言いながら左頬を撫でていた親指は、滑るように唇に降りてきて、さっきよりも優しくゆっくりと下唇を撫でて私の耳にささやいた。


「僕の咲季さん」


その言葉に胸が震えた。


完敗だ。もう抗えない。


彼の言葉に答える代わりに唇を撫でている手を取り、その親指にキスをした。

そしてその指先をくわえて彼の瞳を見つめると、今度は私の手の甲にキスを落としてから頬にキスをし、ゆっくりと唇に近づいてくる。

触れるような軽いキスから段々と角度を変え深くなってくる。

その度にリップ音が脳を刺激して、私を誘惑する。

漏れる吐息が彼の舌を誘い、交わるように隙間なくからまる。

素肌に滑る彼の指先が、私の服も羞恥心も一緒に剥いでいく。ゾクゾクと身体に走る快感が、私の身体をより一層彼に密着させる。

唇から首筋、そして鎖骨へと滑り与えられるキスの快感は堪らなく愛しい。


「ん・・」


その優しさに吐息が漏れる。それを飲み込むかのように深いキスをされて、敏感に感じてしまうことに抵抗があるのに、拒否することができない。

身体を滑っていく彼の指先に、ビクンっと反応して思わず小さな悲鳴をあげてしまった。


「・・っあ」


自分の声に堪らなく羞恥心を感じて視線を反らすと、彼は耳元に唇を寄せてささやいた。


「咲季さん可愛い、もっと見せて」


そう言って耳をゆっくりと刺激してくる。


「・・・いや」


ゾクゾクと走る快感から身体をよがっても、押さえつけられてしまう。


「ダメですよ。逃してあげられません」


「や・・だぁ・」


懇願しても許してくれない。

抗えない刺激に彼の身体にしがみつくと、私の唇にそっと優しく唇をのせてきた。

私はその唇が愛しくて自分からも求めると、ゆっくりと彼の指が滑っていく。

その緩やかな動きが、私から深い吐息を引き出す。

僅かに開いた唇が懸命に酸素を求めるのに、彼はそれを許してくれない。

深く深く私を追い詰める。


「だめ・・」


目を閉じて出る声とは逆に受け止めようとする私は、彼の首に両手を回して彼を引き寄せキスをする。

服を脱いだ彼と肌と肌が触れた瞬間、切ない感情に支配される。


「澤田くん・・」


思わず感嘆の声が出てしまった。

すると彼も「うん」と言いながら、優しく包むように私の身体を抱きしめてくれる。

お互いの体温が体に浸透していく。

肌が触れ合う感触は何て気持ちいいのだろう。


ああ、私この感触覚えている・・・


そう、あの時も今みたいに優しく抱きしめてくれて、たまらなく気持ちいいと思ったんだ・・。

つい浸ってしまった私の顔を覗きこんで「うん?」と笑みを浮かべながら首を傾げた彼の胸に抱きついてごまかす言葉を考える。


「何でもない」


顔を見せないように隠れる私の頭にキスを落として、私の名前を呼んだ。


「咲季さん」


「っん・・な・に?」


快感に思考を取られながらも何とか答える。

もういっぱいいっぱいの状態なのに、彼の声は届いてくる。


「好きだよ」


ささやかれた言葉が嬉しくて、嬉しい気持ちとは逆に切ない表情を見せてしまう。

だから吐息交じりに何度も首を縦に振って声に出せない気持ちを伝える。

それなのに彼はどんどん私を追いつめる。

堪えようとするのに、彼はそれを許してくれない。

高ぶる気持ちで絡められた手をしっかり握りながら彼の顔を見上げると、熱を帯びた瞳と視線が絡まる。

もう・・色っぽ過ぎるの!こんなの誰にも見せたくない・・・


私の胸にじわじわと独占欲が湧いてくる。


もっともっと彼に快感を与えたくなる。

それが自分を更に追い詰めてしまうのに。。

すると抱き上げられ強く抱きしめられてから顔を傾けた彼に強く唇を食まれ、そのまま幾分の隙間もなく私達は一つになった。


「・・咲季」


吐息のように私の名前を呼ばれて、すがるように彼を抱きしめる。

そんな私をしっかりと抱きしめ返してくれた彼に身を任せる。

私の頬に顔を寄せてさっきとは真逆の優しいキスをする彼が堪らなく愛しい。


どうしてこんなに気持ちがいいのかな・・・

もう私、トロトロに蕩けそうだったんだよ。


恥ずかしくて伝えられない気持ちを心の中で噛みしめる。


そして『咲季』と言った彼の声が心地よく耳に残った。

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