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嘘でしょ ①

どうしよう・・・こんなつもりじゃなかったのに。

温かいベッドの中、さっき目を覚ましてこの状況に気がつき、必死にうつむいて瞳をギュッと閉じている。

どうしたらいいか迷い、そっと気づかれないように顔を上げて前を見る。今私にできるのはこれだけ。

目の前にいるこの人にしっかりと抱きしめられて寝てしまったからだ。

今も抱きしめられたままでいるから、私の顔は彼の胸元にある。彼の顔は・・私の頭の上にある。そして、この肌に触れる感触は・・・お互い裸だ。

迷いながらもう少し顔を上げてみる。目の前でまだ眠っている顔を覗き見た。


  -うん・・・綺麗だ。カッコイイって言葉を通り越して綺麗だー


サラサラの前髪が閉じている瞳にかかっていて、完全に色気を放っている。まさかこんな顔を見るなんて。

いつも会社にいる時は、整髪料でビジネススタイルを装っていたからもっと大人びて見えていた。

今、目の前にいる彼はもっと若く見えて私の知らない彼だ。

そう・・・彼としてしまったんだ、澤田 隼人と。

どうしてこうなったんだっけ?もう1度うつむいて目を閉じて思い出してみる。


昨日は楓のとこへ山中くんが向かってきっといい方向にいったはずだけど、楓を想っていた澤田くんのことも気になり、ちょっと面白半分に気持ちを問い詰めて。慰めるつもりで飲みに行ったのに・・・酔いに任せて澤田くんの家まで来て、最後までしちゃうなんて。こんなつもりじゃなかったのに・・

   

  -私は本当にバカだー


声を出さないようにしていたのに、ついため息をついてしまった。

やばいっと思った瞬間に、頭上で声が聞こえた。


「おはよう、咲季さん」


「え!?」


寝ていたはずの澤田くんが抱きしめたまま挨拶してきた。それも昨日までの敬語でなく、私の苗字ではなく名前まで呼んで。

あまりに驚いて思いっきり顔を上げてしまった。彼は優しく微笑んでいる、いや・・あの極上の笑顔で。


「どうしたの?さっきから慌てふためいて」


「何で・・」


どうして私が慌てながら考えていた事知っているの??さっきからって、え・・もしかして・・・


「うん。先に目が覚めたけど、咲季さんが起きたからちょっと寝たふり。目を閉じていても咲季さんの慌てぶりは伝わってきていたよ」


!!!私の考えている事までばれている。

私がこんなに焦っているのに、澤田くんは楽しんでいるかのように笑っている!信じられない!


「最低!もう離してよ!」


澤田くんの腕を振りほどこうと思ってもビクともしない。


「だめ」


幼い子供に言い聞かせるように言い、更に私の体を包み込むように抱きしめてきた。

もうどうにも動けない。とりあえず諦めて思っていることだけ伝えることにした。


「あのさ・・澤田くん。どうして急に敬語じゃなくなったの?それに咲季さんって・・」


「うん?急じゃないよ。セックスしている時も咲季さんって呼んでいたけど覚えていない?」


やたら甘い声を出して顔を寄せてくる。


「ちょっと!セッ・・・ってもうやめてよ・・」


私がうつむいて困っていると、私の耳元に唇をつけて言った。


「咲季さん、僕としたこと後悔している?忘れたい?」


耳たぶに触れる唇とささやくような澤田くんの声に身体がゾクってした。やだ・・私感じている。

そう、澤田くんとのセックスはよかった。自分でも驚く程・・感じた、今までにないくらい。

だから澤田くんがセックスの最中に、『咲季さん』と呼んでいたことも正直覚えていない。でもそんなこと・・言えない。


「後悔ってわけじゃないけど、でも・・・」


後悔ってわけじゃないけど、昨日まで後輩で恋愛感情ってものを持っていなかったのに、こんな事になるなんて。それに澤田くんは楓の事を5年間も想っていて、隠していたその気持ちを慰める為に昨日は飲みに行ったはずなのに。ああ、もう!頭が整理できない。


「なかったことにしたい?」


微笑みながら聞いてくる澤田くんから目が離せなくなる。


「・・・うん・・ごめんなさい、でも・・」


「ダメ、なかったことにできない」


私が言い切る前に優しい声で遮った。驚いて思わず吸った息が止まった。


「咲季さんって、何か思っていた感じと違うね」


私を見ながら苦笑する。

思っていた感じと私が違う?はあ?それはこっちのセリフよ!今まで見てきた澤田くんは何だったのよ。確かに少し人をからかう所はあったけど、クールだったあの澤田くんはどこ行ったのよ。騙されていたわけ?


「それは澤田くんのほうでしょ!!会社での澤田くんと全然違う!それが本性なわけ?」


「う~んどうかな?」


からかうように意地悪な顔をして、少し顎を上げている。こっちの困っている様子を楽しんでいるんだ。


「信じられない・・・」


「咲季さんってホントは可愛いんだね。会社ではお姉さんだけど、今の咲季さんいいかも」


にっこり笑ったその笑顔は引き寄せられる魅力があったけど、今の私には悪魔にしか見えない。


「・・・何言ってんのよ」


「ほら、フワフワの咲季さんの髪の毛も気持ちいい」


そう言うと、顔を私の頭に寄せてフルフルと横に振って私の髪の毛に絡みついた。唇がこめかみと瞼に触れてくすぐったい。


「もう!お願い放して」


「どうして?」


片眉を上げ首を傾げて見せる顔には余裕があって、こっちが焦る。


「どうして・・って。そう!今何時?会社!」


「まだ5時過ぎだよ、大丈夫。今日はアポイントあるの?」


「そう、10時に」


今日は土曜日だけど、月曜日のアポイントが変更になり今日は休日出勤なのだ。


「それなら慌てる必要ないのに」


「でも家に帰って着替えなきゃ。ごめん、とりあえず帰る」


急いでベッドから降りようとしたのに、腕をつかまれて止められた。


「じゃあ、車で送って行くよ」


「送って行くなんて・・ダメ」


「どうして?勢いでしちゃった人に送ってもらうなんて我慢できない?」


「そうゆうことじゃないけれど・・でも」


ただでさえこの場所から逃げ出したいのに、送ってもらうなんて。彼氏でもないのに、こんな状況で送ってもらうなんてとんでもない。


「わかった。じゃあ、30分後にタクシー来るように連絡しておくから、とりあえず咲季さんはシャワー浴びてスッキリしておいで」


そう言うとやっと手を解いてくれた。そして立ち上がってクローゼットに歩いて行く、隠すことなく裸のままで。

その後ろ姿はやっぱり見惚れる位、綺麗だった。やだやだ!何見ているんだろう。すぐに視線を戻して見ないようにした。

聞こえてくる音で澤田くんが着替えていることを感じる。


「咲季さん、これ使って」


声の聞こえた方を見ると、澤田くんはすぐ目の前にいて2種類のタオルを差し出してくれた。

そして私に手渡すと歩き出し、ドアを開けた。


「浴室は奥のドアだから自由に使って。じゃあ、タクシー電話してすぐそこのコンビニに行ってくるからごゆっくり」


笑顔でそう言うとドアを閉めて、玄関も出て行った。

私服姿で立っていた姿を思い出す。あれは・・・もてる、もててあたり前だ。何なんだ!あの色気は。

暫く思考が止まっていたけど、手元のタオルを見て現実に戻った。やばい!早くシャワー浴びないと澤田くんが帰ってきちゃう。

急いで立ち上がったので、掛かっていた柔らかい毛布が落ちて身体が冷たい空気を感じた。


「あ!裸だったんだ」


すっかり忘れていた。お互い裸のまま抱きしめられていて、いろんなことに慌てていたのに。布団から出た澤田くんの裸の後ろ姿を見て、自分のことも思い出すべきだったのに。

それで澤田くんは外に出て行ってくれたわけ?私がベッドから出て、支度しやすいように気を使ってくれたの?

ううんダメだ、今はとりあえず時間がない!渡されたタオルを握り、急いで浴室に向かって歩き出す。

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