第二話【大佐にプレゼントをもらいました】
「お前を抱かせてくれ」
軍の訓練が終わって同室の大佐と共に部屋に入る。
そして扉を閉めた瞬間、大佐からこう言われた。
…なんでこー、唐突なんだろーなあこの人は。
「ハグ的な意味ですか」
「否!」
「じゃあいーわけないでしょう!」
「ハグならいいのか?」
「いやよくないですから!嫌度が変わるだけです」
「フッ…ツンデレか」
「なんでもツンデレって言っとけば恋愛感情含まれると思わないでください…」
…大佐は僕のことが好きらしい。
大胆にも告白され断ったわけだが、それから三日で「抱かせてくれ」とは。
全くもって思考回路が謎である。
「まあ断られるのは想定済みだ」
「そりゃそーでしょうね」
「そこで俺はプレゼントを贈ろうと思う」
「僕の体がかかってるのに物なんかでつられませんよ」
「そんな下心丸出しではなく、好意をよせてもらうための贈り物だ」
「はあ…」
「そして『こんな素敵なものもらったら…大佐に抱かれるしかない!』と言わせてみせる!」
「下心丸出し!!!」
大佐のプレゼント作戦、早くも嫌な予感しかしない。
大体(恋愛的な意味で)好意を向ける気のない僕にとってあまり高価なものをもらうのは、逆に気まず―
「パッパカパーン!」
「大佐年齢わきまえてください」
「戦場から拾ってきた誰かのロケットペンダントー!」
「いらな!ってか返してきてあげてください!」
「む、ちゃんと微笑ましい家族の写真が入ってるぞ」
「余計いらないですよ!心が痛むだけじゃないですか!」
「じゃあこれはどうだ!ネクストプレゼーンッツ、イズ…だかだかだかだかだかだか…だんっ!」
「いりますかねそのしょぼいドラムロール」
「キラキラ輝く石ころ!」
「子供か!!」
「本当は凄く手放したくないが、大好きなお前にくれてやろう」
「じゃあ持ってていいですよ!石もその方が幸せでしょう!」
「石なんておこがましい!石ころと呼べ!!」
「どんなこだわりですか!」
「まあ可愛いから許すが。ラストはコレだ!きらきらきらぁあーん」
「効果音でむりやり素敵なプレゼントにしないでください」
「タイヤ!!」
「を僕にどうしろと!?ずっと後ろにあるから気になってはいましたけどやっぱりそれプレゼントだったんですか!?」
「…コロコロして遊ぶ?」
「パンダじゃないんですから!」
「パンダの百倍可愛いから安心しろ」
「そういうことじゃないですよっ!!!」
相変わらずムチャクチャだった。
戦時中な今、物資がまともに普及されてないわけだから…へたにちゃんとした物もらうよりは、いいのかなぁ。
ロケットペンダントは、平和になった後兵隊さんたち用にできるだろうお墓にでも備えるとして。
石ころもかさばらないからいいとして。
タイヤは、邪魔だなぁ…。
てかこれどうやって持ってかえって来たのかなぁ。
コロコロ転がして?
それこそ可愛いんじゃないだろうか。
というか確実に目立つ。悪目立つ。
「気に入らなかったのか?ぅーん…お前はなにが欲しいんだ?」
「えー…勇気と強さと積極性と前向きさですかね」
「俺は顕著で頭脳派で控えめで慎重なお前が好きだぜ?」
「よく即座にそこまで長所変換できますね…」
「俺にとっちゃお前のすべてが魅力だからな」
「はあ…どーも…」
「物だったらどうだ?なんでも用意してやるぜ」
「えー……………?」
上司に何か欲しいもの聞かれて、手頃な物がすぐには出てこない。
自分では、あまり物欲がない方だとも思っている。
加えて今は戦争真っ只中。
自分のコンプレックス改善以外だと『勝利』とか『平和な時代』とか…
大佐が求めているであろう答えは出てきそうにない。
「参考までに…僕が何かあげるなら、大佐は何が欲しいですか?」
「え?お前からなら何もらっても桃から生まれちゃうくらい嬉しいけど」
「例えがよく分かりません」
「やっぱ…手作りなものかな」
「手作りか…。手料理とか…確かに良いですね。配給される食事は、やっぱり質素ですから」
「そうか!じゃあ次の休みに作ってくるぜ!お茶漬けと卵掛けご飯とどっちがいい?」
「レパートリー少な!よく作ってくるぜとか言えましたね!」
「嫌いか?」
「そーじゃないですけど…そーゆーの手作り料理としてどーなんですか」
「じゃあ…後はホワイト風ライスinグリーンティーかミックスエッグ&ライスせうゆ入りぐらいしか…」
「格好よく言ってもなにも変わらないですから」
「すまん。俺にはこれが限界だ」
「そんな予感はしてました」
「お前の誕生日までにふりかけご飯ぐらいは作れるようにしておくからな!」
「逆に今できないんですか!?何に失敗しちゃうんですか!?」
「『適量をかける』って言われても分からねぇだろ?」
「よくある悩みですがふりかけにおいては分かりますよ!」
「お前は料理得意なんだな」
「今ので料理得意なら世界で料理できないのは赤ん坊と大佐だけですよ」
「良い嫁になるぜ!俺の!」
「『嫁』も『俺の』も当てはまってないですから!僕の性別と所有権奪わないでください!」
なんにしても、大佐に料理は難易度高かったようだ。
だけど他に手作りでお手軽なものも特に思いつかない…。
じゃあ他は?
僕が大佐にしてもらいこととか…。
ん?あれ?というか…なんで僕大佐にプレゼントもらおうとしてるんだっけ?
…………………。
「すみません…大佐。プレゼント、やっぱりいらないですよ」
「ここまできて!?損はないしいいだろ?」
「ぃや…そりゃ嬉しいですけど。でもそれで大佐を愛することはないですし」
「…………」
「大佐のこと、大好きですよ。プレゼントなんかで好感度が上がる段階はとっくに超えて、メーター振り切っちゃうくらい大好きです」
僕には、大佐しかいないから。
「それに…今更プレゼントなんて改まらなくても。僕にとってはあなたがそばにいてくれる日々が、毎日の最高のプレゼントですから」
いつの間にか…大佐は俯いていた。
「だから…」
「そうやって…」
「はい?」
そしてバッと顔をあげると、僕を指差して言い放った。
「そうやって良い話風にしたって無駄なんだからな!!」
「…………へ?」
「俺はお前にプレゼントあげるんだ!そういう気分なんだ!」
「だから年齢わきまえてください!」
「ワシはお主に献上したき物がござる!これその気分なり!」
「どこか年相応!?」
「嫌なわけじゃねぇんだろ?だったら受け取れよ。先輩の好意だぜ?」
「む……でもなんの記念日でもないのに」
「記念日だよ」
「え?」
そして大佐は、僕の手に光る石ころを乗っけて、タイヤを差し出してこう言った。
「気に入らないなら捨てていい。でも受け取ってほしいんだ」
「大佐…」
「今日は…『初めてのプレゼント記念日』だからさ」
「な?」なんて、男らしく歯を見せて笑う。
やっぱり…この人の笑顔は素敵だ。
こんな石ころやタイヤでも、なんだか凄く嬉しく思えてくる。
すべてを魅力に変える力がある気がする。
こんな僕自身にも、ちょっとくらい魅力が見つかるんじゃないかって。
そんな夢を見させてくれる。
「ありがとう…ございます」
あなたは、僕に好きと言ってくれた。
僕も人に好かれることがあるって教えてくれた。
僕に…そんな誇りをくれた。
「本当に…ありがとうございます」
目を見て、もう一度。
押さえられそうにない笑い顔を、みっともなく大佐に向けた。
「よし。このままベッドに―」
「行かないですよ!」
「ええっ!?そんなくそきゃわマジ天使な笑顔で誘っといて!?」
「微塵も誘ってません!」
…こういうところがなければなぁ。
まあ…あってこその大佐なんだとは思うけどさ。
いまだにベッドインを望む大佐をなんとなくあしらいつつ、僕は予定帳の今日の日付に印をつける。
来年の今日。
大佐とどんな会話をするのか。
今はずっと、そんなことを考えていたかった。
人に好かれるって、すごいことだと思います。
好きだって言ってくれる人がそばにいるって、幸せなことだと思います。