婚約破棄トーナメント——王太子殿下へと至る道
その日、王太子フリードリヒ・アルテンハイム殿下と、その妹の王女オフィーリア・アルテンハイム殿下の連名で、複数の貴族家にある通達が出された。
不仲で有名な兄妹だったので、その二人が一緒に通達を送ってくること自体が驚きだったけれど、その内容に、私はさらに驚くことになった。
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【王家通達】
エレナ・レーベンタール伯爵令嬢
それぞれの貴族家の子息・息女の間で「婚約破棄トーナメント」を争っていただくこととなった。
貴殿をその参加者のひとりに選定したことを、ここに通知する。
優勝者が女性の場合は王太子フリードリヒ・アルテンハイムとの婚約権を、男性の場合は、王女オフィーリア・アルテンハイムとの婚約権を与える。
トーナメントのルールは以下の通り。
——婚約破棄トーナメント・対戦ルール——
前提. 対戦相手の決定の後、直ちに対戦者同士は婚約状態となり、一か月後に王宮内広間にて婚約破棄の試合を行う。試合前日までに、必ずひとつ以上、婚約破棄の理由となりうる婚約違反を行わなければならない。婚約違反をしなかった場合、試合放棄と見做され、敗者となる。
試合のルールは以下の通り。
ルール1. 対戦者はそれぞれ交互に一問ずつ質問を行う。
ルール2. 質問は、「はい」か「いいえ」だけで答えられるものに限る。なお、婚約違反の内容を直接的に尋ねる質問は「指摘」とみなされる。
ルール3. 質問された者は、決して嘘を答えてはならない。後に虚偽が発覚した場合、勝負は取り消しとなり、重大な罰が課される。
ルール4. それぞれの質問の後、婚約違反を「指摘」する権利が与えられる。ルール2のとおり、直接的な質問は「指摘」とみなされる。ただし、指摘内容が誤りだった場合、相手が一度婚約違反を指摘するまで、再び指摘することはできない。
ルール5. 相手の婚約違反の内容を先に正しく指摘した者を勝者とする。
勝ち抜け方式. 男女の人数を同数に保つため、各回終了後、男性・女性それぞれの成績上位半数を次戦進出者とする。各回の順位は以下の基準により決定される。
1. 勝者であること
2. 相手により多くの質問をさせたこと
3. 相手が失格、または棄権した場合、無条件で一位とする。ただし、故意に失格、または棄権させた場合は無条件で最下位となる。
一回戦:エレナ・レーベンタール伯爵令嬢 対 ルーカス・ハイデンベルク男爵令息
これより、両者は婚約したものとみなす。
なお、これは王家からの命令であり、不参加は認められない。
王太子フリードリヒ・アルテンハイム
王女オフィーリア・アルテンハイム
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何なの、これは?
この通達ひとつで、話したこともない男爵家の令息と婚約させられてしまったの? しかも一か月後には、婚約破棄になることが確定している? 自分の婚約違反を理由に婚約破棄された経歴が残ってしまったら、その後はまともな結婚相手を望むことが難しくなってしまうわ……。
王太子と王女の余興に、貴族の婚約が使われるのかしら。
二人は相当に仲が悪いと言われている……。どちらかがより優れた者と結婚できるか勝負でもしようとしているのかしら。
いずれにしても迷惑を被るのは、参加者にさせられた私たち……。
※
一回戦の日は、思ったよりもすぐにやってきた。
一か月前、通知を受けた翌日にルーカス・ハイデンベルク男爵令息は、レーベンタール伯爵邸を訪ねてきた。
「命令とはいえ、婚約させていただきましたので、ご挨拶に伺いました」
ルーカスは笑みを浮かべて私を見た。
それはどこか品のない笑みだった。
「一か月だけとはいえ、このようにお美しい伯爵令嬢と婚約者になれるとは……。男爵家に箔がつくというものでありがたいことです。勝ち進めば、さらに高貴な貴婦人と婚約できて、さらには王女様と婚約できるとは……下級貴族にとってはこの上ない好機です」
話す言葉にまで品がないことに唖然とし、私は返す言葉も失った。
「これは失礼しました。ところで、ゆっくり二人でお話でもいたしませんか? せっかく婚約者になったのですから」
その誘いに、私は悪寒を覚えた。
「つまみ出して」
私はルーカスから目を逸らし、執事と警備兵に命じた。
私はそれ以降、この試合の当日まで、ルーカスとは一度も顔を合わせなかった。
私は、こちらの手のうちを見せる機会を増やすべきではないと考えていた。……というのは言い訳かもしれない。一時的とはいえ、婚約者にされたあの男を私は受け入れられず、ただ顔を合わせたくなかったのだ。
ルーカスのほうはたびたび伯爵邸にやってきたのだが、一切相手にはしなかった。代わりに対応した侍女が、ルーカスに婚約指輪を押し付けられ、私のところに持ってきたが、気持ちが悪くて触りたくもなかった。
一か月の間、私はゆっくりと事態を咀嚼し、少しずつ冷静になってやるべきことを考えたつもりだ。
お父様もお母様も、私がこの理不尽なゲームに巻き込まれたことを嘆いていらしたが、私はすでに立ち向かう決意を固めていた。簡単に負けるつもりはない。もし万が一、王太子殿下と婚約できるのであれば、伯爵家の繁栄も保証されたようなものだ。
王宮の広間で今、私はルーカスと向き合っている。
今までにない奇抜な見せ物を一目見ようと、広間には多くの王侯貴族の観客が集まっていた。
そして私から見て右手側には王太子フリードリヒ殿下、左手側に王女オフィーリア殿下がおり、お二方とも笑みを浮かべて私たちを見ていた。
それは、目の前にいる男爵令息に過ぎないルーカスが浮かべているものと同種の笑みのように見え、私は軽い吐き気を覚えていた。
「では試合を始めろ」
フリードリヒ殿下が突然宣言し、私は一瞬驚いて戸惑ってしまった。
「エレナ様、あなたは、僕と婚約してからの一か月の間に、私以外の男性と二人きりになったことがありますか?」
先手を取られた……。
先に婚約違反を指摘したほうが勝ちである以上、先に質問を始めたほうが、より多くの質問の機会を得られるので、有利になるのに、出遅れてしまった。
「はい」
嘘をつくことは許されない。私が正直にそう答えると、ルーカスは下品な笑みをいっそう大きくした。
次は私の番だ。
「『指摘』します」
私が口を開いた瞬間にルーカスが遮った。
「エレナ様、あなたは浮気をしましたね」
先手必勝というわけね……。最初の質問で婚約違反の内容を確信したということだわ……。
慎重に行くのであれば、何度も質問をして正解の確信を高めていくべきだろうけれど、そうしているうちに逆に当てられたらそれで終わりなのだ。先に最もありそうな婚約違反を探る質問をして、指摘を当てれば絶対に負けることはない。
……とでも考えたのだろう。
「違います」
私は答えた。
「はっ? 他の男と会っていたと言ったではないか? 虚偽の回答は罰せられるのでは……」
ルーカスは狼狽えて、フリードリヒ殿下を見た。
「違うと言っておるだろう」
フリードリヒ殿下は愉快そうにルーカスに告げた。
審判の役割を果たすフリードリヒ殿下には、両者とも事前に婚約違反の内容をすべて伝えているので、ルーカスの指摘が誤っていることをご存じなのだ。
焦り過ぎて「指摘」を誤ると、「指摘」を行う権利を失う。それは限りなく敗北の可能性を高めるのだ。だからこそ、このゲームにおいて、拙速は最も避けるべきことなのだ。
「では私から質問させていただきます。あなたは婚約から一か月の間、私以外の女性と二人きりで会いましたか?」
私は質問を始めた。
じっくりと首を絞めるように、この下衆な男の息の根を止めればいい。私が「指摘」しない限り、決して反撃されることはないのだから。
「はい」
ルーカスの額に汗が滲んでいた。言葉を続ける気配がない。
「あなたの番ですよ」
「うぅ……。二人きりで会った男性に好意を持っていますか?」
「はい」
「だったらなぜ浮気ではないのだ!」
ルーカスが叫んだ。
「おい、今おまえが『指摘』する権利はない。ルールを守れないのであれば、即刻退場……いや、追加で罰を与えるか……」
フリードリヒ殿下の言葉には冷酷な響きがあった。
「罰なら私が考えるわ」
仲が悪いはずのオフィーリア殿下も笑みを浮かべて同調した。
似た者同士でお互いを毛嫌いしているのだろうか。
「も、申し訳ございません。もういたしません」
ルーカスがさらに狼狽えて言った。
「あなたが二人きりで会った女性に、あなたは好意を持っていましたか?」
私は質問を続ける。
「……はい」
ルーカスが消え入りそうな声で答えた。
もう指摘してもいいが、質問はなるべく多く引き出したほうが勝ち抜けの可能性が高まるのに、この有利な状況で焦る必要もない。
ルーカスは次の質問でもまた、私が会った男性についての質問をしてきた。婚約違反といえば、浮気以外の発想ができないのか……。それならば、拙速に先手必勝の策を取ってきた理由も納得がいく。先に質問さえできれば必ず勝てると考えていたのだろう。
「二人きりで会った女性は若い成人女性ですか?」「はい」
「二人きりで会った女性に触れましたか?」「はい」
「その接触は社交上必要なものでしたか?」「いいえ」
ルーカスが「浮気」というひとつの可能性に固執した質問を繰り返す一方、私はしっかりと逃げ道を塞ぐように質問を重ねていった。
「早く『指摘』しろ……」
ルーカスがぽつりと呟いた。
言われなくとも、もう十分だ。
「では指摘します。あなたは私以外の女性と恋愛関係にあり、浮気の婚約違反をしました」
婚約者として認めたくもない男の浮気を指摘するのも複雑な気持ちだったが、この男の顔をもう見ないで済むと考えると、ある種の快感はあった。
「……そのとおりです」
「勝者はエレナ・レーベンタール!」
フリードリヒ殿下が私の勝利を宣言した。
「では婚約を破棄させていただきます」
フリードリヒ殿下に続き、私も宣言した。
この一か月の間の胸のつかえがスッと消えた気がした。
それまで固唾を飲んで見守っていた観客たちも拍手喝采していた。
「ああ、そうそう。私が二人きりでお会いした男性は、私のお父様です」
それを聞いたルーカスは口をぱくぱくさせていた。
「ははは、父親か! やるではないか」
フリードリヒ殿下が愉快そうに笑った。
オフィーリア殿下も扇子で口元を隠して肩を震わせていた。
この方々にとっては、この理不尽なゲームが本当に余興なのだ。
観客からは、「すばらしい婚約破棄だ」「見事だった」などという声も耳に入った。
婚約破棄を讃えるなんて、どうかしている。
※
一回戦の後、王宮から調査官がやってきた。彼らは試合中の質問の回答内容に虚偽がなかったか、申告した婚約違反そのものが本当だったか確認した。
もちろん私の回答も、申告した婚約違反も嘘ではなかった。
私が実行した婚約違反は、ルーカスから押し付けられた婚約指輪を売却したことで、調査官は質店の売却証明書を確認した。あまりの安値に、最初は偽造証明を疑われたが、質店でも確認が取れ、真正な申告であったと認定された。
最初に指輪を渡されたときは、指輪の処分や売却に導くための罠かと疑い、先手を取られて質問されたときは怯えたが、結果を考えるとそうではなかったようだ。そうすると、指輪は安物とはいえ、私とどうにかなろうという下心のためだったのだと想像され、改めて悪寒を覚えた。
それにしても、私が婚約指輪を処分することを想像もしないとは、初戦の相手が程度の低い男でよかった。
こちらが犯す婚約違反の内容は、試合での「守り」の要素として最も重要だ。相手の質問の数を稼ぐためにもわかりにくいものでなければならない。王太子殿下と王女殿下にとっては、試合を面白くするための要素なのであろうけれど。
いずれにせよ、今後はもっとしっかり考えて、相手が想像しにくい婚約違反をすべきだ。場合によっては犯罪すれすれのところまで考える必要がある。
調査官がすべての一回戦の虚偽調査を終えるまで、少し時間がかかった。
一回戦の勝者の中に、虚偽が発覚した者がいたようで、少しその処理に時間を要したようだった。その参加者は失格となったうえ、投獄されたようだ。この理不尽なゲームに巻き込まれた上に、完全に人生を棒に振ることになるとは、同情もするが、明日は我が身ともなりうる。今後、参加者はより虚偽には気を使うことになるだろう。
そうして私は二回戦に進み、エミール・ヴァイスベルク子爵令息との対戦となった。一回戦と同じく、婚約期間中の接触は一切せず、対戦を迎えた。
エミールは、長い質問を繰り出してきた。事前に準備していたのだろう。例えば、「あなたは婚約期間中に、家族も同席していない場で、僕以外の男性と二人きりで会い、その男性は若い成人男性で、社交上必要のない接触をしましたか?」という質問から入ってきたのだ。
一度に多くの情報を詰め込むことで、一発で「指摘」を当てようという戦略なのは明らかだった。実際に「はい」を引き出すことができれば、高い確率で相手の婚約違反の内容に肉薄することができるだろう。最初の質問は「いいえ」だったが、次の質問は危なかった。
「あなたはこの一か月の間、自分以外の男性の家名を使って、本来は違う誰かを夫とし、その者を保証人として借金をしましたか?」
具体的な内容で、直接的な質問に限りなく近いすれすれの質問だった。けれど、私の答えはやはり「いいえ」だった。そして、この質問が勝敗を分けた。
実のところ、この二つ目の質問には一部正しい内容が含まれていたのだけれど、内容を多く盛りすぎていたので一部が誤っているだけでも「いいえ」と答えることができた。
そうすると、次の質問はまったく別の質問になったため、エミールは私が動揺したことに気づかず、何も手がかりを得ていないことを確信した。
それで落ち着いた私は、エミールの質問の中に彼自身の婚約違反があると考えて、短い質問で可能性を狭めていく戦略を取った。
「他の女性と二人きりで会いましたか?」「いいえ」
「実在する女性の名前を、妻として何かの手続きに使いましたか?」「はい」
そこでエミールの表情に動揺が見えた。
「妻の名前を使ったのは、お金に関することですか?」「いいえ」
「妻の名前を使ったのは、土地に関することですか?」「……はい」
「土地の購入に関することですか?」「…………はい」
もういいでしょう。
「『指摘』します。結婚前にもかかわらず、私の名前を使い、妻として土地の共同購入をしました」
エミールが「ぐっ」と声を出し、膝から崩れ落ちた。
「そのとおりです」
勝った……。けれど……まさか私と同じ婚約違反だとは……。また新しい婚約違反を考えなければいけない。
二回戦も勝ち抜き、三回戦はゲルハルト・クラウゼン侯爵令息が相手の婚約者となった。
今までどおり、顔は合わさない方針に変更はないけれど、二回戦では危ない局面もあったため、必死に婚約違反の内容を考えた。
そんなときに、突然ゲルハルト様ではない男性から婚約の申し入れが届いた。その相手は、私も面識のあるユリアン・ベルクマン伯爵令息だった。王太子殿下と王女殿下の戯れのためとはいえ、私は婚約中なのだ。それは一時的に私を混乱させたが、試合のこと以外に考えを巡らせる余裕は私にはなかった。
そして迎えた三回戦だったが、広間に入り、婚約違反の内容が書かれた紙をゲルハルト様がフリードリヒ殿下に提出したところで異変が起きた。
紙に目を通したフリードリヒ殿下が衛兵を呼び、「こいつを捕縛しろ」と言いだしたのだ。
フリードリヒ殿下の命令を受けて、衛兵はゲルハルト様の腕を掴もうとした。
「どういうおつもりですか? 私は勝負に勝つために、ゲームのルールに従ってやるべきことをやっただけです!」
ゲルハルト様は激昂したように怒鳴った。
「ゲームのルールに従ったから犯罪も許せと? そんなことがまかり通るわけがなかろう。しかもおまえのしたことは見当違いも甚だしい。いずれにせよ、おまえの負けだ」
フリードリヒ殿下は冷たい視線をゲルハルト様に向けた。
「この男は、ユリアン・ベルクマンという伯爵令息を誘拐し、拘束している」
「えっ?」
私は驚いて声を上げた。
「ユリアンとやらに無理やりエレナに求婚させて恋敵のように仕立て上げ、その男を誘拐して排除した。それを『婚約者への過剰な嫉妬と束縛』の婚約違反にするつもりだったようだ」
「婚約違反を作るために、誘拐を……?」
私はあまりのことに愕然とした。
「救いようのないバカだな」
フリードリヒ殿下は薄く笑みを浮かべた。
そして、向かい側のオフィーリア殿下が「ふゎ〜っ」と大きなあくびをして言った。
「犯罪で終わりなんてつまらないわね。さっさと次の試合にいきましょう」
確かにゲルハルト様は愚かなことを犯してしまった。無関係な人まで巻き込んで……。けれど、そこまで追い込んだのは、フリードリヒ殿下とオフィーリア殿下ではないのか?
ゲルハルト様は犯罪者として拘束され、試合の続行は不可能だった。私は三回戦を不戦勝となり、無条件での勝ち抜けとなった。
三回戦を終え、32組64名で始まった「婚約破棄トーナメント」は、4組8名にまで絞られていた。
四回戦の相手はアーデルベルト・ローゼンフェルト公爵令息という方だった。ローゼンフェルト公爵家は外務卿の家系で、アーデルベルト様は外国に住まわれていたそうで、どのような人物なのかはよく知られておらず、そのことが私には不気味にも思えた。フリードリヒ殿下はアーデルベルト様とは親しい友人だそうなのだが、そんな友人までこの不条理なゲームに参加させるというのが、私には信じがたかった。
対戦が決まり、婚約が成立してからも、アーデルベルト様からは何の接触もなかった。それでも私はこれまでどおり、婚約違反の内容をしっかりと練り、質問すべきことを考えるだけだった。
四回戦の試合の日はまもなくやってきた。
外国での生活が長いためか、アーデルベルト様にはどこか王都の貴族とは異なる雰囲気を感じた。それでも、フリードリヒ殿下に婚約違反の内容を記した紙を渡すときには親しげに接しており、私はどこか気後れしてしまっていた。
試合が始まり、私は幸先よく先に質問をした。
「私との婚約期間中に、私以外の女性と二人きりで会いましたか?」「いいえ」
アーデルベルト様も同様の質問をしてきて、私も「いいえ」で答え、一回目の質問を終えた。
私は事前に考えていたありえそうな婚約違反に当たりをつけて、次々と質問をしていった。
奇妙なことに、アーデルベルト様は、私の質問と同じ質問を返してきた。私も相手の質問の中から手がかりを得る手法は重要だと考えていたので、相手にそれをされることを想定して対策は考えていた。けれど、その時点で少し嫌な予感がした。ひょっとしたら、先に質問したのは間違いだったか……。いえ、後から質問したところで、大した違いはない……。
私はほどなく、何十も用意していた質問をほとんど使い尽くし、すべて空振りとなってしまった。
やはり……。やられた。
もし、自分の婚約違反がとても難しいものだと自信があるならば、このゲームには圧倒的に有利に戦える戦法があるのだ。
私は自分の婚約違反の手がかりにならないよう、なるべく関係のない内容を出すように努めていた。けれど、ついに質問のアイデアが尽き、他のありとあらゆる可能性が潰えたとき、私は自分の婚約違反に関する質問をするしかなくなる。
そして、それが相手の婚約違反の内容と異なった場合、負けはほぼ確定する。私は何の手がかりも得られず、相手は確実に手がかりを得るのだから。
まだ質問の候補がなくなったわけではない。けれど、どれも私自身の婚約違反の内容に近すぎる。
アーデルベルト様はそれを待っているのだ。それに気づいたときにはもう遅かった。
それでも……もう、その質問に賭けるしかない。
「……あなたは、この婚約期間中、教会に行きましたか?」
「はい」
アーデルベルト様の答えは「はい」。
ついに手がかりを得た……。まさか私と同じ……? 外国に住んでいるアーデルベルト様ならひょっとしたらご存じない風習なのではと考えていたのだけれど……。
「……あなたは、この婚約期間中、教会に行きましたか?」
「はい」
アーデルベルト様も同じ質問をし、私の答えも「はい」だった。
けれど、まだ一問先を行っていて、有利なのは私だ。相手の質問を模倣する戦法は確かに強力だ。けれど、相手に先に「指摘」を当てられてしまえばそれまでだ。
今が勝負のときだ。
「あなたは、教会でご自身の埋葬に関する申請をしましたか?」
「いいえ」
アーデルベルト様の答えは「いいえ」。
そのとき、私の頭は真っ白になった。
焦りが出てしまった。本来はもっとじっくり質問をすべきだった。
「あなたは、教会でご自身の埋葬に関する申請をしましたか?」
「……はい」
その質問への私の答えは「はい」だ。
私はもう何を質問すべきかわからなかった。
「あなたが教会でしたのは、お祈りだけですか?」
「はい」
……負けだ。
教会など、信仰心が深い方ならお祈りにだっていくではないか。そんなものは婚約違反になどならない。
そこでアーデルベルト様は私の質問を真似るのを止めて、私を追い詰める質問を畳みかけてきた。
「死後、ご自身の伯爵家の墓に埋葬されるよう申請をしたのですか」
「……はい」
やはり……外国に住んでいても、アーデルベルト様はこの王国の風習を知っている。
「指摘します。あなたは未来の夫となる私と、違う墓に入るための申請をしました。この王国では、夫と同じ墓に入ることを一方的に拒否することは婚約違反です」
「……そのとおりです」
負けた……。
私はアーデルベルト様の婚約違反の手がかりをひとつもつかめなかった。
完敗だった。
※
四回戦の後、調査官が虚偽の調査のため、私の伯爵邸にやってきた。教会で、埋葬の申請がされていたことも確認済みだった。
四回戦の結果、男性が二人勝ち、女性も二人勝ったということはすでに耳に入っていた。すでに同数である以上、質問の数にかかわらず、私の敗退は決定的だ。
敗退が決まっているうえに、それを確定するための調査に協力するというのが、これほど虚しいことだとは思わなかった。
ところが、調査が終わった後、私のもとに、準決勝進出の知らせが届いた。
ひとりの勝者の女性の婚約違反内容に虚偽があり、失格となったそうだ。ここまで来て、どうしても負けられないからと、嘘をついてしまったのだろうか。
いずれにせよ、私は準決勝に進むことになったのだが、その対戦相手にも驚いた。
相手はラファエル・ブラウンシュタイン侯爵令息——私の幼馴染だ。そして、私の初恋の相手でもあった。
まさかラファエル様もこのトーナメントに巻き込まれていたとは……。
私は、自らラファエル様に会いにいくことにした。
今まではこの不条理な婚約破棄トーナメントを生き延びることしか考えていなかった。けれど、ラファエル様には好意こそあれ、恨みなど何もない。
私は本来は敗退すべきだったのだ。話し合って、場合によっては試合をせずに勝ちを譲るつもりだった。
ラファエル様はとても頭の良い方だということもよくわかっている。だからこそ、このトーナメントも勝ち抜き、準決勝まで来たのだ。試合をしたところで、私が勝てるとも思わなかった。
「僕も君を訪ねようと思っていたのだ」
ラファエル様はそう仰った。
昔から変わらない、優しい微笑みを私に向けた。
「なぜこんなことに巻き込まれてしまったんだろうね」
ラファエル様はため息をついた。
「本当に、理不尽に過ぎます」
私も言った。
「まったくだ。……まさか君が対戦相手になるとは思わなかった。これまではまったく知らない女性ばかりで、申し訳なく思いながらも、勝たせてもらった。僕は僕で、婚約違反の烙印を押されたくはなかった。そうなればまともな縁談もできなくなって、好きな人と自由に結ばれる権利を失うに等しいから」
「……好きな人というのは、オフィーリア殿下のことですか?」
「まさか、そんなわけがないだろう。あの兄妹は狂っている」
「じゃあ……」
「実を言うとね、僕はずっと君のことが好きだったんだ」
私はその言葉に驚いた。
「君と対戦が決まった以上、もう君と結ばれることも難しいだろう」
「私は、棄権します」
やはり、私はラファエル様と戦うことはできない。向かい合ってわかった。
しばらくお顔を合わせていなかったので、今の自分の気持ちがわかっていなかったのだけれど、いざ顔を合わせると、私もまだ昔のようにこの方が好きだとはっきりわかった。
それは、少し意外でもあったのだけれど、私の不幸よりも、この方の幸せを望みたいと思うほどに。
「だめだ」
ラファエル様は言った。
「戦うのだ」
その訪問の数日後、ラファエル様が試合を棄権したとの知らせがあった。
私はその知らせを受けたとき、何が起きたのかわからなかった。
けれど、私と同じように、ラファエル様も自分が負けることよりも、私の幸せを優先するため——私を棄権させないために「戦うのだ」と言ったのだということはすぐに理解した。
ずるい、と思った。
これでは、私のためにラファエル様が犠牲になってしまったことを、一生忘れられないではないか。
私は無条件で決勝戦に進むことになった。
決勝戦は女性一名と男性一名の戦いになる。私が女性側の決勝戦進出を決めた時点で、もう一方の準決勝から進出できるのは男性だけになった。そのため、もう一組の準決勝は試合そのものが中止となった。
対戦予定だった女性は特別措置で、婚約の円満解消という扱いになった。それでも優勝して王家との婚姻の機会は、戦わずして失われたのだ。その女性はラファエル様を恨むかもしれない。
そして、男性側の決勝進出者は、アーデルベルト様だった。
私が四回戦で完敗した相手との再戦だった。
※
決勝戦を迎えるにあたって、私はすぐに自分がするべき婚約違反を決めていた。
アーデルベルト様が前回と同じ戦法を取るのであれば、こちらの婚約違反が何であれ大差はない。
それよりも、相手が自信を持っている婚約違反が何なのか探ることに時間を費やすべきだと考えていた。
そして、決勝戦の日を迎えた。
王宮の広間には、今までにないほど多くの王侯貴族の人々が集まっていた。
私はきっとすでに有名人になっているだろう。勝てば、王太子殿下との婚約権だけでなく、大きな名声も手にできるかもしれない。
王太子フリードリヒ殿下と王女オフィーリア殿下は、私と対戦相手のアーデルベルト様を立って迎え入れてくださった。
今日で、この二人が企画した理不尽な茶番が終わるのだ。
先に口を開いたのは、オフィーリア殿下だった。
「お二人ともよくここまでたどり着いたわね。今日は最高に面白い試合を期待しているわ」
そう……。オフィーリア殿下が期待しているのは、試合を楽しむことだけなのでしょう。負けた貴族の運命などどうでもいいのね。いえ、ひょっとしたら敗者の無惨なその後も含めて楽しんでいらっしゃるのかしら。
「これは女と男の戦いよ。女が勝てば溜飲が下がるし、負けても公爵家のご子息と婚約できるのなら、私も満足だわ。でも、お兄様のお相手は伯爵家のご息女よ。どちらにしても、この婚約破棄トーナメントの勝者は、お兄様ではなく、私で決まりね」
オフィーリア殿下は私たちから顔を背け、フリードリヒ殿下に向けてそう言った。
「ほざいていろ」
フリードリヒ殿下がそれだけ返した。
「おまえらはさっさと試合の準備をしろ。皆が待っている」
そう言ったフリードリヒ殿下は、私を見てうっすらと笑みを浮かべた気がした。
すでにこの先の勝敗を知っていて、殿下が私と結婚することはない、と言っているように思えた。
私は「ほざいていろ」というように視線を返した。
「では試合を始めろ」
フリードリヒ殿下が開始を宣言した。
けれど、私も、アーデルベルト様も口を開かなかった。
やはり、アーデルベルト様は四回戦と同じ戦法を取るつもりね。
「どうした、質問を始めないのか? 決勝戦だから慎重になるのはわかるが、始めないのなら俺が質問者を指名するぞ」
「けっこうです。私が質問します」
私はフリードリヒ殿下を遮った。
最初に質問をするのは、今回も私だ。
覚悟を決めて、小さく息を吸った。
「『真実の愛』を信じますか?」
広間がざわめいた。
わかっている。このゲームにおいて、「信じている」などという曖昧な質問はあまり意味をなさない。嘘のつきようがない、事実を尋ねるような質問でなければ、嘘をついたところでその真偽を確かめる方法もない。
アーデルベルト様も戸惑って即答もできないようだった。
「……『はい』か『いいえ』では答えるのが難しいですね」
「質問自体は不適切なものではない。答えるのだ」
フリードリヒ殿下がアーデルベルト様に告げた。
「……では、いいえ」
そう、あなたは「真実の愛」を知らないのね。でしたら、遠慮なく勝たせていただくわ。
「あなたは、真実の愛を信じているのですか?」
アーデルベルト様も同じ質問をした。
私は笑みを浮かべて、はっきりと答えた。
「はい」
それが私の答え。私は「真実の愛」を信じている。だから、負けない。
私は、次の質問をするため、フリードリヒ殿下に顔を向けた。
「フリードリヒ殿下に質問です。ルールを再確認しましたが、質問先は、対戦相手に限定されておりませんでした」
広間が騒然とする。中には私を非難する声もあった。
それはそうだ。私はルールの穴を突こうとしているのだから。
「俺は答えを知っているのだ。常識的に考えて許可できるわけがなかろう」
その答えも想定していた。けれど、たとえ答えを知っているフリードリヒ殿下やオフィーリア殿下に対してであっても、このゲームにおいて、対戦相手以外への質問はそれほど有効ではない。
「ルールでは、答えを直接聞くことはできません。ですから、その答えを引き出す質問はできません。それに、答えだけを知っているフリードリヒ殿下よりも、アーデルベルト様のほうが関連する多くの正確な情報をご存じのはずです。私がフリードリヒ殿下に質問することで有利になることはありません」
「いいじゃないの。やらせなさいよ。それとも何かやましいことでもあるの?」
私を擁護したのはオフィーリア殿下だ。
これも想定内だ。フリードリヒ殿下が渋れば、オフィーリア殿下がフリードリヒ殿下を責める。
「ふん、いいだろう。構わん」
「ありがとうございます。ではフリードリヒ殿下にお伺いします。殿下は、アーデルベルト様の本当のご身分をご存じですね?」
「ああ、もちろんだ」
フリードリヒ殿下は即答した。けれど、私はその目に動揺が浮かんだのをはっきり見てとった。フリードリヒ殿下も、私が何かに気づいていることはわかったはずだ。
「何を当たり前のことを聞いているのよ。期待していたのに」
オフィーリア殿下が私を責めた。
私は誰にも聞こえないように「ほざいていろ」と小さく呟いた。
「アーデルベルト様、ご質問をどうぞ」
私はアーデルベルト様に促した。
もちろん、もう私と同じ質問はしてこないだろう。
「あなたは、私との婚約期間中に、二人きりで私以外の男性と会いましたか?」
「いいえ」
そうだろう。私が信じる「真実の愛」は、アーデルベルト様との間のものではないのだから、別の男性と恋に落ち、浮気をしていると考えるのは自然なはずだ。
けれど、私がしていることは、浮気どころの話ではない。アーデルベルト様はもう私の術中にはまってしまっている。
「では、またフリードリヒ殿下にお伺いします」
私は再びフリードリヒ殿下のほうを向いた。
「ここにいらっしゃるアーデルベルト様は、幼少期から外国で暮らしていましたか?」
「貴様!」
フリードリヒ殿下が私を怒鳴った。
「正直に答えていただかなければ、罰を与えられるのでは?」
「何なの? どういうこと?」
オフィーリア殿下が嬉しそうに尋ねてくる。
「お兄様、答えなさいよ」
「ふざけるな。俺がルールだ。答えん!」
その様子を見て、私は思わず吹き出してしまった。
「ふふふ。正直にお答えいただいてありがとうございます。そんな反応を見せていただいたら、どう考えても『いいえ』ではないですか」
「何だと?」
フリードリヒ殿下が私を睨んだ。
それを無視し、私はアーデルベルト様を見つめた。
「指摘します。アーデルベルト様、あなたはローゼンフェルト公爵令息ではないにもかかわらず、その身分を偽ったまま私と婚約し、婚約中もその身分を偽り続けました」
広間は静まりかえった。
アーデルベルト様は、虚を突かれたように固まっていた。
「……」
「どうなのですか?」
「……そのとおりです」
そう。貴族が出場することが前提の「婚約破棄トーナメント」で、身分を偽ることなどできるはずもない。それが盲点となり、誰もアーデルベルト様の婚約違反に近づくことすらできなかった。
けれど、私は四回戦で、子どもの頃から外国に住んでいるアーデルベルト様が、王国の風習を迷いもせずに言い当てたことに何か違和感を覚えていた。そこで、この一か月の間にアーデルベルト様のことを調べると、アーデルベルト様は王国ではなく、まだ外国にいらっしゃることがわかったのだ。
けれど、アーデルベルト様は幼少の頃から外国に長く住まれていて顔を知る者は少ない。だからこそ、身代わりを疑われないよう、フリードリヒ殿下がその身分を保証するかのように親しく接していらしたのだ。
つまり……。
「フリードリヒ殿下の指示でご参加されていたのですよね? あなたはローゼンフェルト公爵家で働いていらっしゃる方かもしれませんが、アーデルベルト様ご本人でもないですし、ひょっとしたら貴族でもないのでは?」
「……はい。すべて、そのとおりです」
アーデルベルト様が小声で答えた。
私の完勝だ。
「何ですって!? 平民が紛れ込んでいたっていうの!?」
その声を上げたのはオフィーリア殿下だ。
「ふざけないで! お兄様、まさか私を平民などと結婚させようとしたの? この娘が負けていたら私はどうなっていたの?」
そのオフィーリア殿下を見て、フリードリヒ殿下は笑った。
「ははは。この娘のせいで、勝負には負けたが、おまえのその焦った顔を見られただけで、満足だ。エレナ・レーベンタール、おまえの勝ちだ。なかなか楽しませてもらった。優勝だ。望みどおり、婚約してやろう。まあ、見た目も悪くない。正妃にするとは言えんが、側妃であればよいだろう」
「はっ? 私がいつフリードリヒ殿下との婚約を望んでいるなどと申しましたか? そんなものは願い下げです。優勝は辞退いたしますので、アーデルベルト様にお譲りします」
私は軽蔑の視線をフリードリヒ殿下に向けた。
「何だと、貴様!」
「何を言っているのよ!」
フリードリヒ殿下とオフィーリア殿下が怒りをあらわにして同時に叫んだ。
「私は、アーデルベルト様との婚約中に、ラファエル・ブラウンシュタイン様に婚約を申し込み、ラファエル様も受諾してくださいました。アーデルベルト様との婚約中に別の男性と婚約を結ぶ——これが私の婚約違反です。そして、フリードリヒ殿下との婚約をお断りするにもじゅうぶんな理由になりますよね?」
そう言って私は笑みを浮かべた。
「フリードリヒ殿下のお望みどおり、オフィーリア殿下が平民の方と結婚することになるではないですか。フリードリヒ殿下にも、ラファエル様と婚約中の私に婚約を申し込むという汚点が残ってしまいましたね。しかもご自身の主催したトーナメントで、平民を公爵令息と偽らせて出場させ、ほとんど八百長のようなこともされるとは……」
「貴様、言わせておけば!」
「私は『真実の愛』を見つけましたので、何を言われようと動じません」
※
事の顛末は、国王ハインリヒ陛下に報告され、フリードリヒ殿下とオフィーリア殿下は重い処分を受けることになるようだ。
ハインリヒ陛下は、お二人のやっていることを知りながら黙認していたのだけれど、フリードリヒ殿下が国王の承認も取らずに勝手に婚姻を進めようとし、オフィーリア殿下が平民と婚約するという報告を受けて激昂したそうだ。
さすがに、おイタが過ぎたというところだろうか。
国王陛下にも、今まで何をしていたのだと問いたい。自分に火の粉が飛んでくるまで、ただの見世物として許していたのだろうけれど、この「婚約破棄トーナメント」を通じてどれだけの貴族が迷惑を被ったのかおわかりなのだろうか。今後は王家内の横暴をしっかり監督してほしいところだ。
とはいえ、もう私には過ぎたことだった。むしろ、あの理不尽な「婚約破棄トーナメント」を生き延びたことで、幸せをつかんだのだ。
目の前には愛するラファエル様がいらっしゃる。
「しかし、いいのかい、エレナ? 僕のような婚約違反者と婚約だなんて……」
「何を仰るのですか。理不尽な『婚約破棄トーナメント』での婚約違反ですし、そもそも、私を守るための婚約違反ではないですか。私がラファエル様を愛する理由になりこそすれ、拒絶する理由になどなり得ません」
「そうか……。ありがとう」
「お礼を言うのは私のほうです。それに婚約違反がなければ、ブラウンシュタイン侯爵家も、レーベンタール伯爵家との婚姻をすんなりとは許してくださらなかったのではないですか? 私にとってはすべてがうまく回ったのです」
それを聞いて、ラファエル様が小さく微笑んだ。
「結局、誰からの指図でもなく、勝敗もない、普通の婚約が一番尊いのだと思うよ」
私もラファエル様に微笑みを返した。
「もう婚約破棄の理由は二度と作りませんから、きちんと結婚してくださいね」
私がそう言うと、ラファエル様が私の手を取って頷いた。
「ああ。もちろんだ」
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