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「狩人たちだと?」


 ドンッと机を叩いて男は怒りを表した。

そこは歓楽街にあるビルの一室だった。

手下か使っていた廃ビルは目の付かない場所だから選んだだけであって、彼はそんなところにいるのは真っ平だった。


 彼自身は快適なマンションに住み、一応人として暮らしている。


 食料狩りなど面倒なことは手下にやらせ、当然のようにメインディッシュは頂く。

それが許されるくらい男は仲間内で一番強かったのだ。


「おめおめと此処まで来たというのか!」


「で、でも頭!」


「そうだよ、腕っ節の強い奴らが全部やられたら俺たち何も出来ないよ」


「わざわざ此処まで来やがったのは馬鹿か?」


 狩人など連れて来たら当然戦う羽目になる。

なんて面倒なことだ。

此処まで折角上手くやってきたというのに!


「死ねばよかっただろうが、そのまま」


「酷いじゃねえか、頭! 俺たちを見捨てるのかよ?!」


「今までいい思いさせてやって来たんだ、こんな時くらい役立てよな?」


 男はそう言い、手下の一人の首を捻じり上げた。


「ぐがが……」


「有生界で顔しか取り柄ねえお前らが生き延びられたのは俺のお陰だろうがよ」


「頭、ひでえよ」


 自分たちが信頼していたはずのかしらと呼ばれた男は冷徹に対応してくる。

これではまるで前門に虎を拒ぎ後門に狼を進む、そのものではないか!


 多少のインテリ知識のある手下の一人はそう思ったが、それは間違いではなかった。


「この間だって活きのいい女、連れてきたじゃねえか! あんた、独り占めしたくせに何だよ?!」


「んー、そりゃ俺は強いんだから当然だろう? てめえらは俺の言うとおりにしてりゃいいんだよ」


 悪びれもせずそう言い放ち、男は嗤った。

次いで首を掴んでいた奴を投げ捨て、唾を吐く。


「ったく、役立たずだよ」


「頭!」


「いいか、今からそいつら倒してこい。お前らがいなくなりゃ狩人どもも満足だろうよ」


 それは死んでこいと同義語であり、とんでもない命令だった。


「俺に殺されるよか、マシだろ?」


 下品な笑い顔をし、手下を見下ろす。

馬鹿のようにデカい体躯は伊達ではなく強かった。

だからその場にいた誰もが己の死を覚悟するしかない。


「おら、さっさと行け。俺は此処を後にするわ」


 ケチの付いた場所に長居は無用だと彼は知っていた。

そしてこの程度の手下なら直ぐ集められることもだ。


 仲間意識なんて端からありはしない。


 所詮、弱肉強食。

それが掟だ。


 そんなことも分からねえ馬鹿どもが。


 彼がそんな悪態を付いていると、嫌な気配を感じた。


「仲間割れはよくないよ」


 涼しげな声がした。

男にとっては耳障りでしかない音だ。


「どうせ行き着く先は同じなんだからさ」


 次の瞬間、手下たちが血飛沫を上げて倒れていく。

断末魔さえないほどあっと言う間の出来事だった。


「な、何だ、てめえら! もしかしてお前らが?!」


「ご明察だねえ」


 まるで揶揄うような口調でかえってくる言葉に男は怒りを覚えたと同時に驚いてもいた。


 こんな餓鬼どもがあいつらを倒しただと?


 そう、彼の前に現れたのはどう見ても若い男女である。

だが、馬鹿ではない彼は気が付いてはいた。

目前の彼らが普通の人間ではないことを。


「うちの三下が世話になったらしいなああ」


「いやいや、お世話なんてしてないけどね、ゴミにお帰り頂いた程度で」


 航は煽ることを止めない。

この手の手合いは煽るに限ると理解しているからだ。

そして煽るのは彼の役目。

妖紅では難しい。


 よく次から次へと言葉が出るものだと感心してその様子を妖紅は眺めていた。

同時に部屋の様子を見てみる。


 一見は綺麗だが、死臭が纏わり付いていた。

此処で()()をしていたのだろうことは推察出来る。


 それは航も同じだった。


 恐らくは行方知れずになってしまったものたちの遺品がまるで戦利品のように並べられている。

この男の趣味なのだろうが、胸くそ悪いことこの上ない。


「お前もだからあいつらの元に行ってやりなよ? 今直ぐ送ってやるから」


 血塗れている爪を構えつつ、航は冷たい眼で男を見遣った。

彼の中には怒りが湧いており、それは失われてしまったものたちへの哀悼でもある。


 妖紅は航の様子に驚きはしたものの、同胞の死を前にすればこんな風になるのも当然なのだろうと理解した。


 実際問題、この男は妖界では有生界に来る前は弱い妖魔を食らっていたのだ。

言わば共食いを平気で行える悪食だった。


 だからこそ妖紅が討伐に選ばれたと言ってもいい。

尤も残念ながらこの程度の妖魔は少なくはない。

強くなればいい、それだけを考えているものだからこそこんな暴挙が出来るのだ。


「お前は己がためなら他のものを何とも思っていない外道だ」


「てめえ、妖魔だな? 人間どもと手を組むたあ、それこそ外道じゃねえか」


 妖紅が何者かに気が付いて、さも気分が悪そうに男は言った。

はぐれものたちからすれば人間は餌、妖魔も餌、そうして彼らを害そうとするものは全部敵である。


 そもそも強いものが弱いものを蹂躙して何が問題だというのか。


 故に決して分かり合えるはずもない。


「若造どもに俺が倒せるとでも?」


 小馬鹿にしたように男が言い、せせら笑った。

彼は自信があったのだ。

此処まで生き延びてきた、生き抜いてきたのだから。


「倒すよ」


「倒す」


 異口同音に航と妖紅はそう宣言し、戦闘態勢に一気に入る。

先ほどの戦闘でもそうだったが、初めてとは思えないほどに二人は息があっているように見えた。


 航が右へ向かえば、妖紅は左に向かい、彼の手下を鮮やかに一瞬で屠っていった。

今度も同じように動き、当然相手が違うので戦い方は変化し、より研ぎ澄まされていく。


 最初、男は二人を舐めていた。

何しろ彼らがあっと言う間に倒したのは男にとっていざという食料であった雑魚どもだ。


 だから別段、手下どもが倒されても不思議は無かった。


 全く露払いにもならねえと寧ろ苛ついたほどだ。


 不甲斐ないからやられた、その程度の理解だった。


 だが、実戦となって彼は思い知る、それが浅はかだったことを。


 抉り来る爪、切り裂く刀、何れも素早く、且つ適確な攻撃的だった。

彼を倒すために遠慮の欠片もない。


 それも二人同時に違う攻撃方法でやって来るのだから堪らない。


「くっ」


 男は思わず後退っていた。

そんなことはいつくらいにしただろうか。


 彼は有生界に来てから今まで負け知らずだった。

それなのにどうしてこんなにも押されているのだ?


 男は体術を得意としているらしく主体の爪だけではなく、蹴りなども当然のように加わっている。

その勢いたるや、人なのかと疑いたくなる。


 女は剣技に集約されてはいるが、動きがしなやかで掴みづらい。

太刀筋も一筋縄ではいかず、避けるので精一杯だった。


 知らず知らずのうちに男は追いやられていく。

しかも圧倒的に不利な状況になっていたのだ。


 このままでは負けると思った男は最後の手段に出ることにした。

人間体から妖魔に戻るとそれなりに代償が必要となるが、こいつらを倒した後でまた餌を食えばいい。


 おお、そうだ、何ならこいつらを食ったらいいんじゃないか!


 それはとても良い考えに思えた。


 そうと決まれば窮屈な姿はおさらばだ!


 男は己の箍を外していく。

この世界はご馳走で満ちているが、唯一の欠点がこの体だった。

人に合わせている以上、ある程度の妥協はしないとならず、常々苦々しく感じていたのだ。


 そうして男の体は野獣のように変化していく。

全身が毛むくじゃらで、有生界で言うならば巨大な猿と言ったところだろうか。


 ただその姿はやはり異形だ。

手が四本もあり、牙も鋭く(らん)(ぐい)()となって生えている。


 唸り、二人を威嚇してきていた。


「流石はDランクか。それも野獣系。確かにそれなりには強いようだ。お山の上の大将ではあるがね」


 変化を黙って見ていた航はふうとため息を吐いて、そう言った。

妖魔はランク以外にも幾つかの分類があり、その一つが野獣系と呼ばれる。

文字通り獣に近い妖魔だ。


「お山の大将? 何だ、それは?」


 妖紅はまたもや初めて聞く言葉に疑問を抱くが、当然そんな問いに答える暇はない。


「後で教えるよ、今はあいつを倒す方が優先」


「相分かった」


 そうして二人で挑むが、流石に体格差が大きい。


 先ほどまでヒットしていた攻撃が明らかに精彩を欠いている。

相手の四本の腕がそれを加速させていた。


 それぞれが意志を持つかのようにバラバラの動きを見せるのだ。


 避けても避けても次の腕が攻撃を仕掛けてくる状態になり、やがてそれは狡猾さを増して幾度目かの攻撃で航に思い切り拳がヒットした。


 当然のように吹っ飛び、壁に激突して航は項垂れる。


「航!」


 殴られてもそこまで堪えていないようだが、唇からは血が流れており、その衝撃の凄まじさを語る。


 妖魔はその様子に大喜びであり、次の攻撃をすべく航の方へと向かって言った。

一先ず一人ずつ倒すと決めたらしい。


 壁に向かって突進し、航の息の根を止めるべく己が腕を振り下ろす。

相も変わらず四本の腕は異なる動きをしながら彼を狙い行く。

一つは首を絞めるために、一つは腕をへし折るために、一つは頭を潰すために、一つは足をもぐためにと。


 が、動けないと踏んでいた相手は捕まえたと思った瞬間、消えていた。


 妖紅が咄嗟に航を庇い、二人毎床を転がっていたのだ。


「こりゃどーも」


「あんなの受けては人間のお前では一溜まりもないだろう」


 幾ら即席のパートナーとは言え、いきなり目の前で死なれては気分も悪い。


「まあね。だけど最初に僕を助けなくていいって言ったんだけどな」


「一時だろうとも組んだ相手だろう? そんな薄情な真似は出来ない」


「律儀だねえ」


 その心根は本来は有り難いものだ。

そして悪くないと何処かで思っている自分がいた。


「さて、あいつはかなり固いね」


「そのようだ。無駄に強固な筋肉が多いのだろう」


 実際、妖紅の方も現在の状態では敵を貫くことすら難しいと感じていた。


 その時、二人の横で衝撃のせいでカランと何かが落ちる音がする。

航が見遣ればそれは女性が化粧用で使うコンパクトだった。

妖魔が戦利品と置いていたものの一つだろう。


 床には衝撃で蓋が開いて鏡が見えた。


 鏡!


 それは航にとって有り難いものだった。


「少し、いや、色々足りないけど、今回なら十分だろう。一気に片を付けたいから」


「航?」


「悪い。妖紅、下がっていて」


「え、ああ」


 何をするつもりなのだろうと思い、一旦攻撃を止めて下がる。


 それを確認してから航はサッと床のコンパクトを拾い上げ、それを新月の光に当てた。

次いで呪を唱えていく。


「我、望みたり。我、真を呼び、偽りを呼ぶ。偽りの月光よ、我のために顕現せよ、()(げつ)!」


 航の言葉に応えるように一瞬の暗闇が支配したかと思うと、先ほどまで細かった月がみるみる丸みを帯びていく。


 気が付けばそこには満月――が存在した。

有り得ない光景ではあったが、そんなことを気にする隙は与えない。


「此処からは僕のターンだよ、覚悟してね」


 航はそう言い、血を拭った。

と同時に彼の姿が変化していく。

髪が伸び、まるで(たてがみ)のように靡いた。


「偽月よ、解放せよ、我が力、我が姿を」


 彼の言葉に応えるようにして全身が青色を帯びてゆき、深い深い藍色の眼で相手を()めつける。


 その間にも航の口には牙が現れ、人ならぬ耳へと変化していた。

それでも彼という形を残していたので航であることは分かる。


「変化が十分じゃないのは仕方ないが、今日はこれでいいだろう」


「てメエは化け物じゃネエか!」


 人語を失いつつあるのか、それとも本来の話し方なのかは分からないが、ともあれ妖魔はそう叫んでいた。


 少し強いばかりの単なる人間だと思っていたのに、あまりに予想外だったからだ。

こんなに翻弄されるとは夢にも思わず、更なる悪夢に曝される羽目に陥っていた。


「さて、誉め言葉だね」


 航はそう言うと直ぐさま動き出す。

鋭い爪は更に鋭くなり、破壊力を増していく。

先ほどまで押されていたのが嘘のように押し返していた。


 相手のスピードは格段に上がり、体格が大きい分だけ動きがどうしても鈍くなる男は焦りを覚えた。


 航の体は月光に照らされて青色に輝き、何処にいるかなど一目瞭然だというのに男の方はそれを利用することすら出来ない。


 妖紅も支援が出来ることがないかを考え倦ねるも下手に動く方が航の邪魔になると理解したため、一先ず臨戦態勢を維持しつつその場で待機することにした。


 少し彼の戦いを見てみたい、そんな思惑もあったが。


 暫くすると航が一方的に押している状態になっていた。

妖魔の四本の手もまるで相手にならない。

個別で動いているというのにそれを全て読み切られてしまうのだ。


 そうなれば力押しで今まで勝ってきた彼に打つ手はほぼなくなる。


 こんなはずはない、こんなわけはない。


 そう思うのに焦りだけが妖魔をどんどん支配していく。


「見えた――」


 そんな中、航が一言呟いた。


 何を見たというのだと問おうとする前に目の前の青年が笑っているのが分かった。


 その笑みで妖魔は理解する。

己の最大の危機が訪れたことを。


 どんな手を使ったのかは全く把握出来ないが、目の前の奴が彼の弱点を見抜いたのだ。


 妖魔の弱点は一点だけではなく、二点あった。

即ちそれは首筋、そして心臓そのもの。


 しかもそれを同時に狙う必要があった。


 だから彼は死なずに此処まで来たのだ。

どちらか一方を狙われてもさして困ることもなかった。


 それなのに――!


「妖紅! 奴の首筋を!!」


「承知!」


 何故航がそう命じたのかを問うことはしない。

どういう理由であれ、敵の弱点を看破したのだろう。

ならばそれに従うのみ。


「我が刃よ、燃えて燃えよ! 目前の敵を塵と化せ!!」


 妖紅の言葉に応えるようにして刀身が焔となって揺らいだ。


(えん)(ざん)っ!」


 焔の光が一線を描き、厚く太い妖魔の首をまるで紙を切り落とすかのように軽々と切り落としゆく。

恐らく切られた方は痛みすら感じる間が無かったのかもしれない。

そのくらい早かった。


(げっ)(そう)(らん)()っ!」


 次いで航の爪先が円形のように軌跡を描き、まるで幾重の月のように妖魔の体を抉る。

真っ直ぐに彼の心臓の元に向かい、それを握り潰した。


 妖紅が妖魔の首筋を完全に切り落とし、航がその心臓を妖魔から引きずり出していく。


 二人の同時の攻撃に妖魔はなす術も無かった。

折角、妖魔に戻ったというのに、だ。


 そうして今更に痛みを感じ出したのか、既に身は分かたれているというのに妖魔は暴れ出す。

それは当に往生際が悪いの一言に尽きた。


「ぐがぁああああっ!!」


 激しい断末魔が響くが、もう足掻くことすら出来ない。

彼の弱点をあまりにも適確に突いてきたのだ。

そんな真似が出来るとは一切思わなかった。


 彼が生き延びてきた理由の一つであったのに!


「まあ、此処で会ったが運の尽きってね」


 航は軽口を叩き、妖魔が漸く倒れるのを見る。

妖紅が切り裂いた首は綺麗に体と離れており、切り口には焔がまだ残っていた。


「お見事」


 航はそう言い、拍手を送る。


「このくらいは何でもない」


 妖紅は褒められたことに何故か心が落ち着かない思いがした。


「お前こそ、しかしよく分かったな」


「まあ、鼻が利くんでね」


 嘘は言っていない。

事実そうなのだから。


「そうか、それは羨ましい限りだ」


 それは皮肉ではなく、彼女の本心らしいことは理解した。


「さて、仕事は完了だね」


「そのようだ」


 ふと見遣れば月はもう先ほどの新月に戻っており、闇夜に支配された部屋を頼りなく照らすのだった。


「先ほどまではあんなに光っていたのに」


「もう直ぐ普通の新月になるさ」


 航がそう言うが早いか、新月は限りなく細く微細な光を放つのみとなった。


「あいつらが来るだろう。撤収しよう」


「報告はいいのか?」


「そんなの後でいいよ」


 妖紅がふと気が付けば、航の姿は戻っていた。


「お前の姿……」


「本来は新月だからまあ、こんなものだね」


 そう嘯き、航は軽く髪の毛を整えた。


「お前は月で左右されるのか?」


 力の詮索はしても彼の正体については突っ込んでは来ないらしい。

そこは意外だなと航は思った。


「まあ、そんなところかな」


「月がなければどうするんだ」


 有生界の月は満ち欠けをすると聞いている。

つまりそれに左右される力は不安定ではないか?


 もっともな疑問を投げかけると航は少し考えてからふっと微笑って答えた。


「そうだねえ、それなら水があればまあ何とかなるよ」


「水?」


 全くさっきのことと結びつかないことを言うと思う。


「そのうち分かるよ」


 まだ組むというのならねと心の中で付け加えた。


「しかしお前は能力的には普通の人間ではないらしい」


 妖紅はちらりと航を見遣り、そう言う。

それは決して嫌味ではなくて本当にそう思ったから言葉にしているだけのようだった。


「そうだね、そうかも」


「だいだいだ、変化する人間などそうそういない」


「希にはいるってことだよ」


 茶化すように航は笑い、それ以上は続けないという態度を見せた。


 実際問題、彼の中には呪われた血がある。

そうとしか言われたことしか無かった。

だが、妖紅はそこに突っ込んでは来ない。


 それは彼にとって好感の持てることだった。


「……そういうことにしておこう。私も言えた義理はないからな。だが、お前が弱くないことだけは理解した」


 今はそれで十分だと妖紅が続ければ、航は何となく礼を言いたくなった。


「ん、有り難う」


 そう、お互い、今はこれで十分なのだ。

そもそもこの先ずっと組む相手かも分からないが、兎に角、まだ相棒なのだから。


「ところで妖紅は人のご飯は食えるの?」


 あれだけの大立ち回りだ、腹も減ろうというもの。


「食えるが」


「何か好みあるの?」


「そうだな、ぱんけーきと言ったか? あれは嫌いじゃない」


「パンケーキか。ファミレスならあるかな」


「それなら知っている。食べ物が沢山ある店だ」


「うーん、大まか間違っていないけど。まあ、いいか」


 細かいことだ。

気にしなくてもいい。


「一先ずホテルにでも行こう。汚れ落とさないと店にも行けない」


「ふむ、確かに」


 二人の所属する組織の息のかかったホテルだ。

だからぼろぼろだろうが、傷だらけだろうが問題は無い。


 会話が弾んでいるのか弾んでいないのか分からないまま、二人は歩いて行く。



 ――今日は生き残れた。

明日は分からない。


 それが狩人たちの宿命。


 それでも航は歩き出してしまったからもう止まれない。

この先に何が待っていたとしても。



最後まで読んでいただいて有り難うございました。


こちらのお話は同人誌にて発行しております。本の形で見たい方は是非お手に取っていただければ幸いです。

螺旋の月BOOTH

https://spiral-moon.booth.pm/items/6609643

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